成長するグローバルEC市場 着目すべきポイントとは
「世界中の人が、すべてのデータに、母国語でアクセスできるようにする」というミッションを掲げ、Web多言語化ソリューション「WOVN.io(ウォーブン・ドットアイオー)」などを提供するWovn Technologies。「WOVN.io」は、国内外に1万5,000サイト以上のユーザーを擁し、既存のWebサイトやアプリを最大41言語/75のロケール(言語と地域の組み合わせ)で閲覧できるように表示、運用を最適化するソリューションだ。サービスをアドオンするだけで利用できる同ソリューションは、年間250回ものアップデートで常に最新版が使うことができ、これまでに翻訳したページは500万にも上る。
小林氏は「現在、外国人対応への国内ニーズが高まっており、大手企業を中心に導入が加速している状況です。その種類は、ホームページやECだけでなく、交通インフラやアプリなどにまで広がっています。また、労務管理などの社内ツールの多言語化を通じて、間接的なグローバルコミュニケーションの支援も行っています」と紹介する。こうした経験・知見を持つWovn Technologiesが考える「2021年を見据えたグローバルECの動向」とはどのようなものか。
現在、世界人口の78億人のうち、約67%の51.9億人が携帯端末を利用し、インターネットユーザー数は約59%の45.4億人、約49%の38億人がSNSユーザーとされ、さまざまな情報にアクセスできる環境が世界で整いつつある。それに従い、世界のグローバルECの市場も大きく成長しており、グローバルECの小売売上高は、2021年までに4.9兆ドルに達すると予想されている。
「この数字は、世界の総小売売上高の17.5%を占める」と小林氏は解説。「グローバルECの売上が着実に世界各国の小売市場で伸びてきている」と続けた上で、これから意識すべき7つの項目を紹介すると述べた。
無視できないモバイルの体験向上 AMP、PWA対応で課題解決へ
小林氏が紹介したひとつめの項目は、「モバイルのさらなる台頭」について。モバイル端末の利用者数が上昇する中、ECを運営する事業者もモバイル端末を通じた売上を無視することはできないのが現実だ。2021年には、モバイル経由のEC売上は3.56兆円に上り、EC売上全体の72.9%をも占めると予測されている。この数字が与えるインパクトを考えると、顧客の年齢層が高いECサイトであっても決して無視することはできないはずだ。
また、こうした状況を踏まえ、各プラットフォーマーがモバイル対策に注力することも間違いないと言える。実際、すでにGoogleは検索上位表示の条件のひとつとして「モバイルフレンドリー」を掲げている状況だ。今後モバイル向けの対策が講じられていないECサイトは、顧客から買い物の途中でカート放棄される可能性もより高まると見られる。
そこで注目されているのが、モバイル体験を向上させるための「AMP(Accelerated Mobile Pages)」と「PWA(Progressive Web Apps)」への対応だ。AMPは、モバイルフレンドリーであるために必要な「対応速度」を改善するもので、対応することによりページの表示が高速化し、検索順位が上昇する。Googleでは、検索結果一覧でAMP対応サイトに稲妻のようなマークを表示し判別を容易にしているほか、対応サイトのコンテンツを検索ページ上部のAMP枠に掲載している。事業者はAMP対応することでデータ転送時の負荷を軽減できるため、サーバーコストを抑えることが可能となるのが魅力だ。AMP導入当初は、ニュース系サイトを中心に対応が推奨されていたが、近年はECにまでその傾向が広がりつつある。
もう一方のPWAは、モバイルサイト上にWebアプリを実装する仕組みで、オフライン対応および高速化が実現できるものだ。ネイティブアプリのようにUIを設計できたり、顧客にアプリのインストールを促さずともログイン外ユーザーの情報を蓄積できたりといった、良質な体験提供が可能となる。また、検索結果からの流入も見込めるため、いわばアプリとモバイルサイトの「良いところ取り」ができる上、Android、iOSといったデバイスごとの開発も不要だ。
