無視できないモバイルの体験向上 AMP、PWA対応で課題解決へ
小林氏が紹介したひとつめの項目は、「モバイルのさらなる台頭」について。モバイル端末の利用者数が上昇する中、ECを運営する事業者もモバイル端末を通じた売上を無視することはできないのが現実だ。2021年には、モバイル経由のEC売上は3.56兆円に上り、EC売上全体の72.9%をも占めると予測されている。この数字が与えるインパクトを考えると、顧客の年齢層が高いECサイトであっても決して無視することはできないはずだ。
また、こうした状況を踏まえ、各プラットフォーマーがモバイル対策に注力することも間違いないと言える。実際、すでにGoogleは検索上位表示の条件のひとつとして「モバイルフレンドリー」を掲げている状況だ。今後モバイル向けの対策が講じられていないECサイトは、顧客から買い物の途中でカート放棄される可能性もより高まると見られる。
そこで注目されているのが、モバイル体験を向上させるための「AMP(Accelerated Mobile Pages)」と「PWA(Progressive Web Apps)」への対応だ。AMPは、モバイルフレンドリーであるために必要な「対応速度」を改善するもので、対応することによりページの表示が高速化し、検索順位が上昇する。Googleでは、検索結果一覧でAMP対応サイトに稲妻のようなマークを表示し判別を容易にしているほか、対応サイトのコンテンツを検索ページ上部のAMP枠に掲載している。事業者はAMP対応することでデータ転送時の負荷を軽減できるため、サーバーコストを抑えることが可能となるのが魅力だ。AMP導入当初は、ニュース系サイトを中心に対応が推奨されていたが、近年はECにまでその傾向が広がりつつある。
もう一方のPWAは、モバイルサイト上にWebアプリを実装する仕組みで、オフライン対応および高速化が実現できるものだ。ネイティブアプリのようにUIを設計できたり、顧客にアプリのインストールを促さずともログイン外ユーザーの情報を蓄積できたりといった、良質な体験提供が可能となる。また、検索結果からの流入も見込めるため、いわばアプリとモバイルサイトの「良いところ取り」ができる上、Android、iOSといったデバイスごとの開発も不要だ。
小林氏は、「AMP、PWAともに、プラットフォーマーだけでなく、大手ECでも対応し始めている企業が増えている状況です。まずは自社のECサイトが現状モバイルフレンドリーになっているかどうかを確認した上で、AMPやPWAの導入ができるか、それにより課題を解決できるかを考えてみてはいかがでしょうか」と検討を勧めた。
新形態の顧客体験提供に欠かせない最新テクノロジー
ふたつめの項目は「AIとAR/VRが新たな顧客体験を強化する」。近年、ECサイト上に実装されるケースが増えているサービスのひとつにチャットボットがある。AIが仮想アシスタントとなって、顧客と小売業者のギャップを解消しようというもので、Q&Aによってわかりやすく誘導することで離脱を防いだり、SNS上でコミュニケーションを行ったりすることで、細やかなパーソナライゼーションを行い、快適な顧客体験に大きく寄与するとされている。
また、技術の活用はAIだけに留まらない。たとえば、アメリカのファッションブランド「Rhone Apparel」では、楽天の子会社であるFits.meが提供するバーチャル試着ソリューション「Rakuten Fits Me」を活用し、ユーザーのコンバージョンを3倍以上にも上げることに成功したと言う。
コロナ禍の環境変化により、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)を用いたサービス提供は、オンライン上での接客体験、顧客満足度を向上するための施策としてより注目を集めていると言える。小林氏は「今後は来店促進だけでなく、オンラインでの購入促進の双方から、こうしたテクノロジーを導入する企業が増えると考えられる」と述べた。