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前編では、BtoB事業を主軸とする圧縮機・塗装機器メーカーのアネスト岩田が、販売代理店経由ではリーチできない市場へのアプローチ手段として、BtoC領域で自社ECサイトの運営に挑戦した背景と、その過程を紹介しました。同社は、エアーブラシブランド「SPARMAX」を皮切りに、販売代理店との関係性や在庫管理などの課題を乗り越えながら、直販体制を整備。売上拡大と収益性の向上を実現しました。
後編では、こうして培われたノウハウを本業のBtoBビジネスにどう展開しようとしているのか、アネスト岩田の今後のEC戦略を掘り下げます。

海外商品があふれる市場 価格ではなくブランド力で勝負
EC事業の拡大に合わせて、アネスト岩田ではブランド戦略の再構築も進行中です。
同社のエアーブラシ事業には、比較的高価格なアーティスト向けプレミアムブランド「iwata」と、一般消費者向けブランドの「SPARMAX」とがあり、それぞれ商品特性も顧客ニーズも大きく異なります。
iwataは、米国市場で既に一定のシェアを獲得できています。「iwataがないと仕事にならない」というアート制作のプロフェッショナルもいるほどです。価格に見合った価値を提供できているといえます。こうした背景から同社は、日本国内でもiwataブランドを通じてプレミアム市場を育成するチャンスがあると見ています。
ただし、このプレミアム性は、一般消費者には伝わりづらい側面があります。そのため、商品の良さを積極的に情報発信し、「なぜ高いのか」を納得してもらう努力が欠かせません。
さらに、市場には2,000〜3,000円台の中国製エアーブラシがあふれています。SPARMAXでも1~2万円、iwataは2~6万円ですから、価格差は大きいです。単純な価格競争に陥らないためには、「プロ向けの高品質モデル」として徹底したブランディングが求められます。

そのため同社は、各ブランドの位置付けを明確にし、それぞれのターゲットに合わせたコミュニケーションを取る体制作りを進めています。たとえばSPARMAXの場合は、専用のブランドサイトを構築。BtoC市場に適した世界観やストーリーを打ち出しています。
また、世界観を伝える上で、リアル接点も重要な役割を果たします。前編では、アネスト岩田が「エアーブラシをEC専売商品にした」とお伝えしました。そうすると、顧客が商品を手に取って比較検討する機会が必然的に少なくなります。しかし、エアーブラシのような機械工具は、“実際に触ってもらうこと”が重要です。そこで現在、同社は展示イベントへの出展を増やし、顧客が商品に触れる機会を積極的に創出しています。
各ブランドの特徴を明確にしながら、顧客との距離をさらに縮める。これが、今後のアネスト岩田のEC戦略です。販売代理店を介さないということは、顧客からの問い合わせ対応や商品のメンテナンスも、自社で行う必要があります。同社はこうした直接的な接点を活かして、顧客が安心して同社のエアーブラシを購入できる仕組みを作ろうとしているのです。