アジャイルなビジネス展開に向け体制変更 オートバックスセブングループの現在地
オートバックスセブングループのデジタル変革を推進する則末氏は、同グループのIT・DXの歴史と切り離せないキーパーソンだ。小売SI、システムコンサル経験を経て、2018年にオートバックスセブンに入社。経営とITを一体化させるため、2023年にオートバックスデジタルイニシアチブを立ち上げ、代表取締役社長に就任している。

オートバックスデジタルイニシアチブの設立は、単なるコスト削減や効率化を目的としたものではない。本質は、オートバックスセブングループが2023年に発表した長期ビジョン「Beyond AUTOBACS Vision 2032」で掲げた、次の項目からうかがい知ることができる。
- 環境変化への適応
- 事業領域の拡大
- 新たな事業の創造
「これらを進め、2032年度に連結売上高5,000億円を目指すとしていますが、この達成には意思決定のスピードを劇的に加速させる必要があります。また、2024年度に策定した中期経営計画では『お客様にとっての“モビリティライフのインフラ”をグローバルで目指す』といった目標を掲げ、タッチポイントの創出、商品・ソリューションの開発と供給、新たな事業ドメインの設定といった戦略骨子を挙げました。
これら3本の柱を実現するには、経営とITをより密接に連携させなければなりません。オートバックスデジタルイニシアチブは、こうしたアジャイルなビジネス展開を可能にするため、立ち上げられました」
顧客理解が深められない理由は「カー用品を売っているから」だった?
ここまでの変遷をたどると、オートバックスセブングループはDX推進や顧客体験向上への関心度が高く、常に先を見据えた企業に見えるが、抜本的な改革に挑む裏には、ある“本質的な課題”が潜んでいる。それは古くから中心に据えてきた取扱商材が「カー用品」であることによる顧客接点の少なさだ。

「この図を見ていただくとわかるように、年間購買頻度が年に2~24回生み出せるホームセンター、家電、ドラッグストアと異なり、オートバックス店舗は年に2.n回と非常に少ない状況でした。年に数回しか会わない知人のことをあなたはよく知っていますか? 何が好きか、今何を考えているかは正確にわかりませんよね。
オイル交換やタイヤ交換、車検といった特定の目的がなければ来店しない状況のままだと、どうしても接点が限られてしまいます。これでは、顧客の深いニーズやライフスタイルを把握できません。そこで、店舗のPOSデータだけでなく、ECサイトやアプリ、情報サイトといったデジタルチャネルも用いて、カスタマージャーニーの再構築をしようと決めました」