Shopifyの知名度は上がったけれど…… 便利なものも使い手次第
森野(運営堂) ちょうど1年ぐらい前に、Shopifyの強みがどこにあるのかというインタビューをさせていただきました。その後、あっという間に広がってShopifyのニュースを見ない日もなくなりましたし、EC業界ではShopifyでの構築がどんどん増えています。しかし、広がったがゆえに、トラブルやうまくいかない事例も増えていますよね。今日はこのあたりのお聞きできればと思っています。
井澤(コマースメディア) 弊社がShopifyを使い始めたのは2016年ぐらいで、その当時はShopifyを知っている人が少なかったため、そもそもShopifyとは何かを教えることから始まっていました。当時と比較すると大きく変わりましたね。
森野 ここまで広がってくると、「よくわからないけれど、ShopifyでECサイトを作れば売れそうだから」というパターンが増えていそうです。「とりあえずShopifyでやりたい」といった問い合わせは増えていますか?
井澤 最近はShopifyありきの依頼が増えていますね。何となくよさそうだから、よく聞くからという理由が主なもので、弊社にいただくお問い合わせの7,8割はこれにあたります。
森野 7,8割とはかなり多いですね! この理由で作りたい人が増えているということは、制作会社さんはウハウハというか、とりあえず作ってしまえば売上が増えていきますよね。でも、これって……。
井澤 良くないですよね。ECサイトの構築は作る前の要件定義がとても重要だと思っていまして、リプレースの時はさらに重要というか、要件定義をしないとほぼ事故になります。
森野 ほぼ事故になるというのはわかりますね。前の仕組みと同じことができるわけでもないですし、外部の連携ツールや社内の基幹システムとつながるかもわからないので、その確認をしないと120%うまくいかない感じです。
井澤 リプレースの理由で一番多いのは、今のプラットフォームの機能に満足していないから良くしたいというものなんですが、何となくリプレースというのも増えてきています。有名な経済紙で取り上げられたというのもありますし、誰もが知っているような企業でのShopifyの成功事例を経営者が見て、Shopifyにしろとお達しを出すとかです。現場はそんな必要性は感じていないけれども、やらざるを得ないみたいな流れですね。
森野 よくあるというか、ありすぎるというか……。現場の人は本当に動きたくないでしょうね。
井澤 このプロジェクトだと成功確率はものすごく低いので、作る前に「失敗しますよ」とちゃんと説明すると9割がたのお客様でストップしますね。「ありがとうございます。私から社長に説明します」という流れです。ストップする明確な理由を提供するのも我々の仕事だと思っています。
森野 後になってみんなが困るのであれば、自社の利益よりも止めるほうが優先ですよね。これ以外で私の周りで多いのは、代理店がShopifyをすすめているけど、実は代理店もそこから発注される制作会社さんもあまり詳しくなくてトラブルになるパターンです。
井澤 代理店様から弊社にかかわってほしいという御要望は多いですね。Shopifyを導入するので一緒に提案してほしいというものです。同じくここでも「ちょっと待ってください」と。Shopifyが良いかどうかの判断はECの知見がないとできませんよね? ECに詳しくなくて、これが良さそうだからやっておけば良いんでしょうというのが本当に多くなっていると感じています。
森野 同じような流れで、「補助金が出るからそれでECをやりましょう。Shopifyにしましょう」というパターンも増えてきましたよね。
井澤 弊社にいただくお問い合わせの中でも10%ほどは補助金関連なのですが、目的と手段が反対になってしまっているのがほとんどです。数年前はIT補助金のベンダー登録はしていましたが、やってみたところ、補助金があるからECサイトを作りたいというものばかりでした。売上を上げたいとか、新しい事業に投資をしたいからシステム開発するとか、前向きなチャレンジに補助があるというのが本来あるべき姿なのですが……。補助がなかったらやらないのですか?と思ってしまいますよね。
森野 補助金が欲しくてECサイトを作りたいだけなのであれば、それで満足なのかもしれませんけど、何のためにやっているのかと考えたくなりますよね。
井澤 その続きもありまして、補助金で作ったECサイトが結局のところ売れないとか、ここの機能をもっとこうしたいという要望が、最初に作った企業様ではなくて弊社に来るといったのが増えましたね。
森野 う~ん、なんだかんだでECサイトを作ったらそこで売りたいんですね。であれば、最初からその目的で始めればいいものを……。それにしても、他の人がShopifyで作ったものを直すことはできるのでしょうか?
井澤 そこはこれまでの経験から、「こういうパターンでつくったよね」という傾向がわかるため対応は可能です。直すよりもテーマごと入れ替えてしまったほうが早いこともありますけどね。