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ECzine Day 2024 Autumn

2024年8月27日(火)10:00~19:15

ECzine Day 2021 Winter レポート(AD)

顧客の嗜好をアプリで理解 ワイン通販の「ENOTECA」が目指す1to1マーケティングの秘策を探る

 実店舗企業が、コロナ禍の影響で新たな接客サービス構築に右往左往する中、ワイン専門商社のエノテカ株式会社は、アプリを使った顧客体験向上を着実に実現。ワイン通販サイト「ENOTECA」においては、顧客満足度4年連続1位を獲得するなど、好調な記録を残している。2021年1月28日・29日に開催した「ECzine Day 2021 Winter」にて、同ブランドのアプリ開発に携わる株式会社ランチェスター プロダクト部 プランナーの篠田健吾氏が登壇し、取り組みのプロセスを時系列に沿って紹介した。

実店舗向けアプリの体験を向上する「MGRe(メグリ)」の強みとは

株式会社ランチェスター プロダクト部 プランナー 篠田健吾氏

 無印良品のアプリ「MUJI passport」の開発に携わるなど、実店舗向けアプリのノウハウを豊富に持つランチェスター。同アプリの開発経験を活かしたモバイルアプリプラットフォーム「MGRe(メグリ)」を提供している。プランナーの篠田健吾氏は2014年に同社へ入社し、ウェブサイトやアプリの分析などを経て、現在はプランナーとして製品開発を担当している。

 MGReはオムニチャネルやOMOにおける活用実績が多く、システム連携やECサイトへの自動ログインなど、カスタマイズへの対応力を大きな強みとしている。昨秋には、大手ECプラットフォームを展開している株式会社フューチャーショップと連携し、「futureshop omni-channel」を利用する企業はMGReを用いてアプリ化を容易に実現できるようになった。

 これまで、THE NORTH FACEやオンワード樫山などのアパレル企業を中心に導入が進んできたMGReだが、近年は東急ハンズやFrancfranc、コスメブランドのTHREEなど、幅広い業種で活用されている。4年連続でワイン通販の顧客満足度ナンバーワンを獲得しているワイン専門商社エノテカも、その中のひとつだ。2019年にアプリをリリースして以来、バージョンアップを繰り返しながら機能を向上させている。篠田氏は、「エノテカ様の成功の背景には、長期的なビジョンと段階的な機能リリースがあった」と振り返る。

 同社がアプリ制作を決めた当初の目的は「実店舗への来店促進」と「既存コンテンツの有効活用」にあった。リピーターをしっかり取り込むことが肝要なワイン販売ビジネスにおいて、会員サービスを活性化させることが来店促進につながると同社は考えていたが、それを実現するにはすでにECサイトで配信していたさまざまなコンテンツをアプリにも横展開する必要があった。MGReを活用することで、同社は約半年間という短い開発期間の中でも、滞りなくアプリのリリースに成功している。

実店舗向けアプリがEC売上強化に エノテカ流・アプリの成長施策

 アプリリリースにあたり、最初に取り組んだのはゲスト会員機能の実現だ。同機能は、インストールしたその場でアプリを会員カードとして利用できるもの。機能実装により、会員カードを紙で発行していた頃と比べ、実店舗スタッフの手間と拘束時間を大幅に減少することができている。また、アプリインストール数が増えることでプッシュ通知機能を用いた情報発信など、新たな顧客とのコミュニケーション手段が確保され、再来店促進施策を打ちやすくなったと言う。

「ECサイトの利用推進も目的として掲げられてはいましたが、アプリリリース当初はあくまで実店舗重視で開発を行っていました。拡張プランの中には組み込まれていたものの、1to1マーケティングにもまだ着手できていなかった段階です。すべての開発を一度に行うのではなく、順を追って取り組もうとするエノテカ様の姿勢が印象的でした」(篠田氏)

 エノテカは、リリース時点でコンテンツの自動更新と自動ログイン機能を実装している。コンテンツの自動更新については、もともと同社がECサイトで積極的にコンテンツ発信を行ってきたことを踏まえ、MGReが提供するクローラー(コンテンツ自動収集)機能を活用。購入意欲が芽生える前の顧客に効果的に情報を届けるため、ECサイトで公開したコンテンツをアプリにも自動反映できるようにした。

「せっかくアプリを作っても、運用の手間がかかるようでは継続運用できず意味がありません。最初に運用イメージを具体的に描き、負担を軽減できるところは極力自動化することが重要です」(篠田氏)

 アプリの目玉機能と言える、プッシュ通知を最大限に活かすべく実装したのは、自動ログイン機能だ。プッシュ通知は、購入意欲喚起に役立つ重要な導線だが、購入時に毎回ログインを要求されるようでは、顧客の意欲を削いでしまう。そこで自動ログインが実現すれば、興味を持った顧客の熱が冷めないうちにスムーズに購入まで導くことができる。

「同機能は、アプリ購入する顧客の体験を考えた際に欠かせない機能であると考え、当社からエノテカ様へ提案しました。そして、これがその後のバージョンアップで非常に重要な役割を担うことになります」(篠田氏)

