本来アプローチすべき層はどれ? マーケティングの落とし穴
「データを起点とした一般的なマーケティングでは、施策を『どうやって(HOW)』行うかが先行しています。しかし、強いブランドを作るには『誰に(WHO)』の明確化が不可欠です。意味のない数値の列挙は、もうやめましょう。マーケティングは本来、もっと簡単でおもしろいものでなければなりません」
会議で数字だけを共有していないだろうか。施策が複雑化し、何をすべきか迷いが生じていないだろうか。競争激化の中で判断ミスが許されず「とりあえずやってみる」というチャレンジ精神を忘れていないだろうか。これらの“あるある”な課題の解決策について、田中氏はこうアドバイスする。
「売上をシンプルな構造に分解するのがポイントです。すると迷いがなくなり、判断が容易になります。フォーカスすべき作業にリソースを割け、結果的に売上の最大化につながるでしょう」
マーケティングのスタート地点である「誰に売るか」。田中氏は、4象限マトリクスを提示しターゲットの定め方を説明した。

縦軸は、そのブランドの商品を「使ったことがある」「使ったことがない」、横軸はブランドを「知らない」「知っている」。つまり、左上が「知らないが、使ったことがある」、右上が「知っていて、使ったことがある」、右下が「知っているが、使ったことがない」、左下が「知らなくて、使ったことがない」となる。この中で、どのターゲットを強化するべきかを見極めなければならない。
「実店舗がある有名ブランドは、ほとんどの購入者が右上の『知っていて、使ったことがある』人です。その層と十分に関係を構築した上で、初めて右下の『知っているが、使ったことがない』層にアプローチするのです」
右上の層をさらに分解すると「ブランドへの理解が浅いため、何が優れているのかを把握して、買う理由を明確にしたい人」「ブランドへの理解は深いが、今、何が話題になっているかを知って、買う理由を見つけたい人」だと考えられる。それぞれが求めている情報に合わせて、商品詳細ページやランディングページを作成する流れだ。

また、右下の「知っているが、使ったことがない」層は、多くのブランドがアプローチしたいターゲットだという。しかし、田中氏はそのリスクを指摘する。
「百貨店にも出店している有名ブランドなのに、該当のターゲット層の人はなぜ使ったことがないのか。理由を言語化できるブランドは非常に少ないです。それにもかかわらず施策を実行しても、マーケティングの効果は得られません」

二つのターゲット層の求める情報は、大きく異なる。一方で、マーケティングの現場ではどちらも重要顧客と認識されるケースも少なくない。
「どちらも追いかけているうちに『何にフォーカスするのか』が少しずつずれていき、結果的に売上につながらない。これが、よくある失敗パターンです」