消費者は企業よりも「他の消費者」を信用する
スマートフォンが今ほど普及していなかった15年前、ECは一部のガジェット好きが利用するものとされていた。今は、ほとんどすべての人がインターネットにアクセスできるデバイスを持ち、「デジタルネイティブ」と呼ばれるミレニアル世代(1980年代から2000年代初頭に生まれた世代)や、その次のZ世代(1996年から2012年に生まれた世代)が新たな消費者としてECに参加しつつある。
Z世代は熱心に情報を収集し、必要なものだけを買おうとする傾向が強いため、レビューやクチコミを重視する。レビューやクチコミの重要性はデータでも明らかにされており、アメリカのコスメブランド「Glossier」は売上の8割がクチコミ、紹介、アンバサダーPRによって作られていると言う。
「海外イベントのある登壇者は『消費者は企業の3倍、他の消費者を信用する』と話していましたが、その傾向は消費者の世代が若くなるほど強くなっていると思います」(山崎氏)
サブスクリプション型サービスは、可処分所得がまだ多いとは言えないZ世代の「買い物に失敗したくない」「納得のいく買い物をしたい」というニーズに合致している。これまで費用対効果が合わず、若年層にリーチできていなかった企業にとって、ターゲットの裾野を広げられるチャンスととらえることも可能だ。山崎氏は、CXを「コマースにおける最重要概念」としたうえで、次のように述べた。
「UX向上のためのAI、流通最適化のためのオムニチャネルと同様に、CX向上のための有効な手段として新しく登場したのがサブスクリプションです。若年層の消費が伸びやすくなることはもちろん、買い切りが主だった消費者の選択肢が増えたことは、CXの向上につながっていると思います」(山崎氏)
CX向上の鍵は「顧客の選択肢を増やすこと」
時代とともに、消費者の世代やビジネスモデル同様、ECサイトと実店舗の関係性にも変化が起きている。EC黎明期は、O2Oという概念のもと、ユーザーを集めて実店舗に送客する装置として、オンラインがとらえられていた。実店舗の力が強く、売上を伸ばそうとするECサイトとの対立構造が見られていたのもこの時期だ。その後、オムニチャネルの台頭にともない「ECサイトで買った商品を店舗で受け取る」という流通の多様化が進んだ。現在は、実店舗とECサイトを融合して快適な顧客体験を実現するOMOの考えかたが主流となり、CXが今まで以上に重要視されている。
「OMOの第一歩は、お客様に店頭でスマートフォンを使ってもらうことです。店頭で気に入る商品を見つけたら、その場でレビューやクチコミをチェックし、すぐに持ち帰りたい場合は店頭で、配送を希望する場合はECサイトで購入することができれば、お客様は納得のいく買い物だと感じられますよね。実店舗で売っているものを実店舗で買ってもらいたいという考えは販売側の都合です。お客様にメリットがあるわけではないので、いずれは諦めないといけません」(山崎氏)
実店舗は、ECサイトに比べてパーソナライズが難しいとされている。スタッフによる接客で、1to1のコミュニケーションをとることはできるが、来店するユーザーに応じて商品の配置を変えることはできない。店頭でユーザーにスマートフォンを使ってもらうことで、商品のレコメンドやクーポンの発行、レビューの表示など、ECサイトと同様のパーソナライズマーケティングを実店舗でも行うことができるようになると山崎氏は話す。
また、電子決済の登場により、ECのありようも変化しつつある。これまでは、ECサイトで購入する際にサインアップやサインイン、個人情報の入力が必要だったが、電子決済の場合は住所などの個人情報がボタンひとつでECサイト側に渡るため、面倒な入力の手間を省くことができる。
「『ECサイトで買うけれどサインアップしない』という選択肢は、まだあまり目を向けられていませんが、私はECにおける大きな変革だと思っています。これまでは、いかに会員登録を促して囲い込みを行うかがECの至上命題とされてきました。そのほうがマーケティングしやすく、お客様にとってもポイント特典や適切な商品レコメンドといったメリットがあるのは事実ですが、今重要なことはお客様の選択肢を増やすことです。ロイヤルカスタマーとして特典を享受したい方はサインアップして、そうでない方はサインアップしなくても購入できるようにしておくことが大事です」(山崎氏)
レビューで納得感のある買い物体験を
レビューやクチコミの重要性に触れてきた山崎氏だが、果たしてどれほど効果があるのだろうか。
海外の事例では、レビューが10件になるとCVRが1.5倍に、50件では2倍になるというデータもある。日本国内にはレビュー機能を搭載しているECサイト自体が少なく、そのインパクトを感じる機会はあまりないが、Amazonなどのマーケットプレイスでレビューが1件もついていない商品に食指が動かない心理は、想像に難くない。
ZETAは、商品検索エンジンでトップシェアを誇る「ZETA SEARCH」、レビューエンジンの「ZETA VOICE」、OMOソリューションの「ZETA CLICK」をはじめとした6つの製品を「ZETA CXシリーズ」として提供している。ZETA VOICEは、デジタルシフトへの投資に積極的なアパレル企業の活用実績が多く、導入後の返品率低下への貢献に大きな期待が寄せられている。レビューを読むことによりユーザーが納得感を持って商品を選べるため、「想像していたものと違ったので返品」というケースを減らせるそうだ。
また、レビューを商品開発の材料として有効に活用している企業もあると山崎氏は話す。ZETA CLICKは実店舗に来店したユーザーのレビュー閲覧や商品検索をサポートし、ECだけでなく実店舗の使い勝手も向上させるというコンセプトのOMOソリューションだ。
2019年夏にはZETA初の試みとして、レビューアプリの提供が開始されている。ZETA VOICEで投稿された各サイトのレビューをアプリで閲覧することができ、ユーザーの好きなサイトやレビュアーのレビューをお気に入り登録すれば、自分だけのレビューリストを作成することも可能だ。パーソナライズ機能も備わっており、フォローしたレビュアーのレビューやお気に入りに入れた商品が優先的にタイムラインに表示される。レビューの詳細ページから商品の販売ページに遷移して購入することもできるため、レビューを重視する若年層の購買を喚起する有用なトリガーとなり得るだろう。
ZETA CXシリーズの強みは、主力製品のZETA SEARCHを筆頭に、扱うデータや流通額の規模が大きい点にある。年間に処理する総クエリ数は800億以上、CXシリーズ全体の総流通額は1兆7,600億円以上で、15兆円規模と言われる日本のEC流通総額のおよそ10%を占める。大手ECサイトの導入実績が豊富で、EC売上高ランキング上位100社のうち25%の企業に導入済だ。
山崎氏は最後に、「今回のECzine Dayのメインテーマであるサブスクリプションの広がりによって、購買層の情報感度の高さが浮き彫りになり、レビューの価値が改めて見直されるべき時を迎えています。コマース全般はもちろん、継続して利用されるためにより高いCXを実現しなければならないサブスクリプションにとって、当社のZETA CXシリーズがその取り組みを支える有効なパーツになると思います」と語り、セッションを締めくくった。