握手を求められるスタッフも 全国に広がる個人商店コミュニティ
最終的な購入導線こそBEAMS公式サイト内にあるが、個人商店は特定スタッフの偏愛を表現する点で、BEAMS公式サイト上でのデジタル接客コンテンツとは大きく異なるものだといえる。
「没頭するような趣味があるなど、情緒的価値の訴求ができるスタッフを厳選して商店主に抜擢しているのも、個人商店の特徴です。既に個人に多くのファンがついており、半期に複数回リアルイベントも開催しています。
通常、個人商店の商品はオンラインのみでの販売となっていますが、同イベントではオーナー自らが接客し、自身の言葉で商品の魅力や使い方などを紹介します。全国からファンの方が来店したり、リクエストを受けて全国各地の店舗にオーナーが来店したりと、スタッフを中心に据えたコミュニティの輪が着実に広がっています」

こうした反響を受けて、既にビームス内では「個人商店を開きたい」と立候補するスタッフも出現しているとのこと。偏愛がもたらす波及効果は、既に大きなものとなっていることがうかがえる。
資産となるスタッフのキャリアが多様化 コミュニティを生み出せる「人」の可能性
もちろん、高品質なデジタル接客を実践するOSCが、店舗で働きながら個人商店の商店主として活躍するケースも存在する。ビームス辻堂店の若生多絵子氏、ビームス恵比寿店のHeg.氏はその代表格だ。
「若生は、本人が在住する湘南エリアのライフスタイルを軸に、大人の女性向けにヨガやビーチ、アウトドアスタイルを提案しています。Heg.は前出のSTAFF OF THE YEARで2022年度にグランプリを受賞した社員ですが、今は店舗に勤務しながらスタッフ投稿を全社に啓蒙する役割も担い、個人商店では自身の『好き』を表現したラインアップを展開し好評です」
岩城氏は、ここまで紹介したリアル世界とデジタル世界を融合させた「フィジタル体験」の創出を通して、「ビームスの資産はスタッフだと再確認できた」と強調。さらには「スタッフのキャリアにも多様性が生まれている」と説明する。
「たとえば、店舗で働くスタッフにとってキャリアの延長上に見えやすいのは、接客のスペシャリスト(サービスマスター)や店舗を管理するマネジメント職など、店舗に関連するものだったのではないかと想像します。
しかし、OSCや個人商店の取り組みによって、多種多様な個性を表現する場がオンライン・オフラインを問わず生まれました。これにより、スタッフのポテンシャルを生かせるフィールドが広がったと感じています。また、レーベルバイヤーやディレクターなどで経験を積んだベテランスタッフのセンスを発揮する場を新たに作れた点も、組織としてプラスに捉えています」
こうした環境変化を速やかに人事評価に反映させている点も、ビームスの特徴だ。個人商店の商店主となるスタッフは、店舗や本部業務などそれぞれの主務と兼務する形で個人商店のバイヤーとして仕事を行う、いわば二足のわらじを履く状態になるが、同社ではPtoC拡大への貢献にもつながる「好き」を探す行動、「好き」へのこだわりをもち、突き詰める姿勢といった偏愛の要素も評価項目に加え、総合評価を導き出している。
「表の仕組みだけでなく、仕組みを支える制度も含めて、お客様もスタッフもハッピーになれる場が醸成され始めていると思っています。スタッフがそれぞれの才能や個性を発揮し、『人』を起点としたコミュニティが徐々に生まれつつある点は、非常に今の時代らしい取り組みになっているといえるのではないでしょうか」
岩城氏は、最後にビームスの代表取締役社長 設楽洋氏が社内向けに発信した2025年のスローガン「商品じゃない、自分を売れ」を紹介。同社が2024年11月に発表した新たなビジョン「Happy Life Solution Communities」と絡めながら、これからのビームス流のものの売り方、コミュニティの作り方について次のように見解を述べ、セッションを締めくくった。
「コミュニティは『商品』からではなく、『人』から生まれると感じています。創業時から、当社は個性的なスタッフ(人)がもつコミュニティを起点に事業を広げてきました。
今後も、こうしたコミュニティとそこに集うファンを増やし、コミュニティ間の重なり合いを生むことで世の中にハッピーを生み出したり、素晴らしい未来を描いたりすることにビームスが貢献できたらと考えています」