洋服が全然欲しくなかったときに、僕がほぼ日でTシャツを買った理由
川添(V) ほぼ日というと、メディアサイトでありながらECに注力されていることでも有名ですよね。「気仙沼ニッティング」もここを最初の土台として生まれていますし。ほぼ日のどのあたりに感銘を受けたんですか?
木村(A) 僕は28、29歳ぐらいの時、洋服が全然欲しくなくなり、ファッション業界にいても仕方ないかなと考えていた時期がありました。そんな時になぜかほぼ日のTシャツを買ったんです。
なぜ買ったんだろうと考えてみると、ほぼ日の商品名がキャッチコピーのようになっていることに気づきました。正確には覚えていないのですが、「やわらかいTシャツ」といったように商品名が体感に基づいているし、それをなぜ作ったのか、どういうふうに作ったのかがしっかり書いてある。僕はそこに共感して買ったんだと思います。
だから僕も、そんな風に着た時の体感がディテールとして表れてくるようなコンテンツを作りたいと思いました。
僕らの製品でいちばん大事な要素は、ユーザーファーストであるということ。着た時にどんな感じになるとか、どんな体感が得られるのか、それを着るとどういうことができるようになるのか。ユーザーから見た時の商品の在り方が大事だと思っています。プロダクトデザインとして洋服を捉えてみようと。
だから僕は製品とそれにまつわるコンテンツが優れている商品を売っていきたい。クラフトマンシップを謳う前に、プロダクト、プロダクションが良くないといけないと思っています。
川添(V) 最近は「メイドインジャパン」をブランド化しようとする動きがアパレルにも起きています。一方で、木村さんたちがやっているように、着る人にとって本当に価値を感じてもらえる商品だったら、日本で作っていようがどこで作っていようが、作っている場所は関係ないじゃないか、ということですね。
木村(A) だから、僕らの製品はきちんとしたデザイナーさんやパタンナーさんが見ると笑っちゃうような作り方をしてるんですよ。極限までシンプルにして、縫製仕様も省いています。なぜかというと、どこでも同じものが作れるという状態を作りたいから。多分、中国に行ってもどこの国に行っても同じものが作れます。これは僕らのコンセプトである「インターネット時代のワークウェア」とも大いに関連しています。
そもそもをたどれば、僕がアメリカの服が好きだからというのが理由のひとつです。僕が中学生ぐらいの時、1990年代にヴィンテージブームがありました。LEVI'Sの1950年代のジーンズが100万円くらいした時代です。
そんなアメリカの服はどうやって作られているかというと、大量生産向けに作られている。アメリカの縫製工場はメキシコ系の人もれば中国系の人もいれば、どこの国から来たか分からないような人も働いているところなんです。だからたとえ言葉が通じなくても、やってみせれば誰でも縫えるようになっているんですよね。
川添(V) ニュアンスというような曖昧な感覚を生産工程にいれないから、人によって左右されないと。
木村(A) ただ僕の好み、というのもあるんですが、そうやって作られた商品は硬派に見えるんですよね。余計な味が排除されるというか。
コンテンツとしては体感が重要で、バックストーリーは二の次です。だからそこから語ることはしません。みんながストーリーを語るからそうしない、というのもあるんですけどね。簡単にいうと、みんなが「黒だ!」という時に、「白もいいよ」というブランドであれたらいいなと思います。それが良いと言っている人と同じぐらいの人が、裏側にもいると思うので。
<後編に続く>