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ECzine Day 2024 Autumn

2024年8月27日(火)10:00~19:15

ECzine Day 2021 Spring レポート(AD)

全社巻き込み型でデータドリブンなCSを実現 メルカリのKARAKURI chatbot活用術とは

 近年、顧客体験向上の視点から、さまざまなECサイトで導入が進むチャットボット。AIチャットボット分野で、サイレントカスタマーの救済を売りとしているのは、カラクリ株式会社が提供する「KARAKURI chatbot」だ。フリマアプリ「メルカリ」も、2018年に同サービスの活用を始め、データドリブンなデジタルカスタマーサービスを展開している。当記事では、2021年3月23日に開催された「ECzine Day 2021 Spring」で、カラクリ株式会社 小田志門氏と株式会社メルカリ 平野友規氏、工藤千恵氏によって行われたトークセッションをレポートする。

3つのチャネルを活用するメルカリ CSの全体像を紐解く

(写真左)カラクリ株式会社 代表取締役CEO 小田志門氏
(写真中央)株式会社メルカリ CS Technical Program Management 工藤千恵氏
(写真右)株式会社メルカリ CS Technical Program Management Manager 平野友規氏

 「メルカリに学ぶ、データドリブンなデジタルカスタマーサービスとは?~LTV最大化への挑戦~」と題された当セッション。登壇したメルカリの平野氏、工藤氏は、CS Technical Program Managementという部署に所属し、日本向けメルカリアプリや各種チャネルからの問い合わせ対応、チャットボットの取り組み、顧客の声を活用したプロダクトの改善サイクル構築などの役割を担っている。

 トークセッションは、次の3つのテーマで実施された。

  1. 顧客接点を増やすチャネル選定
  2. VOCを活用したサービス改善
  3. データを活用したLTV最大化への挑戦

 ひとつめの「顧客接点を増やすチャネル選定」は、チャットや有人オペレーターなど、さまざまある顧客とのコミュニケーションチャネルをどのような優先順位で選んでいけばよいかを考えるものだ。はじめに、メルカリのデジタルカスタマーサービスの全体像を平野氏が紹介した。

「メルカリのお客さまは大きく分けると、出品する方、購入する方に二分することができます。もっとも大きな窓口は、アプリのマイページ上に設けているお問い合わせフォームです。ここからお問い合わせが入ると、有人オペレーターがスピーディーに対応するといったことをこれまで行ってきました」(平野氏)

 同社はサービス成長にともない、ユーザー数が増加する中で、メルカリガイドという名のFAQを拡充したり、「KARAKURI chatbot」を導入したりして、対応を強化。現在は、メルカリガイド、チャットボット、問い合わせフォームの3つのチャネルで顧客対応を行っている。

 メルカリの取り組みの特徴として、データ活用に着目したい。FAQに寄せられた顧客の声や、アクセスデータ、チャットボットのデータなどを収集し、有人オペレーターのデータと合わせて分析。有人対応のナレッジとして、応対の内容やFAQの改善などにも活かしていると言う。

問い合わせ傾向をキャッチし「攻めのCS」を実現 導入の効果とは

 続いて、カラクリの小田氏が「チャットボット導入の背景」を平野氏に聞いた。

「メルカリを利用するお客さまが増えると同時に組織も大きくなりましたが、有人対応だけでは限界があると感じていました。お客さまをお待たせしないためにも、24時間対応ができる機能が欲しいというニーズが社内に強くあったのです」(平野氏)

 KARAKURI chatbotを選んだ理由については、「チャットボットに限らず、カスタマーサービスの分野で、幅広くAIや技術を活用しており、知見や実績がある点を評価した」と続けた。

株式会社メルカリ CS Technical Program Management Manager 平野友規氏

「KARAKURI chatbot導入により、当初狙っていた24時間の対応はもちろんのこと、お客さまから寄せられる声を効率的に集めることができるようになりました。それを、チャットボットだけでなく他チャネルの改善に活かすことができた点もよかったと思っています」(平野氏)

 導入からおよそ2年、社内でチャットボットの存在価値を高める道のりは決して順風満帆ではなかったと言う。小田氏が導入当初のチャットボットへの評価について聞いたところ、平野氏は「運用にかかわるメンバーはチャットボットがお客さまに対してどう働きかけ、貢献しているのかきちんと見えていたが、最初は社内であまり存在を知られていなかった」と語った。しかし、平野氏をはじめとするCS Technical Program Managementの働きかけにより、「ここ1年で「チャットボットがよい仕事をしていると認められるようになってきた」と続ける。

