購買行動の変化とともに、ブランド・メーカー直販型ECが拡大
大衆に向けた商品企画・開発を行い、大量生産・大量消費が一般的であった時代から、消費ニーズの多様化・細分化に対応し得るパーソナライズが重視される時代へと変化している現代。ブランド・メーカーには、個々の消費者の好みに合わせた商品・体験構築が求められるようになっている。そこで何より重要となるのが、「顕在・潜在顧客を含む消費者とのコミュニケーション」だと山崎氏は指摘する。
「パーソナライズのためにコミュニケーションの重要性が増していることは間違いありませんが、そもそも消費者とのコミュニケーションなくしてパーソナライズは実現できません。両者は切り離せない要素と言えます」(山崎氏)
中でもとくに意識すべきは、「1990年代後半以降に生まれたZ世代の存在」だと言う。Z世代の中でも上の年代はすでに20代中盤、マーケティングにおいて消費意欲が高いとされるF1層・M1層でもあり、消費のメイン層になりつつある。
「家や自動車などの高額商品はまだ上の世代がメイン層ですが、アパレルの分野などではZ世代の持つ影響力は非常に大きくなっています」(山崎氏)
デジタルネイティブと言われるZ世代には、幼い頃からスマートフォンが身近にあったという人も多い。いつでもどこでも情報収集やコミュニケーションができる環境に慣れ親しむ同世代は、必然的に情報感度が高く、商品の目利きにも長けた消費者となる。また、購買行動においては、「上の世代よりもCXを重視する傾向がある」と山崎氏は説明する。
「デジタルファーストで、購入時のスピードや利便性への要求が高い点もZ世代の特徴です。CustomerThinkの記事によると、Z世代の60%は『4時間以上インターネットから遮断されると不快に感じる』と言います。ECサイト利用時に、仮に5分でもダウンタイムがあれば『利便性が低く使えない』と判断されてしまうでしょう」(山崎氏)
とくにアパレル分野では、すでに消費者の購買行動に大きな変化が現れている。ここで山崎氏は、アパレルEC購買に関するデータを紹介した。
各種アパレルECの利用経験は、集客力の高いECモールが80%ともっとも多いが、次いで「メーカー直販EC」の利用経験者が51%と半数以上を記録している。利用意向者が23%いることや、D2CブランドECの利用経験者・利用意向者の存在を踏まえると、ブランド・メーカー直販型ECはECモールを上回っている可能性すらある。
「従来の商流は、リテール企業経由での販売が大部分を占めていました。もちろん今後それがなくなることはありませんが、消費ニーズの多様化とともにブランド・メーカー直販型ECの数も増え、EC業界全体が大きく変化しつつあります。システムやツールの進化によって、ブランド・メーカーがECに取り組むハードルが下がってきたことも大きな要因でしょう」(山崎氏)
消費者が企業よりもデジタルに詳しい時代 レビュー、Q&Aで生の声に耳を傾ける
ブランド・メーカーが直販型ECに取り組む上で、認識すべき課題として山崎氏が挙げたのは「カスタマーサポート」と「消費者に学ぶこと」のふたつだ。山崎氏は、商品に不具合などが生じた際のサポート体制を例に説明を進める。
「日々消費者と接するリテール企業は、対応に慣れており消費者へ親切に対応する傾向がありますが、ブランド・メーカーはこれまで直接消費者と接する機会が少なく、サポート体制・ハンディキャップを理解する経験値不足がサービス品質に大きく影響しています。解決策としては消費者理解を深めるためにカスタマーサポートを充実させ、できるかぎり生の声に耳を傾けることです」(山崎氏)
とくにデジタルネイティブなZ世代の消費者は、ECを含めたITの利活用に関して、ブランド・メーカーより深い知識を持つことも多い。これからの時代は、ブランド・メーカーが一方的に商品・サービスを提供するのではなく、彼らから謙虚に学ぶ姿勢も重要となる。山崎氏は「それがCX向上への取り組みの第一歩となる」と続ける。
いずれにせよ、これからのブランド・メーカーに欠かせないのが「消費者とのコミュニケーション」だ。その手段として有効なのが、「レビュー」と「Q&A」だと山崎氏は言う。すでにレビューを取り入れているECサイトも多く存在し、「レビューがある商品は、ない商品よりも270%購入確率が高まる」という海外の調査データもあるほどだ。
たとえば洋服のサイズ感などは、自分と体型が近い人による「Mサイズはやや大きめ」といったレビューがあれば、よりリアルなイメージを持ちやすい。購入検討中の消費者にとって有用であるのはもちろんながら、ブランド・メーカーにとっても消費者の生の声を得る貴重な機会となる。
