世代間で存在する「世界観」の認識のズレ
──近年「世界観」という言葉が広く使われています。若者のいう「世界観」とは、何を指すのでしょうか。
小々馬教授 Z世代以下と、それより上の世代で「世界観」という言葉に対する認識は違います。以前は、ブランドのフィロソフィーを言語化、抽象化、グラフィック化したものを「世界観」と呼んでいました。消費者は、そのブランドの世界観とつながりたいという想いを、商品の“所有”によって表現していたのです。
それに対して、今の20代は“自分が好きな物事を伝えるもの”を世界観と考えているようです。わかりやすい例が、SNSなどでやり取りする画像の背景です。自分の好きな雰囲気や色合いを表現し、共感する人とつながっていく。商品の所有や具体的な何かではなく“ゆるい空気感”に心地良さを感じるため、世界“感”だと捉えているのでしょう。
一方で、α世代の場合は世界観を抽象的な考えではなく知人とつながる具体的な“場所”と捉える傾向があります。オンライン上で集まってゲームをするといった経験が豊富だからだと考えられます。こうしたZ世代とα世代の違いも、徐々に顕著になっていくはずです。
──なぜ、このような認識の違いが生まれるのですか。
小々馬教授 繰り返しになりますが、Z世代が“ゆるくつながる心地良さ”を求めるからです。例を出して説明します。
以前、私がZ世代100人に好きなブランドを聞いたところ、20~30個ほど名前が挙がりました。ところが、突出して人気なブランドはなかなか出てきません。その上、6割ほどは「特に好きなブランドはない」と回答するのです。
「なんとなく好きなブランドはある。でも、どのブランドともそこまで強くつながっていない」というニュアンスですね。ブランドが自分を表現するツールではないからでしょう。
Z・α世代ともに、コアなファンが集まっている場所に入るのにハードルを感じています。自社ECサイトに会員登録したくない、所属したくないと考える人も少なくありません。ただし、程良いつながりを期待して「少し覗いてみたい」という気持ちは持っています。そういった層の存在にブランド側が気づかずに寄り添いすぎて、かえって距離が生まれるのはもったいないです。
もちろん、LTVは重要な指標だといえます。LTVの高いコア顧客を定義し、特別なアプローチを行うブランドもありますよね。しかし、それだけでは少数の顧客だけに絞られてしまいます。
新たな商品や情報があふれた現代において、実はこだわりが強いロイヤル顧客でも競合商品を併用する人が多く、ブランドスイッチが起こりやすいのが現状です。コア顧客だけに集中するのではなく、ゆるくつながるライトな顧客層も形成し、ブランドユーザー全体のLTVを管理する考え方が必要ではないでしょうか。
──ブランドに求められる世界観の定義が変わりつつあるとはいえ、コンセプトやフィロソフィーは重要ですよね。
小々馬教授 旧来型のブランドは、フィロソフィーや提供価値をアピールし「この価値観を受容する人は来てください」といったアプローチ方法をとっていました。しかし、こうした呼びかけの吸引力は弱くなっています。
現代の若者は、誰もが良いと思っているブランドを安心して使いたい気持ちを強く持っています。言いかえれば、誰も持っていないユニークなモノを求めているわけではないのです。
そのため、ブランドの想いや信念を軸として持ちながらも、伝え方を変えたほうが良いでしょう。「私たちのスタンスは、あなたの興味や考え方と同じですよ」と共通点の発見を促し、共感する人のつながりを拡大するのが重要です。
そこから、ブランドの考え方を知り応援してくれる人を増やしていく。つまり、消費者がブランドや商品を自分の興味や好きと照らし合わせて思い出せる機会「カテゴリーエントリーポイント(CEP)」を増やすことが、思いをつなげていくマーケティング・コミュニケーションの第一歩といえます。