美容部員の力をデジタルに活用 One to OneからOne to Manyへ
2021年7月、資生堂とアクセンチュアの合弁によって誕生した「資生堂インタラクティブビューティー(以下、SIB)」は、資生堂のデジタル(DX)・人材・ITの領域を担う戦略機能子会社だ。
グローバルNo.1のデータドリブンスキンビューティー&ウェルネスカンパニーへの変革を目指し、さまざまな取り組みを進めている。2025年には「DX注目企業」としても評価され、その存在感をいっそう強めている。

SIBでは、「グローバルシステムの導入」「DNA分析によるパーソナライズ体験」「メンバーシップサービス」などの提供を進めており、今回の話の中心となる「オムニPBP(パーソナルビューティーパートナー)」に関しても、SIBが主幹となって進めている。
オムニPBPとは、SIBに所属し、デジタルを主軸に活躍する美容部員たちのこと。SNS、ライブコマース、オンラインカウンセリング、セミナーなど多様なチャネルを駆使し、これまで店頭の1対1による接客が中心だった美容部員が、「One to Many」や「Many to One」など、より深い顧客体験を生み出す存在へと進化している。
スピーカーである河原由香理氏は「出発点は、美容部員1人1人が持つ個性や強み、オンリーワンのスキルや経験をデジタルの力でどう解き放つかから考えました」と語る。
「デジタルの最大の利点は時間や場所に縛られず、これまで対面だけでは出会えなかった多くのお客様とつながれることです。そうした環境を活かし、美容部員の力で新しい顧客体験やビジネスを形づくる──。それこそがオムニPBPに込めた想いです」(河原氏)

現在、SIBには20代から40代まで、約40名の男女がオムニPBPとして所属している(2025年6月時点)。メンバーは、資生堂グループ全体の公募型人材交流制度を通じて、自ら手を挙げた美容部員で構成されている。
「元々の接客スキルや顧客理解の深さに加え、『やりたい』という意志で集まったメンバーだからこそ、SNS発信にも高いモチベーションで取り組んでいます。2年間の活動を経てそれぞれの現場に戻ることで、現場側にもデジタルの風が吹き込まれる。その循環が結果的に、資生堂全体のDXを後押ししています」(河原氏)
では、こうしたオムニPBPたちは実際にどのように力を発揮しているのだろうか。次章では、その実例を紹介する。
オムニPBPの育成の柱は、成功モデルの横展開と徹底したPDCA
オムニPBPが最も力を注いでいる活動のひとつが、SNSでの発信だ。顧客との接点が多様化し、情報の信頼性がより問われる今、オムニPBPの1人1人による発信は、企業広報とは異なるリアルな声として支持を集めている。

現在、オムニPBPのメンバーは基本的に全員がInstagramとX(旧Twitter)のアカウントを持ち、フォロワー規模の大きい一部メンバーはTikTokも活用。またグループで運用する「Shiseido Beauty Journey」や、コーポレートの公式YouTubeチャンネルなども展開されており、個人・グループ・企業という3層構造で発信が行われている。
SNS活用において、どのプラットフォームを選ぶべきか。河原氏は「自分たちの強みとプラットフォームの相性は、やってみないとわからない部分が大きい」と率直に語る。そのうえで重要なのは運用スタイルの設計だという。
「個人アカウントであれば、自分のパーソナリティやトーン&マナーを自然に表現できます。しかし、グループの場合は、誰として発信するのか、どんな世界観で届けるのかを明確にしなければ投稿がぼやけてしまう。実際、個人アカウントの方が伸びやすいという実感もあります」(河原氏)
だからこそ「個人とグループの発信における役割や位置づけを明確にすることが重要」だと河原氏は語る。役割と位置付けがあいまいだと、似たような内容が並び、成果にもつながらないのだ。
オムニPBPのような社員インフルエンサーがこうした発信力を発揮するためには、土台となる育成環境が欠かせない。SIBでは、オムニPBPが自走できるよう、成長支援の仕組みを整えている。

育成の柱になっているのが、着任時の研修、月次での勉強会、そして日々のOJT。なかでも重視されているのが「成功事例の共有」と「PDCAの実践」だ。
「うまくいった事例は、できるだけ言語化・構造化して全員で共有しています。『臆せず真似してください』と伝えており、その結果、着任直後からフォロワー数やアカウントの成長スピードが明らかに高まっています。チーム全体の底上げにつながっていますね」(河原氏)
また、投稿の伸び悩むメンバーには、マネジメントチームが1on1で丁寧にフィードバックを行い、課題と改善点を共に見つけていく。実際、フォロワー数を着実に伸ばしているメンバーは、例外なくこのPDCAを地道に回し続けているという。こうした個々の試行錯誤こそが、オムニPBPの成長を支えているのだ。