実店舗接客の延長で深まる顧客理解 1to1コミュニケーションの設計法
実店舗の来店促進、顧客体験のパーソナライズを経て、次にエノテカが着手したのは「顧客理解を深めるための進化」だ。ワインのように嗜好性の高い商品は、クチコミや商品評価がすべての顧客に例外なくマッチするとは限らない。単純に購入履歴のみを参照して商品レコメンドを行うと、購入したものの好みでなかった商品や贈答品として購入したワインのデータも反映されてしまう恐れがある。そこで開発されたのが、「ワインノート」という機能だ。同機能では、顧客自身がワインの評価や感想を記録することで、提案の精度を上げるだけでなく、顧客が記録する楽しさを体感することもできる。そのほかにも、購買傾向を表示する「パーソナルレポート機能」や、質問の回答内容に応じて適したワインを提案する「ワイン診断機能」もリリースしている。
「ワインノートは、将来的にECサイトで利用することも踏まえて改善や更新が柔軟にできるよう、あえてウェブアプリとして実装しました。ここでもMGReの自動ログイン機能が有効に働き、アカウント連携することでECサイト、アプリ、KARTEでワインノートの情報を一括管理することができています」(篠田氏)
そして、最終ステップとして紹介されたのが「1to1コミュニケーションの実現」フェーズである。エノテカでは、1to1コミュニケーションを実店舗接客の延長としてとらえており、コロナ禍で実店舗に足を運ぶことが難しくなった顧客にも従来通りの接客ができるよう、アプリを有効活用することを目指している。
まずは、実店舗スタッフの接客力を活かすために「STAFF START」を導入。ECサイトにおける商品選びの手助けとして、ノウハウの横展開を進めた。同施策は、あくまで実店舗スタッフからマスに向けた発信となるが、今後は顧客1人ひとりのことを深く理解する実店舗スタッフが、顧客へ個別にDMを送ったりチャットでスムーズにコミュニケーションをしたりといった機能を実装する予定だと言う。
「類似したコミュニケーションはLINEなどでも実現可能ですが、ECサイトとの連携を視野に入れる場合は、アプリでの展開をお勧めします」(篠田氏)
篠田氏は、ここまで紹介した内容を振り返り、「エノテカ様の1to1マーケティングが成功した秘訣は、『長期的なビジョンと段階的なリリースの両立』である」と再度強調した。アプリ運用経験がほぼない状態から取り組みを開始したエノテカでは、実店舗スタッフの慣れとノウハウの蓄積が必要とされていた。理想像に向け一気に走るのではなく、もっとも重視していたオンラインの顧客接点作りから1歩ずつ進めた点が成功の秘訣であり、結果的に突如訪れたコロナ禍の柔軟な対応にもつながったと言えるだろう。
また、「アプリを介したオンラインとオフラインの連携を妥協せず作り込んだことも、成功の大きな要因」と篠田氏は続ける。実店舗でアプリのインストールを促進し、顧客の可視化に成功したことで、同社はデータを用いた顧客体験向上施策を実現している。篠田氏は、「テクノロジー先行のアプローチではなく、これまで展開してきた実店舗の接客をオンラインで再現する手段としてアプリを活用した点も、成功の秘訣」と振り返った上でこのように語り、セッションを締めくくった。
「ECでパーソナライズを行い、実店舗スタッフはこれまで通りコミュニケーションを軸足に置いて、顧客と信頼関係を築き上げる。それぞれのチャネルの得意分野を分担した設計が実現できているエノテカ様のケースは、1to1コミュニケーションの好事例と言っても過言ではありません。コロナ禍でオンライン接客や1to1マーケティングへの期待がさまざまな業種において高まっていますが、『何かやらなくては』という焦りから単発で施策を打ってもあまり意味がありません。必ずしも新しいことに挑戦する必要はなく、アフターコロナの世界で自社のビジネスがあるべき姿を冷静に思い描いた上で、取り組みの順番を見直すなど力の入れかたを変えることが大切です」(篠田氏)