カスタマージャーニーとは、顧客が商品やサービスを認知してから、興味・関心、比較検討、購入、そして購入後の利用や共有に至るまでの、一連のプロセスを称したマーケティング用語である。「ジャーニー」と表現されているように、プロセスは「旅」にたとえられ、この道筋を視覚的に表現したものは「カスタマージャーニーマップ」と呼ばれる。カスタマージャーニーマップは、顧客がどのような体験をたどり、どこで企業やブランド・商品と接点(タッチポイント)を持つのか明確にする上で重要な役割を果たす。
テクノロジーの進化や情報の多様化が進む現代において、顧客の商品購入プロセスは非常に複雑化している。企業側が頭ごなしに考えたマーケティング施策や一方的なアプローチだけでは、顧客の心理や商品を手にするまでの動きの網羅は難しく、施策の成果にもつながりにくい。顧客の複雑なプロセスを整理し、自社商品をアプローチすべき顧客層や効果的に働きかけられるタッチポイントを特定するためにも、カスタマージャーニーの明確化は非常に重要なアクションとなる。
また、カスタマージャーニーは大きな組織や複数人でブランド展開やマーケティング施策を検討する際にも役立つ。ターゲット像を言語化、可視化することで社内や関係各所と具体的なイメージの共有が可能となり、施策のブレや認識の齟齬を防げる。これは、適切なKPI(重要業績評価指標)を設定する上で重要な下準備ともいえる。
ECサイトにおけるカスタマージャーニーの重要性
ECサイトの運営において、カスタマージャーニーの理解は特に不可欠である。オンライン上では顧客の行動データが豊富に取得できる一方で、対面での接点が少ないため、顧客の感情や思考の変化を把握しにくい側面がある。カスタマージャーニーを可視化することで、以下のようなメリットが得られる。
- 顧客理解の深化:顧客の行動、思考、感情、ニーズ、課題を時系列で詳細に把握できる
- 顧客体験(CX)の最適化:顧客がどのタッチポイントでどのような課題を感じているか(ペインポイント)を特定し、改善することで、スムーズで心地良い購買体験を提供できる
- マーケティング施策の精度向上:各フェーズやタッチポイントに最適なコンテンツや広告、コミュニケーションを計画し、コンバージョン率や顧客ロイヤルティの向上につなげる
- LTV(顧客生涯価値)の最大化:購入後のフェーズにおける顧客との関係性強化策を検討し、リピート購入や長期的な顧客化を促進する
- 社内連携の強化:営業、マーケティング、カスタマーサポートなど、部署間の連携を円滑にし、一貫した顧客対応を実現する
カスタマージャーニーマップの作り方
カスタマージャーニーマップは、顧客の視点に立ってその旅の道筋を具体的に描き出す一つの手段といえる。EC担当者がカスタマージャーニーマップを作成する際の一般的なステップは次の通りである。
1. ペルソナの設定
カスタマージャーニーマップの作成は、自社の理想的な顧客像(ペルソナ)を明確に設定することから始まる。「年齢」「性別」「職業」「居住地」といったデモグラフィック情報に加え、「興味・関心」「ライフスタイル」「価値観」「購買行動」「情報収集源」「抱える課題」などを具体的に描写して生まれたペルソナが主人公となり、ここから先のステップを進める重要な存在となる。
2. フェーズ(段階)の特定
顧客が商品やサービスを認知してから購入、さらには利用・推奨に至るまでの主要な段階を定義する。一般的なフェーズとしては、「認知」「興味・関心」「比較検討」「購入」「利用・共有」などが挙げられる。ECサイトの場合、購入後の「リピート」「ファン化」といったフェーズも重要となる。
3. タッチポイントの洗い出し
各フェーズにおいて、ペルソナが企業やブランドと接する可能性のあるすべての接点をオンライン・オフラインを問わず洗い出す。EC運営においては、自社ECサイトや出店先のモールのトップページ、特集、商品ページ、カート、決済ページや検索エンジン、SNS広告、メルマガ、カスタマーサポート(コールセンター)、レビューサイトはもちろんながら、実店舗やポップアップストア出店などのリアルチャネルも該当する。
4. 顧客の思考・感情・行動の描写
各フェーズ、各タッチポイントにおいて、ペルソナが「何を考え(思考)」「何を感じ(感情)」「どのような行動をとるか(行動)」を具体的に記述する。このときには、ポジティブな感情だけでなく、不安や不満といったネガティブな感情も正直に描写することが重要である。
5. 課題と機会の特定
ここまで作り上げたカスタマージャーニーマップの全体を見渡し、顧客がどの段階で離脱しやすいか、どのような不満を抱えているかといった「課題(ペインポイント)」を特定する。同時に、顧客の期待を超える体験を提供できる「機会(チャンス)」も見つけ出し、可視化を行う。
6. 改善施策の検討
特定された課題や機会に基づき、具体的な改善施策や新たなアプローチ方法を検討する。たとえば、特定のページでの離脱率が高い場合はUI/UXの改善、情報不足が課題であればコンテンツマーケティング(コンテンツ拡充)の実施、購入後の不安が課題であればサポート体制の強化などが考えられる。
カスタマージャーニーマップは一度作成したら終わりではなく、市場の変化や顧客行動の変容に合わせて定期的に見直し、改善を繰り返すことで、常に顧客中心のマーケティング戦略を推進する強力なツールとなる。
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