長期的には逆効果な広告施策も
Shirofuneの事業のコアは、広告運用に精通した人間の技を再現するアルゴリズム構築だ。広告運用自動化のために必要な機能、その機能を作動させる仕組みを、一人の担当者が企画しコーディングまで行う。同社の代表取締役である菊池氏も、自らプログラムやアルゴリズムの改善に携わっているという。
「当社が提供する『Shirofune』は、広告運用自動化ツールの市場で90%以上のシェアを占め、国内の大半の大手広告代理店で採用されています。現在は海外進出にも取り組んでおり、2024年に米国に子会社を設立しました。現地の大手ECサイトで導入されるなど、少しずつ実績が増えています」
そんな同社が広告運用において重視するのがLTVだ。菊池氏は、本セッションのテーマが「単発ROAS運用からLTV運用への進化」だと語り、それぞれの違いをこう説明した。
「単発ROAS運用とは、広告効果を新規顧客と既存顧客の区別なく単発の購入のROASで評価し、最大化する手法です。一方のLTV運用は、新規顧客と既存顧客を区別し、獲得した新規顧客のうちどの程度がリピート顧客になっているかまで踏まえて、広告効果を測定する考え方を指します」
単発ROASと比較して、各広告経由のLTVを算出するには多くの工数がかかる。そのため、短期間のROASを日々改善しながら、広告運用をしている企業も多いのではないだろうか。しかし、菊池氏は「単発ROAS運用を続けると結果的に損をする」と指摘し、具体的な課題を四つ挙げた。一つ目が、投資した広告費をどの程度回収できているのか不透明な点だ。
「単発の購入のみを指標にしていると、広告から流入した新規顧客が継続的に自社の売上に貢献しているかを把握できません。広告投資のボリュームを最適化するには、広告費の回収率をLTVにもとづいて正確に測定する必要があります」
二つ目の課題は、広告から流入した新規顧客と既存顧客の割合が把握できない点にある。
「多くの広告費を投資しても、流入したのが既存顧客ばかりだと事業拡大につながりませんよね。新規顧客の流入数を増やすために、どの媒体でどのような広告を配信すれば良いか、具体的な改善ポイントが見えないのも課題といえるでしょう」
また、短期的に効果があるように見える広告施策が、長期的には逆効果となるケースもある。これが、単発ROAS運用の三つ目の課題だ。
「短期間で新規顧客を増やすために、顧客をあおるような強い表現を使用した広告が多く見られます。しかし、内容が商品やサービスの実態と異なる場合、広告から流入した顧客は『もう1度購入しよう』とは思わないはずです。継続的に事業成長するには、LTVを意識して訴求内容を検討する必要があります」
そして、菊池氏は四つ目の課題として「LTVで広告効果を測定している企業でも、多くの場合は粒度と頻度が不十分」と指摘する。
「一定額以上の広告投資をしている企業では、LTVを分析しているケースも多いです。しかし、各キャンペーンや各クリエイティブのデータまで、可視化できているでしょうか。また、それらを毎日確認できる状態でしょうか。日予算の調整やクリエイティブの差し替えなど、日々の広告運用を行う際にLTVのデータを加味できていない場合、ROASは改善の余地がある状態だといえます」
実測に時間がかかるLTV 日々の広告運用で活用するには?
