価格設定がそもそも収益ベースになっていないケースとは
また、意外に見落とされがちなのが価格設定(プライシング)の重要性です。
EC・通販ビジネスを運営するためには、売り物となる製品以外にも多様な設備が必要です。受注・決済・梱包・配送……。こういったインフラ費用が発生するため、粗利益でそれらを充当した上で、さらに十分な広告販促費用が回収できるだけの利幅設定が必要になります。
しかし、価格を安く設定するあまり、事業として成り立っていないような例も大手企業において見かけることもあります。
たとえば、2,000円程度の製品を毎月定期便でお届けしているようなケースがありますが、製品原価以外にも通販インフラの諸経費だけで1,000円以上はかかります。これではいくらリピートが続いても、営業利益はほとんど残りません。当然、初期の集客コストの捻出は無理だろうと考えるのが自然です。
こうしたリピートビジネスの構造を踏まえたうえで、実務の運営にあたっていくわけですが、その際、効率よく進めるためのポイントと、それを表す指標にはどんなものがあるのでしょうか?一緒に考えてみましょう。
リピートまで通貫した収益構造を明らかにするポイントは
「3つの効率」
EC・通販事業は、結果だけではなく途中のプロセスなど、あらゆる行動を数値として把握することが可能です。その結果、様々なステータスを表す指標が、KPIとして設定されています。
代表的なKPIとしては、広告費総額を獲得人数で割り返して広告効果を測るCPR(Cost Per Response)やCPA(Cost Per Acquisition)、CPO(Cost Per Order)のほか、リピート化の効率を図るリピート引上率、定期引上率や顧客残存率、月内アクティブ回転率などがあります。
しかし、事業規模が大きくなり分業化が推進されると、狭い範囲での“重要”指標がどんどんと増えていきます。数値として表れてしまうだけにどれもこれも気になってしまうのですが、事業全体をみれば、収益構造は大きく3つの効率に集約されます。
それが「新規集客の効率」「リピート引上の効率」「リピート定着の効率」です。この3つの効率をおさえれば、リピート通販の収益構造を明確にシミュレーションすることができます。順を追って詳しく見ていきましょう。
1)新規集客の効率
広告などを通して、新規購入客をいかに多く、かつコストをかけずに集めることができたか。これを計測するための指標はふたつのタイプに分けられます。
ひとつは、広告を通してメッセージがちゃんと響いているのかを見るタイプ。リーチに対する反応の数で計ります。
新聞広告や折込といったペーパーメディアなら、配布枚数あたりの購入件数を見る「レスポンス率」。PC・スマホなら広告表示回数あたりのクリック件数を見る「CTR(Click Through Rate)」、LPとクリック数に対する最終的な購入件数を見る「CVR(Conversion Rate)」などです。これらは業界全体で広く浸透しており、日常的に触れている方が多いでしょう。
もうひとつは、広告費に対して、直接的にどの程度の投資対効果があったかを見るタイプです。たとえば、広告からの注文総額をその媒体費総額で割った「MR(Media Ration)」や「ROAS(Return On Advertising Spend)」があります。
実は先述した顧客1件当たりの獲得広告コストを示すCPRやCPA、CPOなどは、媒体単価の変動が少ないものであれば、レスポンスの良し悪しと投資対効果は同時に把握することができます。しかし、新聞本紙の掲載枠やオンラインのリスティング広告、アドネットワークなどは媒体単価の変動が激しいため、たとえCPRは同じでもレスポンスの良し悪しはまるで違う、ということがあるので要注意です。
事業拡大に向けた投資判断を行うのであれば、前者のリーチに対する反応は確度が高く、拡大が見込みやすいのですが、変動しやすい広告単価が含まれるものは、都度判断が必要となります。この特性を把握しないまま、判断しないように注意してください。