はじめに
こんにちは、運営堂の森野誠之です。EC運営って、いわゆるウェブマーケティングがメインの話になりがちですが、事業である以上、会計の数字なども知っておかないといけないですよね。
ところが、EC関連書籍に会計について書かれていることは少なく、勉強する機会も少ないのが実情ではないでしょうか。今回は、EC運営や経営、事業承継の経験をもち、現在は講演漫談家として活動する吉村正裕氏に、ECをやるなら知っておきたい会計や経営の基礎知識についてお聞きしました。
安易なEC参入ラッシュから苦境の時代へ この数年を振り返る
森野 今回は吉村さんに、EC事業の運営や会計について、様々なお話をうかがいたいと思います。まずは、最近の活動について簡単に教えていただけますか?
吉村 年間およそ120ヵ所で、ビジネスについての講演を行っています。以前は「EC運営」をテーマにすることが多かったのですが、最近はDX、事業承継、中小企業の危機管理、老舗企業の経営法、事業再構築、創業塾など、扱うテーマは幅広いです。主に、全国の公的機関が主催するセミナーで講演を行うことが多いですね。

森野 経営全般のことを幅広く、という感じですね。最初に「EC事業の現状と課題」から教えてください。
吉村 EC業界にいる人であれば必ず見たことがある次の図を見せながら説明しようと思います。経済産業省が毎年発表している「ECの市場規模」と「EC化率」がわかるデータです。

吉村 図を見ると、EC市場は長年成長を続けていますが、特に2019年から2023年にかけて急激に拡大しました。コロナ禍によるEC特需が大きな要因です。
2019年に6.76%だったEC化率は9.38%に、市場規模はおよそ1.5倍となっていますが、急成長を後押ししたのが、物販系ECの市場拡大です。従来実店舗のみで営業していた小売店や飲食店、さらには卸業者や製造業者までもが2020年以降にEC参入し、数にすると2.2倍にまで増加したといわれています。
森野 多くの人が「ECやらなきゃ!」と動いたタイミングでしたよね。しかし、世の中の人がECに慣れていく一方で、企業側が対応に追いつかないケースも多かったように感じます。
吉村 「コロナ特需」といえる状況も終わり、EC市場の成長ペースそのものも落ち着いてきました。それと同時に需給バランスが崩れ、競争は激化しています。
店舗数が増えることで消費者の選択肢は広がりましたが、大手企業の本格参入も進み、今や中小企業の先行者利益は薄れています。差をつけるには、単に商品を売るだけではなく、店舗や商品のコンセプトを明確にしなければなりません。SNS活用や広告費の投入など、マーケティングの重要性も増しているのが現状です。
森野 市場が盛り上がると大手が入り込んできますし、今の時代はオリジナル商品を作っても海外勢などによる模倣の恐れもあります。売れて脚光を浴びても、なかなか面倒なことも多いですよね。
吉村 海外情勢の影響から、原料価格や物流費の高騰も著しいです。ただでさえ、価格転嫁の難しさに直面しているところで、中小企業は人件費の高騰にも悩まされています。給与を上げても人材の確保が難しく、人手不足と経費増から逃れられません。
コロナ特需に乗っかって安易な気持ちで参入した企業は、こうした厳しい現実と向き合いきれず離脱するケースも増えています。これからEC事業を継続させるには「出店して終わり」ではなく、「戦略的な事業運営ができるか」が鍵となります。