購買プロセスの「認知」に作用する多言語化 テクノロジー活用が鍵に
前出した課題を解決し、スムーズに多言語・越境販売に対応したECサイトを構築するにはどうしたらいいのか。秦氏は「テクノロジーの活用が鍵になる」と語る。
テクノロジーの進化により、自社が抱える課題をピンポイントに解決できるソリューションが多く登場している近年。従来は決済や翻訳、サイト分析などの基本的な機能がすべて盛り込まれた横断・標準型のサービスが越境EC対応時の主な選択肢となっていたが、現在はカート、購入代行、マーケティング、物流、カスタマーサポート、翻訳など専門領域に特化した高機能なサービスが多数存在している。また、それぞれの連携がスムーズになっている点もポイントだ。
とりわけ越境ECに欠かせないのは、Wovn Technologiesの領域でもある「翻訳」だ。秦氏は「言葉は購買プロセスの上部、すなわち認知に作用する部分だからこそ重要」と説明した上でこのように続ける。
「良い商品を用意し、良いサイトを作成して、どんなに決済・配送などを整えても、『認知』を高めない限り顧客は入って来ません。入り口となるWebサイトの多言語化を進め、まず見てもらうことが大切です」(秦氏)
多くの人が母国語で情報を入手したいと考えていることは数字でも明らかになっている。EUの調査機関「Eurobarometer」が行ったアンケート結果によると、インターネットユーザーの19%は「Webサイトを外国語で閲覧したことがない」と答え、10人中9人は「選択肢が与えられた際はいつでも母国語でWebサイトを訪問」、42%は「Webサイトでは母国語以外で商品購入をしたことがない」と回答していると言う。
「EUは、世界でもっとも多様な民族や言語、宗教が存在する地域のひとつです。EU以外の国や地域では、さらに母国語以外のWebサイトからものを購入することに抵抗があるはずです。越境ECにとって多言語化は非常に重要な要素のひとつと言えます」(秦氏)
しかしながら、多言語化には複数の課題が存在する。まず挙げられるのは、初期開発のコストや手間の問題だ。ECサイトはとくに、商品ページやマイページ、カート、決済、動的コンテンツ、SNS、サイト内検索など、さまざまなページ・機能が搭載されている。多言語化を行う際も単なる翻訳のみならず、カルチャライズ、デザインやレイアウトの変換、システム要件の領域でも変更が必要となり、当然ながら言語が増えればこれらも増えていく。実際に制作会社に見積もり依頼したケースでは、3言語対応で初期費用が1,000万円以上と提示されたケースもあったと言う。
また、開発だけでなく、運用においても注意すべきポイントは多い。外国人戦略・海外SEOなどの「戦略領域」、外国人に受け入れられるコンテンツやコピーライティングなどの「クリエイティブ領域」、クリエイティブデザインや法規制・商習慣に適応した「現地法・法令遵守」といった項目が存在するが、秦氏は「ECサイトは更新性が高く、従来の方法では多くのリソースとコストが必要」と語る。
そして、何より大きいのが人材の問題だ。多くの専門人材を必要とする多言語サイト構築をすべて自社で対応するのは、ハードルが非常に高い。翻訳するだけでなく、Webサイトとして形にするためのエンジニアや案件を束ねるプロジェクトマネージャーも必要となる。