小林氏は、「AMP、PWAともに、プラットフォーマーだけでなく、大手ECでも対応し始めている企業が増えている状況です。まずは自社のECサイトが現状モバイルフレンドリーになっているかどうかを確認した上で、AMPやPWAの導入ができるか、それにより課題を解決できるかを考えてみてはいかがでしょうか」と検討を勧めた。
新形態の顧客体験提供に欠かせない最新テクノロジー
ふたつめの項目は「AIとAR/VRが新たな顧客体験を強化する」。近年、ECサイト上に実装されるケースが増えているサービスのひとつにチャットボットがある。AIが仮想アシスタントとなって、顧客と小売業者のギャップを解消しようというもので、Q&Aによってわかりやすく誘導することで離脱を防いだり、SNS上でコミュニケーションを行ったりすることで、細やかなパーソナライゼーションを行い、快適な顧客体験に大きく寄与するとされている。
また、技術の活用はAIだけに留まらない。たとえば、アメリカのファッションブランド「Rhone Apparel」では、楽天の子会社であるFits.meが提供するバーチャル試着ソリューション「Rakuten Fits Me」を活用し、ユーザーのコンバージョンを3倍以上にも上げることに成功したと言う。
コロナ禍の環境変化により、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)を用いたサービス提供は、オンライン上での接客体験、顧客満足度を向上するための施策としてより注目を集めていると言える。小林氏は「今後は来店促進だけでなく、オンラインでの購入促進の双方から、こうしたテクノロジーを導入する企業が増えると考えられる」と述べた。
ECでも求められるサステナブルな取り組み 情報の透明化はより重要に
小林氏は、3つめにこれから意識すべき項目として「サステナブルな取り組み」を挙げた。事業活動を継続する上で、近年とくに重要なキーワードとなっているサステナビリティ。「人間・社会・地球環境の持続的な発展」を意識してビジネスに取り組むことは、環境に寄与しながら事業を続ける意思表示となる。海外の投資家は近年、企業の成長性だけでなく、こうした取り組みにも着目し、策を講じていない企業に対する投資を回避する傾向にあるとも言われている。日本でも企業単位で浸透しつつある言葉だが、これからはECにも取り組みが求められるようになると小林氏は語る。
「今後は、オンラインで販売を行う際も廃棄物をどの程度生むのか明記すべき時代に突入する可能性が高まっています。また、一部のファッションブランドではリコマースサービスの立ち上げなども行われ、再利用の流れはより進んでいくでしょう。日本でもサステナブルに関するキーワードの上昇は顕著となっており、2021年はここにいち早く対応していくことが必要と言えます」(小林氏)
アメリカで広がるボイスコマース 率先した取り組みが新たな売上を生む
4つめに小林氏は、ボイスコマースについて紹介を行った。アメリカでは、Google HomeやAmazon Alexaなどのスマートスピーカーが普及し、75%の世帯が2025年までに所有すると予測されている。日本ではまだ馴染みが薄いが、アメリカでは、すでに3人にひとりが音声アシスタントやスマートスピーカーによる購買経験者であるというデータも存在しており、2022年までにアメリカとイギリスで400億ドル以上の売上を生むとも言われている。
小林氏は、「現状はモバイルフレンドリーが最重要項目となっているが、2021年以降、ボイスコマースの最適化がプラットフォームなどによって始まるかもしれない」と指摘。続けてこのように語った。
「ボイスコマースは、とくにAmazonに出店している事業者が意識すべき項目と言えます。今から最適化に向けた対応を考え、取り組むことが先々の優位性獲得や知見の蓄積につながり、新たな売上を生むに違いありません」(小林氏)
購買目的のSNS活用増 ひとつの入口として万全な対策を
次に小林氏が紹介したのは、「ソーシャルショッピングへの準備」について。今やSNSはマーケティングに不可欠な存在だが、その用途はブランド認知からファン化、ひいては購入へと移りつつあると言う。すでに日本国内でも、およそ1割のユーザーがInstagramやFacebookを購買目的で利用しているのが現状だ。