 チャットボットを導入したが、社内やカスタマーからの評価を得ることが難しいと悩みを抱える担当者もいるだろう。ここで導入当初と比べ、評価が上がった理由について小田氏が尋ね、平野氏はふたつの理由を挙げた。

 ひとつは、KPIを設定して取得したチャットボットのデータを社内で毎週報告するようになったことだ。積極的に情報共有をし、チャットボットが顧客に貢献していることを周知させたと言う。そして、もうひとつは「トレンドアラート」機能の実装である。同機能は、KARAKURI chatbotのオプション機能となっており、大量の問い合わせ、不満、クレームをAIがリアルタイムで分析し、顧客の声の変化を迅速に察知するものとなっている。

「チャットボットに寄せられる数万件の問い合わせをリアルタイムで解析して、増加しているキーワードや平常時と異なる動きを検知し、社内に共有する仕組みを導入しました。たとえば、『今こういったホットなトレンドがあるから、その件についてお問い合わせが来るかもしれない』と有人対応チームに連携したり、『アプリに関する問い合わせが増えているから障害が起きている可能性がある』と障害対応のチームに話をしたり、トレンドアラートを使うことでチャットボットの存在感が出てきたと感じています」(平野氏)

 トレンドアラートは、24時間集積される大量のデータを解析する、AIの強みを活かした機能だ。小田氏は「トレンドアラートでキャッチした情報を他部門の方々が興味深くウォッチしており、全社を巻き込んだカスタマーサポートが体現できている」とメルカリの取り組みを評価した。

データドリブンな組織への変化 鍵はバランスの取りかたにあり

 有人対応のカスタマーサポートやコールセンターの場合、業界の歴史の中で対応数や応答率の水準が明示されているが、デジタルカスタマーサポートの領域においては「標準とされるKPIがまだ広く共有されていない」と小田氏は語る。

カラクリ株式会社 代表取締役CEO 小田志門氏

 さらに小田氏は、「カスタマーサービスの現場で、KPIを共有するという取り組みを全社で行っている企業はまだ少ないのが現状」と続け、メルカリ内でカスタマーサービスのKPIを共有する機会が増えた背景を平野氏に問いかけた。

 平野氏がメルカリに入社したのは、2018年。当初は従業員数が増え、組織のフェーズが変わり始めた頃だったと言う。各チームが独自の動きをすることで施策がバッティングしたり、足並みが揃わなかったり、結果的に顧客に提供するサービスに影響が出てしまうといったことも起き始めていた。「このままではいけないという共通認識が社内に芽生え、プロダクトもカスタマーサービスも横を見ながら動こうと連携が強化された」と平野氏は説明する。

 カスタマーサービスの部署においては、数百人のメンバーがさまざまなプロジェクトを進めていたが、進捗方法についても標準化が進み、指標を明確にした上でデータ取得を行うようになったと言う。そして、2019年以降は、データを見ながら判断する組織に変わったと、平野氏は語る。

 小田氏は平野氏の発言を受け、「顧客接点で得た情報を、単に顧客対応のデータとして残すだけでなく、関連部署へ共有したり、サービス改善に活かしたり、さまざまなものに流用するのはレバレッジが効くやりかた」と説明した上で、「顧客接点を増やすチャネル選定」というテーマについてこのようにまとめた。

「デジタルのチャネルがメインであることのメリットは、お客さまの声をデータとして残しやすい点にあります。チャネル選択の際にデジタルのチャネルの比率をいかに上げるかは、考える必要があると言えるでしょう。しかし、お客さまに不便さを与えてはなりません。デジタルと有人活用を両立しながら、利便性向上とデータ収集を拡大していくことが重要です」(小田氏)

メルカリが力を入れるVOC活用 社内の情報共有はどう行う?

 次のテーマは、「VOC(Voice of Customer:顧客の声)を活用したサービス改善」。VOCの活用は、コールセンター業界において永遠のテーマと言っても過言ではない。活用しなければと思いながらも、実現できていない企業も多いのが現状だろう。工藤氏によると、メルカリでは「VOCプログラム」を立ち上げ、顧客の声を分析した結果を社内に届ける活動に力を入れていると言う。

「『VOC Portal』と呼ばれる、お客さまの声を収集した社内向けのサイトを構築したり、毎月『VOC新聞』を社内のカフェスペースに掲示したりと、声を可視化する仕組みを作っています。また、『VOC meeting』という活動も行われています。お客さまの声を分析して課題を特定し、プロダクト部門と一緒にどう解決したらよいかを考え、PDCAサイクルを回しています」(工藤氏)

