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仕入れは売り切れるギリギリを攻めなければお得にならない
森野 前回の記事では、八木橋さんに商品ごとの利益管理の重要性や値づけの心得について話していただきました。今回は「仕入れ」と「在庫管理」をテーマに、いろいろと教えていただきたいと思います。
ECでは商品が常に動いているため、在庫管理が非常に重要になりますよね。しかし相談に乗っていると、特にEC運営初心者の中には「在庫=コスト」という意識がない方も見受けられます。在庫を持つことで具体的にどのような費用が発生するか、改めて言語化しておきたいなと思うのですが、お聞きしても良いでしょうか。
八木橋 コスト負担が最も大きいのは、保管費です。自社保有倉庫であればさておき、外部倉庫を借りている場合は、倉庫の賃料がかかります。在庫を持ち続けると、そのスペース分の「地代」が日々発生すると意識しなければなりません。
もう一つ重要なのが、人件費です。在庫は売り物ですから、ただ置いておけば良いわけではなく、適切な管理をする必要があります。倉庫の規模が大きくなればなるほど雇う人数も増えるため、注意が必要です。

森野 在庫を持つこと自体、経営に大きな影響を与える行為なんですよね。売上を作るための仕入れをしすぎると、コストがかさみすぎて自分の首を絞めてしまう可能性がある。その認識を持たなければなりません。
八木橋 第1回で吉村さんも話していますが、「在庫回転率」は重要な指標です。腐敗・劣化のリスクがない商品や季節商材など、ある程度の数量をまとめて仕入れたほうが効率的なケースも例外的にありますが、基本的に仕入れたものはできるだけ早く売り切るスタンスでいることが経営の効率化や利益の最大化につながります。在庫は長く抱えすぎないのがポイントです。
森野 「大量に仕入れたほうが安いから」と惑わされてしまうケースはよくありますよね。仕入れ値を抑えることも大事ですが、売る力量以上の商品を仕入れてしまっては本末転倒です。在庫が滞留すれば、コストがかかって安く仕入れた意味がなくなるだけでなく、下手すれば損失を生み出してしまうわけですから。
八木橋 「仕入れは背伸びしすぎない」は、肝に銘じていただきたい言葉ですね。たとえ割高になっても、小ロットで在庫を残さず売り切るのがベストです。大量に仕入れて売れ残ったら、保管費や人件費に加え、廃棄処分の費用もかかります。在庫が手元からなくなった後に振り返ったら、小ロットで仕入れたほうが手元に利益が残る計算になっていた……となりかねません。
利益の最大化を目指すなら、安く仕入れて売り切れるギリギリの数量を見極める必要があります。AIが発達した今は、需要予測ツールを導入するなど解決策も増えています。前回の記事から繰り返しになりますが、リスクを回避するには、一刻も早く勘に頼る経営から脱却しなければなりません。