デジタルサイネージはリテールメディアのごく一部
Googleは2024年後半を目安に、サードパーティCookieを廃止するとしている。それにともない、自社で取得するファーストパーティデータへの移行が急がれている。そこで注目を集めているのが、リテールメディアだ。
リテールメディアは、ファーストパーティデータを活用し、リテールの店舗などを「媒体」として広告出稿する仕組みのこと。日本では、実店舗に来店した顧客の需要に合わせて、店内のデジタルサイネージにコンテンツを表示するといった活用をイメージする人も多いだろう。まだ一部だが、スーパーマーケットやドラッグストアなど、導入する企業が現れ始めている。
一方、北米では日本よりもリテールメディアの活用が盛ん、かつ日本とは違う形で浸透している状況だ。Abi氏は、「リテールメディア=デジタルサイネージではない」と言い切る。
デジタルサイネージもリテールメディアに含まれるものの、北米では当初よりオンライン上のマーケットプレイスを中心に活用が広がっているのだという。その代表的なフィールドがAmazonだ。
現在、AmazonはEC市場において高いシェアを占めている。実店舗を持つよりも低コストで商品を販売し、さらには非常に多くの消費者へリーチできることが理由の一つだろう。Abi氏は、「Amazonがメーカーやブランドに対して無限の商品棚を作り出した」と話す。
しかし、Amazonのように多くのブランドが存在し、膨大なデータを抱えるマーケットプレイスでは、消費者の解像度が粗くなる傾向もある。「いつ、どこで、どの商品が求められているか」の把握が容易ではないのだ。そのためAmazonは、市場の可視化に向けた仕組みを整えてきた。
「広告が消費者へどうリーチしているか可視化するために、Amazonが始めたのが『検索広告』です。Amazon内で商品について調べると、上位にAmazonに出品されている関連商品が表出することがありますよね。この検索機能により、ブランドは自社商品のカテゴリーに興味がある消費者へリーチできるようになりました」(Abi氏)
本機能がさらに発展し、スポンサープロダクト広告に移行。現在のリテールメディアに進化していった。Abi氏は、リテールメディアへの移行は「北米のブランドにとって必然だった」と話す。
「多くのブランドはGoogleなどの検索広告に対し、『本当に消費者にとって良いエクスペリエンス・広告なのか』と不信感を持っていました。リテールメディアの場合、既にAmazonを訪れている消費者に直接、求めている商品と関連性の高い広告を表示します。そして、Amazonとブランドは広告に対する消費者の反応をデータで確認できます。つまり、投下した広告費がどうコンバージョンにつながったのか、正しいコミュニケーションだったのかなど、効果が見えやすいのです」(Abi氏)
マーケットプレイス上での購入データから顧客の興味関心を分析し、その結果に合わせた広告を適切なタイミングで配信する。これによりメリットを享受できるのは、ブランドだけではない。商品を探している消費者にとっても、パーソナライズされた情報であれば、購買体験を「邪魔するもの」ではなく、むしろ「手助け」となることもある。