暗黙の了解や常識に立ち向かう 元鈴木さんが服に大きなポケットを作るワケ
ゴシック・ロリータファッションなど趣味性が高いスタイルや、ブライダルインナーといった特別なシチュエーションで着用するイメージがかつては強かったコルセット。海外製で値が張り、一般顧客が手に取りにくい状況を踏まえ「高品質で下着のように着れる日本製コルセットを作りたい」と一念発起し、2016年に自ら理想のコルセット作りに挑んだのが、元鈴木さんだ。
「大学卒業後、フリーターやイベントコンパニオンを経て美容ライターの仕事をしていたのですが、アパレル・EC運営の経験はない状態でした。きっかけは、当時執筆した海外製のコルセットについての記事です。
これが大きな話題となり、記事を読んでコルセットを初購入してくれた方もたくさんいたのですが、クラシカルなファッション用コルセットは『長時間つけていると痛い』『苦しい』といった声が多数寄せられました。『確かにそうだよな』と思い、日本製でランジェリーとしても成立する高品質かつ機能性の高いコルセットを開発してみようと思ったんです」

とはいえ「社長になりたいわけではなかった」と語る元鈴木さん。2017年にAlyoを設立した理由は「友人から『法人にしないと税金が大変だよ』と聞いたから」。当然、経営に関する予備知識もない状態だ。当時の貯金200万円を資本金として準備したが、初回のコルセット発注でほとんど使い切ってしまったという。
「『日本製の質の高いコルセットを作る』と決めていましたが、手に取ってもらいやすい『高すぎない価格』も重要だと考えました。すると原価率が必然的に上がるので、売れたら売れただけ次の量産ができる状態でもないことに気づいたんです。そこで、コルセットを作るための資金作りとして、セレクトアパレルを展開することにしました」
「コルセットに合うファッション」をコンセプトに、海外の様々な商品を買い付けては販売していた元鈴木さん。しかし、買い付けを続けるうちに「もっとこういうデザインがあったら良いのに」と、なかなかこの世に存在しない型やデザインを追い求めるようになっていったそうだ。
「SNSなどで、お客様からも『ここがこうだったら良いのに』といった意見をいただいていたので『ないものは作れば良い』と思い立ちました。そこで最初に作ったのが、大容量ポケット(マジカルポケット)付きのヴァージニースカートです」
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同商品は、レディースアパレルが展開するボトムスの「ポケットが小さい(ない)問題」に大きな反響をもたらした。今では、元鈴木さんが展開するアパレルブランド「SERPENTINA」「CINEMATIQ」のほとんどの商品にマジカルポケットが存在するほどだ。
「『女性は男性と比べて荷物が多い』とよくいわれがちですが、男性向けのデニムのポケットにはスマートフォンや財布が収納できる一方で、女性向けにはフェイクポケットや小さなポケットしかないなど、外的要因も大きいです。
大手や歴史のある企業にも素晴らしいところはありますが、意思決定層に女性がほぼいない、『アパレルの常識はこうだから』と考えが凝り固まっている部分もあるのではないでしょうか。私は当事者の女性として、その暗黙の了解や常識をくつがえしたいと思っています」