株式会社メルカリ CS Technical Program Management 工藤千恵氏

 VOCの活用事例として、「評価システム改善プロジェクト」という取り組みが紹介された。メルカリには、商品の出品者と購入者が取引完了時に互いを評価する仕組みがある。従来、「良い」「普通」「悪い」という3段階の評価項目が設定されていたが、「評価をめぐりトラブルが生じるケースがあった」と工藤氏は語る。

 顧客の声に目を向けると、「普通」という言葉の解釈が人それぞれ異なることが課題として表出。あいまいな表現を用いることで、評価した顧客にとっては普通に感じたことが、評価される顧客にとっては「問題ない取引なのになぜ普通なのか」と不満につながることが見えてきたと言う。

「最終的に、『良かった』『残念だった』の2択に評価軸を変更しました。これにより、メルカリにおける取引数が40%伸びる中でも、お客さまの問い合わせ数の伸び率は10%に抑えることに成功しています」(工藤氏)

 工藤氏の事例紹介を踏まえ、「こうした取り組みは、誰かが音頭を取って進めない限り、実現はなかなか難しい。社内でどのように取り組みが進められてきたのか」と、小田氏が質問を投げかける。これに対し、工藤氏は次のように答えた。

「メルカリジャパン CEOがカスタマーサービス出身ということもあり、トップダウンで変わった部分もあります。お客さまの声をプロダクトの改善に活かしたいという思いを経営陣が持っていることは大きいと思います」(工藤氏)

 顧客の声を活かす取り組みが軌道に乗るか否かは、経営陣の意識や判断も関係すると言えよう。小田氏は「経営陣の方は覚悟を決めて取り組むことが必要。また、経営陣にそういった提案をしてみることをメンバーの方にもお勧めしたい」と呼びかけた。

データを武器に全社を巻き込み、カスタマーサービスを向上させよう

 最後のテーマは「データを活用したLTV最大化への挑戦」だ。「Goodmanの法則」によると、商品やサービスに不満や疑問を感じた際に、問い合わせのアクションを起こすのは4%で、残りの96%は不満や疑問を抱えているにもかかわらず、問い合わせをしないと言われている。カラクリの独自調査でも、問い合わせをしない顧客(サイレントカスタマー)は約7割存在する。なお、そのうち約3割は競合サイトで購入をしているという結果も出ていると言う。

 顧客の不満を解消した際にどんな効果が現れるかを説明すべく、小田氏は「メルカリエンジニアリング」のデータを紹介した。悪い体験をして問い合わせをした顧客の再購入率や継続率は、悪い体験をして問い合わせをしなかった顧客よりも高くなっている。

 小田氏は「これらのデータから、カスタマーサービスで不満解消体験を提供できれば、事業成長にも作用する」と説明した上で、今後LTV向上のためにメルカリが考えている取り組みについて問いかけた。

 これに対し工藤氏は、購入した顧客よりも出品した顧客からの問い合わせが多いメルカリの現状を踏まえ、「購入に比べると、商品を売るにあたってのステップが多いため、出品するお客さまの体験をより改善していきたい」と語った上で、こう続けた。

「中でも、『初めて出品する』という体験がつまずきやすいポイントと考えています。メルカリでよく出品していても、いつもと違うものを売る場合は『初めて出品する』という体験になります。単に初回という切り分けではなく、どの領域に対して初めてなのかなど行動を細分化し、その中でこういった体験をしているお客さまは今後よりメルカリを活用してくれそう、この体験は早く改善したほうがよりよい体験を生むことができそう、といったように深掘りし、お客さまを強固にサポートする仕組みを作っていきたいと考えています」(工藤氏)

 現在、同社ではこうした取り組みを人の力を使って行っているが、将来的には自動化を進めていきたいと言う。これを受け、小田氏も「カスタマー視点で見ても、問い合わせをするのはハードルが高い。困るタイミングを予測し、そのタイミングで寄り添うことが自動対応でできるようになれば、問い合わせのハードルは劇的に下がるはずなので、カラクリとしてもこうしたシーンを増やしていきたい」と述べた。

 最後に小田氏は、データドリブンなカスタマーサービスを実現するポイントを次のようにまとめた上でこう語り、セッションを締めくくった。

  1. 顧客接点を増やすチャネル選定:効果を見える化し、勝ちパターンを構築
  2. VOCを活用したサービス改善:「顧客の声」で全社を巻き込む
  3. データを活用したLTV最大化への挑戦:データを基に、カスタマーの問題解決の先手を打つ

「すべてに共通して言えることは、『データを武器にする』ということです。データを見える化し、活用してカスタマーサービスを練り上げる必要があります。データを武器に全社を巻き込んでいきましょう」(小田氏)

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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