レビューには消費者の本音が表れるため、ネガティブな内容が書き込まれることもある。しかし、ブランド・メーカーはそれらも含めてCX向上のために有益な情報であることを理解し、「恐れず、隠さずに受け入れること」が重要だと山崎氏は指摘する。
続いて山崎氏は、「レビューのコミュニケーションをさらに発展させたものがQ&A」だと話す。レビューはブランド・メーカーから生の声を伝えることもできるが、基本的には商品を購入した消費者からほかの消費者に対して情報発信する一方通行のコミュニケーションである。これに対して、双方向のコミュニケーションを実現できるのがQ&Aだ。
Q&Aは、購入検討段階の消費者が投げかけた質問に対し、該当商品を購入した消費者や、ブランド・メーカーの担当者や店舗スタッフなどが回答する。これにより、消費者は事前に自分の知りたい情報を得た上で、購入の判断ができる。
Q&Aの有効性を示す事例として、山崎氏はアメリカのシューズブランド「SKECHERS(スケッチャーズ)」を紹介した。同ブランドでは、消費者から寄せられた質問に対して、製品ページへのリンクを付与したフォローアップメールを送ったところ、3時間以内にメールを受け取った消費者のCVRが51%を記録したと言う。
「レビューやQ&Aが生み出す最大の価値は、『購入前の理解度・納得感を高めること』です。これはCX向上のための最大のポイントとも言えます」(山崎氏)
レビュー・Q&Aが店舗での情報収集にも協力 OMO推進で購入機会を創出
「レビューやQ&Aは、店舗でも重要な意味を持つ」と山崎氏は続ける。同氏は「店舗でのショッピングを楽しみたい」という回答が80%となる一方で、「なるべくオンラインショッピングを利用したい」と75%が答えるZ世代に向けた調査データを提示した。一見すると相反する回答内容だが、このふたつは決して矛盾しているわけではないと言う。
「Z世代の消費者は、当たり前のように店舗でもECを使います。店舗とECが組織として分断している企業もまだまだ見受けられますが、CX向上、そして機会損失を防ぐ意味でも、両者を連携したOMOへの取り組みは必須となります」(山崎氏)
想定されるZ世代の購買行動パターンとしては、次のとおりだ。たとえば、書店の棚で気になる書籍を見つけた際、まずAmazonでレビューを検索する。レビューの評価が高く購入したいと思った場合、目の前に書籍があるにもかかわらず、そのままAmazonで購入まで済ませてしまうケースもあるだろう。これは書店にとって大きな機会損失となる。商材にかぎらず、EC・店舗での情報提供やそれぞれの連携が不十分だと、このような状況に陥りやすい。
「消費者が店舗で商品を見て購入を検討する際、同時にスマートフォンで検索・情報収集を行うケースも少なくありません。店舗を運営するブランド・メーカーはその段階から積極的に協力し、ECで購入する場合も自社が持つチャネルでのコンバージョンにつなげる必要があります。そのためには、EC内のレビューやQ&Aを充実させるほか、店舗滞在時にECへスムーズにアクセスできる環境の整備などが挙げられます。レビューやQ&Aを含めたECの完成度が、実店舗での購買行動をも大きく左右する。こうした認識をしっかりと持ちましょう」(山崎氏)
最後に山崎氏は、ZETAが提供するレビュー・口コミ・Q&Aエンジン「ZETA VOICE」を活用して、独自のコミュニケーションサービス「商品Q&A」を開発したアダストリアの事例を紹介した。消費者同士が質問・回答を行うことができる同サービスは、アダストリアのスマートフォンアプリ「.st」に導入され、サービス開始から3ヵ月で3万件以上の回答が投稿されている。こうしたコミュニケーションの場を提供することが消費者の納得・理解を生むことにつながり、結果としてブランド・メーカーに持続的な成長をもたらす。
「かつて、日本の一部のビジネスでは『マーケティングでその気にさせて買わせる』といった風潮もありましたが、それは古き悪しき時代の話です。これからは、EC・店舗を問わず、購入前の段階でいかに納得、理解いただけるかを真摯に考えていかなければなりません。そのためのコミュニケーションをどうするか、レビューやQ&Aをどう活用するか、興味を持たれた方はぜひご相談ください」(山崎氏)
▼ZETAが提供するECマーケティング・リテールDXを支援するソリューション「ZETA CX シリーズ」の資料はこちらよりダウンロードいただけます。