人は判断を下すだけ 「UX」ではなく「AX」重視の時代に
では、具体的にEC市場でAIはどのように活用されていくのか。藤井氏は、三つの段階を示して説明した。
「第1段階として、デザイン・コンテンツ・コード制作の自動化が進みます。『ノーコード・ローコード』といわれるようになって久しいように、これは既に業界の中でも当たり前になりつつあるといえるでしょう。
ここからは未来の話になりますが、第2段階ではインターフェースが刷新されます。今のEC購入時に行っている商品の絞り込み、選択、決済といったステップを踏まずに、チャット形式で対話をしていくうちに商品選定・購入が済ませられるといったことも、近い将来起きてくるはずです。
第3段階は、提供価値やビジネスモデルそのものが刷新される時代です。消費者がECサイトに赴くのではなく、AIが代わりに来訪して買い物を済ませてくれる。既に一部のGPTのプラグインではこうしたことが実現できています。この段階にまで来ると、ECサイトを運営する側は『どうやってAIに選んでもらうか』を考えなくてはなりません。つまり、ユーザーエクスペリエンス(UX)ではなく、AIエクスペリエンス(AX)の時代になるのです」(藤井氏)
AIはインターフェースをアップデートするだけでなく、運営効率化に貢献する文脈でも活用が進んでいる。米国のスタートアップ企業 Talkootが提供する同名のサービスでは、商品画像やキーワードを入力するだけで、AIが詳細な説明文を自動生成。同様の機能は、2023年9月からAmazon.comでも提供が始まっており、精度向上と業務効率化の両立に悩むEC事業者にはうってつけのサービスといえる。
同じく米国の企業 Pantasticが提供するShopifyアプリ「LimeSpot」では、顧客の購買行動データを基に、購入可能性が最も高い商品のレコメンドやメールメッセージの送信、サイトのUIそのものの変更までAIが実施してくれるようになっている。人間の手で行うと相当な工数がかかるパーソナライズは、まさにAIに任せるべき領域であることは間違いない。
ここまで米国発のサービスを紹介してきたが、日本にもAIを活用した商品画像自動作成サービス「Fotographer.ai」というサービスが存在する。同サービスは商品の参考画像をアップデートし、イメージやコンセプトをAIに伝えると、自動的に背景画像や影、組み合わるモチーフなどが自動生成されるものだ。
「商品画像の作成を重ねることで、AIがブランドイメージやスタイルを学習し、より一層リアリティーある画像を作ってくれるようになります」(藤井氏)
今や当たり前のように各社が取り組むCRMの領域でも、AIの活用は必須だ。藤井氏は、CRMで成果を上げるための「4Rコミュニケーション」を挙げ、次のように補足した。
「“最適な”ユーザー(Right Person)に、“最適な”タイミング(Right Timing)で、“最適な”内容(Right Content)を、“最適な”チャネル(Right Channel)で届ける。これを人間の手で行おうとすると、とてつもない労力と工数がかかります。しかし、AIを活用すれば分析からコンテンツ作りまですべて手がけてくれ、人間はそれを判断するだけで良くなるのです。こうしたことが既に現実になりつつあります」(藤井氏)