CX向上の鍵は「顧客の選択肢を増やすこと」
時代とともに、消費者の世代やビジネスモデル同様、ECサイトと実店舗の関係性にも変化が起きている。EC黎明期は、O2Oという概念のもと、ユーザーを集めて実店舗に送客する装置として、オンラインがとらえられていた。実店舗の力が強く、売上を伸ばそうとするECサイトとの対立構造が見られていたのもこの時期だ。その後、オムニチャネルの台頭にともない「ECサイトで買った商品を店舗で受け取る」という流通の多様化が進んだ。現在は、実店舗とECサイトを融合して快適な顧客体験を実現するOMOの考えかたが主流となり、CXが今まで以上に重要視されている。
「OMOの第一歩は、お客様に店頭でスマートフォンを使ってもらうことです。店頭で気に入る商品を見つけたら、その場でレビューやクチコミをチェックし、すぐに持ち帰りたい場合は店頭で、配送を希望する場合はECサイトで購入することができれば、お客様は納得のいく買い物だと感じられますよね。実店舗で売っているものを実店舗で買ってもらいたいという考えは販売側の都合です。お客様にメリットがあるわけではないので、いずれは諦めないといけません」(山崎氏)
実店舗は、ECサイトに比べてパーソナライズが難しいとされている。スタッフによる接客で、1to1のコミュニケーションをとることはできるが、来店するユーザーに応じて商品の配置を変えることはできない。店頭でユーザーにスマートフォンを使ってもらうことで、商品のレコメンドやクーポンの発行、レビューの表示など、ECサイトと同様のパーソナライズマーケティングを実店舗でも行うことができるようになると山崎氏は話す。
また、電子決済の登場により、ECのありようも変化しつつある。これまでは、ECサイトで購入する際にサインアップやサインイン、個人情報の入力が必要だったが、電子決済の場合は住所などの個人情報がボタンひとつでECサイト側に渡るため、面倒な入力の手間を省くことができる。
「『ECサイトで買うけれどサインアップしない』という選択肢は、まだあまり目を向けられていませんが、私はECにおける大きな変革だと思っています。これまでは、いかに会員登録を促して囲い込みを行うかがECの至上命題とされてきました。そのほうがマーケティングしやすく、お客様にとってもポイント特典や適切な商品レコメンドといったメリットがあるのは事実ですが、今重要なことはお客様の選択肢を増やすことです。ロイヤルカスタマーとして特典を享受したい方はサインアップして、そうでない方はサインアップしなくても購入できるようにしておくことが大事です」(山崎氏)