D-JIT開発につながった課題発見力 社内全体で需要を拾う体制とは
元々ミスミでは、顧客から必要な部品の要望を受け付けると、自社の生産工場や外部サプライヤーなどと対応可能な条件や納期を確認後、回答するオペレーションを採用していた。しかし、木戸氏は「回答までに9時間ほどかかる上、必要数量がそろえられないケースが少なくなかった」と振り返る。
D-JITの導入後は待ち時間が解消され、提供可能な在庫数が大幅に増加した。中には、確保できる在庫数が5.4倍となった商品もある。また、従来8日かかっていた納品までのリードタイムは2日に短縮された。同社が目指す「時間価値の提供」を実現しているといえよう。
「D-JITは、当社がもつ『400社を超えるサプライヤーとのサイバーネットワーク』『複数拠点の最大対応力を自動で算出するアルゴリズム』『meviyなどの前例により備わっているEC機能』の3要素を掛け合わせて生まれました。各サプライヤーが保有する在庫データは当社が一元的に管理しており、数量情報は都度更新されます。そのデータを活用し、独自開発のアルゴリズムで必要な在庫が確保できるサプライヤーの組み合わせを、リアルタイムで提案する仕組みです」(木戸氏)
現在、ミスミはD-JITを日本・タイ・台湾に展開している。加えて、ヨーロッパの国々やアメリカでも運用テストを開始した。既にD-JITを活用している台湾の企業からは「大量発注時はサプライヤー1社1社に問い合わせしていたが、その手間がなくなった」との声が上がっているという。
「D-JITを思いついたきっかけも、元々はお客様からの声です。部品の在庫が確保できず、『サービスに満足できていない』との意見をいただいた経験があります。『なぜこのような状況が発生するのか』と課題の根本的な要因を突き詰めると、市場に出回っている在庫数が不明瞭だからだと気づきました」(木戸氏)
製造業で使用される部品は、部品メーカー、卸、代理店を経てエンドユーザーの手元に届く。木戸氏は「この多段階流通構造が全体在庫数の把握を妨げていた」と話す。
「部品メーカーは製造が本業のため、在庫数を管理し、複数顧客からの注文を直接受け付ける仕組みがありません。卸はこれまで築いてきた代理店との関係性があるため、エンドユーザーへの直接販売を避けます。代理店が連携して在庫数を把握しようにも、数人で運営しているケースも多くリソースが足りないため、対応は難しいでしょう。各プレーヤーの立場から抜本的な改革は難しいといえます。それなら、当社がやるしかないと考えました」
ミスミが事業成長を続けられる理由は、この課題発見力にある。ヒアリングで得られた声や同社に届いた問い合わせの内容を社内で共有。部署が異なっても全社員がアクセスできる体制だ。
「実際、集まった顧客の声をもとに新システムやサービスが生まれています。当社は『なぜ必要なのか』が明確であれば、社員が協力してくれる文化です。お客様にとって時間が重要だという価値観を共有できているのも、アイデアを形にできる理由の一つだと思います」(木戸氏)