単純な省力化は関係悪化の危険も 商談機会と体験価値最大化に必要な視点は?
前出のような解決すべき課題を語る上では、BtoB-ECが「受注以前のプロセス」と「受注以降のプロセス」に大別されることを意識しておく必要がある。
まず後者の「受注以降のプロセス」については、業務の煩雑さに関する課題が多い。たとえば、事業規模の大きい顧客を相手にする企業では、注文書のやり取り、納期回答、請求書の発行・回収など多くの事務作業が発生する。
一方、小規模事業者を顧客とする企業では、細かな問い合わせ対応の積み重ねによって、本来収益向上に直接的につながる生産的な活動を阻害することも多い。そして、これらの課題はBtoB-ECにより省力化できるのは周知の事実であろう。
一方で、「受注以前のプロセス」では、単純な省力化では顧客体験や関係性を損なうため、顧客に提供する体験価値を向上させつつ、商談機会を最大化することこそが重要なのである。
データを蓄積するだけではNG CX向上に必要なOne to Oneの考え方
受注以前のプロセスにおいて、顧客に提供する体験価値を向上するには「顧客理解」と「顧客特性に応じた最適な情報提供」が必要になる。そして、それらを可能にするのは、顧客に関するデータを蓄積して活用するための仕組みを構築することである。
たとえば、SFAやCRMと連携した顧客データを蓄積するための基盤、蓄積した顧客データを可視化・分析するためのレポーティング機能、データを活用して顧客ごとに最適な情報を提供するマーケティングオートメーション機能などが挙げられる。
こうした顧客データを収集・蓄積・分析する基盤を整えることで、十分で深い顧客理解を基にした顧客ごとの最適化、いわゆる「One to One」でのコンテンツ提供が可能となる。
また、蓄積されたデータはデジタルチャネルだけに活用が限定されるものではない。分析を通じた、重点顧客に対する営業戦略の策定や、顧客理解を踏まえた営業の商談提案への活用が可能になる点も、データ基盤の仕組みを構築する大きな狙いになる。蓄積したデータを活用し、顧客の問題解決に寄り添うアプローチをデジタルに閉じず、リアルチャネルとも融合した形で展開することこそが、顧客体験向上につながるであろう。
データ・デジタル活用を成功に導く「戦術設計」の組み立て方
しかし、実態としては、顧客データ基盤構築も含めた「デジタル活用の推進」自体が目的化しており、デジタルを活用した施策が効果的に働かないという悲痛な声をよく聞く。そしてそれは、本来の目的に応じた戦術設計(=オペレーション構築)が検討されずに、一足飛びにデジタル施策に着手・実行していることが最も大きな理由だと経験上いえる。
そもそも、ECをはじめとしたデジタルチャネルを活用する目的は「生産性を高めることによって効率的・効果的に営業成果を上げる」ことにほかならない。そして、この目的達成には、営業成果を「商談数」「単価」「勝率」に分解し、それぞれに必要な戦術設計を検討した上で、各種デジタル施策に取り組まなければならないのである。