 アプリリリース当初の目的を着々と達成する中で、次のステップとして掲げられた目標は「顧客体験のパーソナライズ」だ。顧客全員に同一コンテンツを届ける従来型の情報発信ではなく、顧客に応じた商品レコメンドやコンテンツの出し分けも、MGReでは実現できる。

 エノテカは、同時期にECサイトへCXプラットフォーム「KARTE」を導入することが決まっていた。そこで、アプリでも同様の体験を届けるためにSDKを組み込み、アプリ向けプラットフォーム「KARTE for App」を導入。ここでポイントとなったのは、MGReとの役割分担だ。

「プッシュ通知をKARTE for AppとMGReのどちらから送るのか、もしくは併用するのか。運用が煩雑にならないよう、両者の役割分担をきちんと整理しました。また、KARTE for Appを有効活用するにあたり、MGReの自動ログイン機能が役に立っています。KARTEを導入するECサイトが増える中、アプリでも一貫した購入体験を提供したいと考える企業・ブランドは多くいらっしゃるはずです。MGReはすでに連携体制構築の実績があるので、安心してお任せいただければと思います」(篠田氏)

実店舗接客の延長で深まる顧客理解 1to1コミュニケーションの設計法

 実店舗の来店促進、顧客体験のパーソナライズを経て、次にエノテカが着手したのは「顧客理解を深めるための進化」だ。ワインのように嗜好性の高い商品は、クチコミや商品評価がすべての顧客に例外なくマッチするとは限らない。単純に購入履歴のみを参照して商品レコメンドを行うと、購入したものの好みでなかった商品や贈答品として購入したワインのデータも反映されてしまう恐れがある。そこで開発されたのが、「ワインノート」という機能だ。同機能では、顧客自身がワインの評価や感想を記録することで、提案の精度を上げるだけでなく、顧客が記録する楽しさを体感することもできる。そのほかにも、購買傾向を表示する「パーソナルレポート機能」や、質問の回答内容に応じて適したワインを提案する「ワイン診断機能」もリリースしている。

「ワインノートは、将来的にECサイトで利用することも踏まえて改善や更新が柔軟にできるよう、あえてウェブアプリとして実装しました。ここでもMGReの自動ログイン機能が有効に働き、アカウント連携することでECサイト、アプリ、KARTEでワインノートの情報を一括管理することができています」(篠田氏)

 そして、最終ステップとして紹介されたのが「1to1コミュニケーションの実現」フェーズである。エノテカでは、1to1コミュニケーションを実店舗接客の延長としてとらえており、コロナ禍で実店舗に足を運ぶことが難しくなった顧客にも従来通りの接客ができるよう、アプリを有効活用することを目指している。

 まずは、実店舗スタッフの接客力を活かすために「STAFF START」を導入。ECサイトにおける商品選びの手助けとして、ノウハウの横展開を進めた。同施策は、あくまで実店舗スタッフからマスに向けた発信となるが、今後は顧客1人ひとりのことを深く理解する実店舗スタッフが、顧客へ個別にDMを送ったりチャットでスムーズにコミュニケーションをしたりといった機能を実装する予定だと言う。

「類似したコミュニケーションはLINEなどでも実現可能ですが、ECサイトとの連携を視野に入れる場合は、アプリでの展開をお勧めします」(篠田氏)

 篠田氏は、ここまで紹介した内容を振り返り、「エノテカ様の1to1マーケティングが成功した秘訣は、『長期的なビジョンと段階的なリリースの両立』である」と再度強調した。アプリ運用経験がほぼない状態から取り組みを開始したエノテカでは、実店舗スタッフの慣れとノウハウの蓄積が必要とされていた。理想像に向け一気に走るのではなく、もっとも重視していたオンラインの顧客接点作りから1歩ずつ進めた点が成功の秘訣であり、結果的に突如訪れたコロナ禍の柔軟な対応にもつながったと言えるだろう。

 また、「アプリを介したオンラインとオフラインの連携を妥協せず作り込んだことも、成功の大きな要因」と篠田氏は続ける。実店舗でアプリのインストールを促進し、顧客の可視化に成功したことで、同社はデータを用いた顧客体験向上施策を実現している。篠田氏は、「テクノロジー先行のアプローチではなく、これまで展開してきた実店舗の接客をオンラインで再現する手段としてアプリを活用した点も、成功の秘訣」と振り返った上でこのように語り、セッションを締めくくった。

「ECでパーソナライズを行い、実店舗スタッフはこれまで通りコミュニケーションを軸足に置いて、顧客と信頼関係を築き上げる。それぞれのチャネルの得意分野を分担した設計が実現できているエノテカ様のケースは、1to1コミュニケーションの好事例と言っても過言ではありません。コロナ禍でオンライン接客や1to1マーケティングへの期待がさまざまな業種において高まっていますが、『何かやらなくては』という焦りから単発で施策を打ってもあまり意味がありません。必ずしも新しいことに挑戦する必要はなく、アフターコロナの世界で自社のビジネスがあるべき姿を冷静に思い描いた上で、取り組みの順番を見直すなど力の入れかたを変えることが大切です」(篠田氏)

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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