では、EC事業者はLTV運用によって、どのような状態を目指せば良いのだろうか。菊池氏は、定期購入型ECと単発購入型EC双方の視点でこう説明する。
「定期購入型ECでは、まずサンプルの使用やトライアルキットの購入から、どの程度の新規顧客が本商品を購入しているかを見ます。その後、同じ顧客が一定期間でどの程度リピート購入しているかを分析する流れです。一方、購入者に既存顧客が多く含まれる単発購入型ECの場合は、購入者の新規/既存判定を行いながら、新規顧客に絞ってリピート購入の回数を確認します」
ここで「一定期間が経過しなければわからないLTVを、日々の広告運用に活用できるのか」と疑問を抱く人もいるだろう。菊池氏は「過去実績から予測が可能」と話す。
「同じキャンペーンの過去実績から、どの程度LTVが伸びるか予測できます。そのデータを用いて算出した『予測LTV』を、日々の広告運用の指標とすることで、長期的視点のLTVを、日々の短期的な広告改善にも活用できます」
こうしたLTV運用のポイントを解説すると、菊池氏は「Shirofune」を導入して広告運用を改善した成功事例を二つ紹介した。
新規顧客にフォーカス 半年で収益が広告費の1.5倍に
一つ目が、パーツ・部品をEC販売する企業の事例だ。同社は以前、広告からの流入のうち、新規顧客と既存顧客の割合が把握できておらず、広告効果を正確に測定できていなかった。そこで「Shirofune」を導入し、LTV運用に取り組み始めたという。
「Google アナリティクスのアトリビューション分析からわかる各媒体・キャンペーンの効果と、ECカートの顧客データを連携し、新規顧客の動きにフォーカスする体制を整えました。その結果、広告からの流入の多くが既存顧客であり、新規顧客の割合は23%ほどであると判明したのです。また、広告配信していた媒体Aと媒体Bのうち、媒体Aのほうが新規顧客のROASが高く、LTVも伸びているとわかりました」
同社では、媒体Aへの予算配分を増やし、新規顧客へのアプローチを強化。その結果、LTV運用を開始してから3ヵ月で広告費の100%を回収できた。さらに、半年後には広告費の1.5倍の収益を得られている。
手作業の分析を自動化 LTV効率の可視化も実現
もう一つの事例である健康食品通販企業は元々、広告効果の測定ツールから得られたデータと、ECカートに蓄積された新規顧客のデータを照らし合わせ、新規顧客のCPAを算出するなど、できる限りの細かな分析を行っていた。しかし、スプレッドシートでデータを管理していたことが、分析の工数増加やミスを誘発。また、工数負担の大きさからLTVの算出までは行えず、新規CPAの分析がキャンペーン単位にとどまっているなど、粒度が粗い点も課題だった。この状況を改善するため同社が実施したのが、「Shirofune」を通じた集計の自動化と予測LTVの算出だ。
「結果的に、手動でデータ集計する工数を削減でき、スムーズにLTVの把握が可能となりました。現状の広告配信では、8ヵ月後に広告費の90%が回収できているとわかっています。広告グループ以下の粒度で細かく広告予算を最適化できるようになり、成果の改善も見られます」
複雑な分析をシンプルに まずはLTV運用の環境を整えよう
続いて、菊池氏は「LTV運用を実現するために必要な環境」を解説した。まず、定期購入型ECの場合は、次の二つのデータをそろえる必要がある。
- 流入元のパラメータごとに獲得した顧客データ
- 「トライアルキット購入済」などといった、各顧客のステータス
また、単発購入型ECでは次のようなデータの取得が求められる。
- 流入元のパラメータごとに獲得した注文データ
- 各注文の顧客データと売上データ
- 顧客IDの作成日(新規顧客か既存顧客かの判定を補助するため)
こうしたデータを取得できる環境が整ったら、パラメータの種類や、媒体・キャンペーン・広告への割り当てを管理するマスタを作成する。そして、マスタをベースに媒体別、キャンペーン別、媒体×日別、キャンペーン×日別などと、様々な切り口での集計を繰り返すという。
「この作業を毎日行いつつ、日々の広告予算の調整やクリエイティブのPDCAを回すには、多くの工数がかかります。実現不可能に近いといえるでしょう。『Shirofune』を活用すれば、LTV運用に必要なパラメータマスタの作成やデータの連携・統合を自動で行えます。単発ROAS運用と同様の手軽さでLTV運用できるのが、大きな強みです」
「Shirofune」は、APIを通じてGoogle 広告やYahoo!広告といった広告プラットフォームや、Shopify、ecforceなどのカートと連携できる。その際にポイントとなるのが「柔軟性」「プライバシーセーフ」「短リードタイム」「即効性」の4点だ。
「『Shirofune』のデータ連携では、CSVのメール送付やクラウドへのファイルアップ、そのほかの方法で柔軟にデータをやり取りできます。その際、メールアドレスといった個人情報を必要としないため、プライバシー保護の観点でも安心です。また、必要なデータがそろっていれば、1~2週間でデータを連携できます。Shopifyの場合は、即日のデータ連携が可能です。過去データを取り込むことでLTVの予測値を算出できるため、すぐにLTV運用を始められるメリットもあります」
ここまで菊池氏が説明すると、最後に視聴者から「顧客ごとに計測・予測されるLTVを、どのように各広告に紐づけているのか」という質問が投げかけられた。これに対して、菊池氏は次のように回答しセッションを終えた。
「データ集計は顧客IDごとに行いますが、それらをまとめた上でどの広告から流入しているかを分析します。『このキャンペーンやクリエイティブから流入した人は、大体この程度までLTVが伸びる』といった具合です。細かい粒度でパラメータを割り当てているほど、より深く分析できます。当社がLTV運用をサポートしますので、ぜひお問い合わせください」