店舗・ECの行動データをまとめて把握 Power Appsアプリが広げる接客の可能性
新たな顧客体験の創造、DX推進が必要となると、劇的な変化をイメージする人も多いだろう。しかし、これらの実現に向けて求められるのは、先進的なシステムを用いてデータを連携することだけではない。
事業者の目の前にはDXに着手する以前から顧客が存在する。そのため、売上アップや事業の持続性を保つ上では顧客からの支持を集め、継続してファンでいてもらえるような努力が欠かせない。データ活用が進む中で、これらをかなえる可能性がありながらも事業者が実現できていないことに「名寄せ」があると井上氏は説明する。
「『A』という顧客が店舗・ECで購入した記録が、すべて同一顧客のデータとして紐づいている状況を実現するのが名寄せです。顧客ごとに行動データをまとめて把握することで、さらに質の高いサービスを提供できるようになります」(井上氏)
井上氏は続いて、アパレル・ホテル・レストラン事業を営む架空の企業「Fabrikam Luxury HD」を例に作成したデモを紹介した。日本マイクロソフトのクラウドサービスとLINE APIを用いた同デモは、実際にLINE API Use Caseの「LINEで得た顧客の「ID」と「データ」を活かすOMO基盤としてのCustomer Data Platform」からも体験できる。
同社はLINEを使った会員管理システムを実装しているが、デモ上の顧客はアパレル事業の店舗・ECの会員情報を名寄せできていない設定だ。この状況から名寄せに必要な情報を自然な形で収集し、システム側で自動統合。導き出された結果を用いて、さらに顧客へ良質なサービスを提供することが最終目標となる。具体的なアプローチ方法は次のとおりだ。
1. 顧客がアパレル店舗に来店
顧客がスマートフォンを持った状態で店舗に訪れる。
2. 購入時に顧客がLINE上の会員証を提示
「LINE API」と「Azure App Service」を利用したLINEアプリにより、顧客のLINEのIDを識別したインタラクションを実現。「Power Apps」アプリを用いて店舗スタッフが二次元コードをスキャンすることで、顧客情報へアクセスできるようになる。
3. 顧客が店舗にディスプレイされている体験型イベントを知る
たとえば、新作のバッグやウォッチ、ネックレスを紹介する期間限定のフェアを定期的に開催。この情報に触れ、「新作をいち早くチェックしたい」「SNSで映える投稿をしたい」と考える顧客は参加者情報登録を行う。
4. 参加者情報登録
情報登録時に、メールアドレスと携帯電話番号を必須事項として設定。顧客が情報を入力し、送信することで名寄せの情報が揃う。
「たとえばメールアドレスは、店舗での会員登録時に文字列が長く書き間違える可能性があることから、必須事項としていないケースも存在します。しかし、EC上では発送通知やその後のCRMなどを行うために入力をマストとしていることがほとんどです。そのため、店舗でメールアドレス入力の機会を作り、名寄せの可能性を高めていきます。これは、Microsoftが提供するCDP『Microsoft Dynamics 365 Customer Insights』がメールアドレスなどで名寄せできる仕組みを持ち合わせているからこそ、実現可能です」(井上氏)
名寄せが完了すれば、目の前にいる顧客のEC上での行動を店舗スタッフが把握できる。Power Appsアプリを搭載したタブレットには店舗での購入履歴、ECでの購入履歴、レビューの内容、年間購入金額などが一覧で表示され、店舗スタッフはこれらの情報を踏まえた上で接客を実施。ヒアリングを重ねなくとも、顧客の趣味嗜好を踏まえたより良い接客サービスの提供が可能となる。
「名寄せにより、EC上での購入割合が高い顧客の存在を店舗スタッフが把握できるようになります。顧客の動きが見えれば、店舗に足を運んでいただくための施策検討にもつながるでしょう」(井上氏)
なお、同アプリでは自身の店舗や系列店で実施するキャンペーン・体験会などのリアルイベントを一覧化した画面も存在する。店舗スタッフが接客の中で話題として触れ、顧客が興味を示したものについてはLINEを用いてその場で案内を送信。定型メッセージに担当スタッフ名やオリジナルの文章を追記することでパーソナライズされた内容となり、特別感を演出することも可能だ。
「大好きなブランドの系列ホテルでの体験が魅力的であれば、継続的に訪れる、もしくは友人を誘うといった価値の広がりや顧客拡大につながります。中には、アパレル以外にレストランやホテル事業を営んでいることを知らない顧客もいるでしょう。こうした顧客にはサービスの幅広さを伝えることで、エンゲージメントをより高めることができます」(井上氏)
Power Appsアプリを用いた接客は店舗スタッフだけでなく、ストアマネージャー、エリアマネージャーにもメリットをもたらす。接客記録をデジタル上に残すことができれば、店舗の売上や店舗スタッフの実績、優秀な店舗スタッフの接客手法を把握したり、売上とイベント参加率の相関性を調べたりといったことも可能となる。
「エリアマネージャーは自身の担当店舗のデータを閲覧し、『A店の店舗スタッフが行っている接客手法をほかの店舗にも展開してみよう』などの判断を下すことができます」(井上氏)
最後に井上氏は、改めてLINE API Use Caseのウェブサイトを明示した上で、これらを支える仕組みを作り上げるエンドユーザー企業向けのコンテンツ群「リファレンス アーキテクチャ」を紹介。今後の展望を次のように語り、セッションを締めくくった。
「今後、LINE上で顧客体験向上を目指すシステムインテグレーションが増えた際にも、標準的なデータソースとして使っていただける仕組みを当社は準備しています。事業者の皆様のご期待に応えることができるよう、サービスインテグレーターの皆様にも積極的な技術支援を行ってまいります」(井上氏)