「健全ではない」と感じていた ブランディング×セールスマーケを両立させる困難さ
2018年に設立されたヘラルボニーは、障害のある作家が描いた個性豊かなアートを通じて、社会に新たな文化の創出を目指すクリエイティブカンパニーだ。これまで、アート作品のIPビジネスや自社ブランド「HERALBONY」の運営、他企業との共創など、様々な事業に取り組んでいる。
同社は近年、ルイ・ヴィトンやクリスチャン・ディオールを傘下にもつLVMHが設立したスタートアップ向け成長支援プログラム「LVMH Innovation Award 2024」で日本企業初のカテゴリ賞を受賞したり、岩手・盛岡に旗艦店、東京・銀座に常設店舗をオープンしたりと、ビジネスの幅を着実に拡大。そんな中、さらなるブランドの飛躍を目指すため、2024年7月よりマーケティング人材の採用や組織体制の強化に着手している。
「従来は、まだまだスタートアップということもあり、お客様との関係を深めるためのブランドマーケティングと、売上拡大を目指すセールスマーケティングの双方を私を含む一つのチームで担っていましたが、『ブランド価値の向上』と『売上向上』はKPIが大きく異なりますし、様々な施策を同時に走らせなければならず、常にジレンマが生じていました。『これは健全ではないな』と感じていたので、大屋の入社はまさに渡りに船でした」(海野氏)

大屋氏は、かねてよりHERALBONYの商品を頻繁に購入していた、いわゆる“ロイヤルカスタマー”だ。事業会社と代理店双方でのマーケティング経験を生かし、入社後はeコマースを含むリテール横断型のマーケティング戦略策定に加え、商品・サービス開発に役立つ定量・定性データの整備、分析、共有など、ブランドをさらに飛躍させるための業務に従事している。
「最初は“EC店長”としてオファーをいただいたのですが、入社前の面談でやりたいことを聞かれ、『HERALBONYを世の中にさらに広げるため、プロダクトとコミュニケーションにより一貫性をもたせられるようなマーケティング戦略にも将来的に携わりたい』と伝えたところ、入社時にどちらもできるようなチームが立ち上がっていて驚きました。組織課題と私のやりたいことがマッチしたとはいえ、入社直後に複数ミッションを任せてくれるとは、『人の可能性に賭けてくれる組織なんだな』と感動したのをよく覚えています」(大屋氏)
現在、海野氏が率いるブランドコミュニケーションチームは計4名、大屋氏が率いるマーケティング&オンラインセールスチームは計3名でそれぞれのミッション達成に向けた施策に取り組んでいる。
前者は、HERALBONYらしい独自性のあるコンテンツを用いて思想・哲学を伝え、さらなる顧客基盤拡大を実現すべく、商品・販促ビジュアルの撮影、動画・バナー制作といったブランドの見せ方のコントロールに加え、オウンドメディアやSNSの運営を実施。後者はKGIとして売上を、KPIとしてセッション数やCVRを見つつ、自社ECの企画・運営やデジタル広告運用、顧客理解を深めるためのデプスインタビューなども手がけているという。
「マーケティング用語の『AIDMA』の前半部分、『Attention(注意)』『Interest(関心)』『Desire(欲求)』をブランドコミュニケーションチームが、『Desire(欲求)』から先の『Memory(記憶)』『Action(行動)』をマーケティング&オンラインセールスチームが推進していると考えるとわかりやすいかもしれません」(海野氏)
「ありがたいことに近年加速度的に成長しているHERALBONYですが、代表の松田(崇弥氏・文登氏)はより大きな夢を描いています。両チームがタッグを組まなければその実現は困難なため、日々協力しながらそれぞれの業務を進めています」(大屋氏)