「皆さん自身の行動を振り返っても、『おいしいものを食べたい』といった欲求を満たす際に写真などの視覚から情報に入り、購入につながることが増えているのではないでしょうか。美しい写真がタグで整理されているSNSは、購買につなげやすいツールのひとつとなり得ます」(小林氏)
47%のユーザーが購買目的で利用するPinterestは、とくに海外への訴求力が高いツールとして注目を集めている。グローバルに向けたアプローチを目論む国内事業者は、マーケティングやプロモーションの手段として視野に入れると良いだろう。小林氏は「購買のひとつの入口としてSNSをとらえるのは自然の流れ」と語った上で、「プラットフォーム、SNSともに購買機能を強化している」と現状を分析した。
ダイナミックプライシングはグローバルECから 多言語対応も欠かさずに
6つめに小林氏は「ダイナミックプライシングの採用」について言及。シーズナリティに応じて価格変更を行う同取り組みは、旅行業界ではすでに馴染み深いものとなっているが、他業界で取り入れている企業は日本ではまだ数少ない。海外ではすでにさまざまなソリューションが提供され、APIやCMSで容易に連携することが可能となっている。小林氏は「国内市場で行うことにためらっているのであれば、グローバル販売からダイナミックプライシングにチャレンジしてみてはどうか」と勧める。実際に同社が担当するグローバルECの案件では、配送や仕入価格、人件費の変動を踏まえたダイナミックプライシングがすでに複数行われていると言う。
「現在の価格にこだわらず、さまざまな金額で展開を行い売上を見ることは、市場価値を再認識するという意味でも効果的と言えます」(小林氏)
グローバルECで意識すべき項目の最後に小林氏が紹介したのは、「対応言語の増加」だ。Webサイト上対応言語は年々増加しており、日立製作所、トヨタ自動車、キヤノンといった日本企業を含む世界の主要150サイトで、平均33言語に対応していると言う。たとえば、Airbnbは2018年から2019年にかけて対応言語を31から62に増やしたほか、Mastercardでは34言語から43言語にまで拡大している。
こうした背景には、顧客の多くが持つ「母国語で情報を入手したい」というニーズに応えるためといった理由が見え隠れする。全世界のインターネットユーザーのうち、日本語を使うユーザーの割合はわずか3%。日本語のみで情報発信を行っている場合は、市場の97%に未到達と言え、小林氏は「非常に損をしている」と述べる。市場の拡大を狙うならば、対応言語の拡大は必須だ。また、インターネットユーザーの利用言語割合を見ると、英語ユーザーは25%にとどまるほか、非英語7言語で46%をも占めているという結果も出ている。2030年までには、非英語人口がさらに20億人増えると予測されており、小林氏は「市場の拡大および利益向上を目的として、ぜひECでも多言語化にチャレンジしてみてほしい」と訴えた。
小林氏は最後に、今後グローバルECに取り組む企業に向け、このようなエールを送りセッションを締めくくった。
「コロナ禍で、新たな価値創造が求められる時代になりました。デジタルシフトがさらに進み、サービスの国際化が加速する中で、トレンドを踏まえたさまざまな観点から価値構築を行う必要があると言えます。国内市場のみならず、海外に向けた対応の必要性も高まっていることを踏まえ、遅れないように危機回避に取り組んでいただきたいです。そのためにも、ぜひ海外の最新情報や先進企業の事例を参考にしてみてください」(小林氏)
Webサイトの多言語化に興味がある/課題を感じている方へ
Wovn Technologiesは、Webサイト・アプリを最大41言語・75のロケール(言語と地域の組み合わせ)に多言語化し、海外戦略・在留外国人対応を成功に導く多言語化ソリューション「WOVN.io」および「WOVN.app」の開発・運営をしています。当記事で興味を持たれた方はぜひお気軽にご相談ください。詳細はこちら
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