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ECzine Day 2024 Autumn

2024年8月27日(火)10:00~19:15

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顧客時間登壇!イベントレポート「Lanchester Meetup~アプリでつくる顧客体験~」

 2019年5月27日(月)、アプリ制作で知られる株式会社ランチェスターは、イベント「Lanchester Meetup~アプリでつくる顧客体験~」を開催。顧客時間の奥谷孝司氏、岩井琢磨氏が基調講演を行ったほか、同社のモバイルアプリプラットフォーム『EAP』を導入しているユーザー企業が登壇し、アプリ活用の実態について語った。

顧客と繋がる時代のマーケティング戦略

 ランチェスター主催イベント「Lanchester Meetup~アプリでつくる顧客体験~」の基調セッションには、株式会社顧客時間の奥谷孝司氏、岩井琢磨氏がふたりで登壇。「顧客と繋がる時代のマーケティング戦略」と題し、講演を行った。

 企業のチャネルシフト戦略について、具体的な事例を紹介しつつ、ベストセラーとなった共著『世界最先端のマーケティング 顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略』(日経BP社)掲載のマトリックス図などで概念化。セッションは、ふたりの絶妙な掛け合いによって展開していった。

株式会社顧客時間 共同CEO/取締役 奥谷孝司氏(写真・左)、同 共同CEO/代表取締役 岩井琢磨氏(写真・右)

 「チャネルシフト」という言葉は、店舗オペレーションの世界で用いられるものだと思われがちだが、ふたりが著書のタイトルに込めた意味はそうではないと言う。そして、ふたりが提示する意味で「チャネルシフト」をとらえている代表企業として、Amazonをあげた。

 オンラインでビジネスを行う企業として始まったAmazonが、実店舗「Amazon Go」を出店。「無人コンビニ」とも呼ばれ、人手不足解消の解決策にもなると言われることもあるが、ふたりは、Amazon Goの目的は店員の削減ではないと解釈している。確かに、ユーザー自ら決済までを行うことで店員が介入せずとも買い物ができるが、店員はそれによって空いた時間を接客にあてるなどして、顧客とのエンゲージメントを深めることが目的ではないかと言う。実際にAmazon Goを訪れてみれば、店員は複数おり、無人店舗ではない。

 次に、リアル書店「Amazon Books」。本がすべて面置きになっていること、プライム会員であればディスカウントされた価格が提示されるなど、Amazonでの買い物体験をオフラインでも提供するほか、顧客のオフラインでの購買行動データを取得していると見ている。そして、ホールフーズ・マーケットの買収については、単にAmazonがリアルな場を取得しただけではなく、「チャネルの移行(シフト)を越えた『融合』を実現した」と表現。さらに、Amazon Dash ButtonやAmazon Echoを紹介し、オンラインの企業がオフラインに進出する場合、必ずしも店舗という形にはならないことを付け加えた。

 「Amazonはオフラインにもチャネルを設けて、マーケティング全体を変えていこうとしています。チャネルというPlaceを変えることで、顧客とつながり、商品(Product)やプロモーション(Promotion)、価格(Price)を変える。つまり、チャネルシフトはマーケティング変革なのです」

 Amazon以外の事例として、まずはZOZOTOWNの「ZOZOSUIT」を紹介。「オンラインの課題であったサイズ問題を、顧客の自宅というオフラインに送り込むことによって、解決しようとした取り組み」と解説。次にアメリカのメンズアパレルブランド「BONOBOS」。オンラインで予約し、実店舗でサンプルを試着する。その場で購入できるが、商品は後日自宅に届く仕組みが特徴だ。「実店舗の役割が変わっている。オンラインで顧客とつながっていなければ、このやりかたは成立しません」

 以上の例から見えてくるのは、チャネルシフトには3つの特徴があることだ。まず、オンライン発の企業がオフラインに進出してきていること。つぎに彼らは、オフライン単体でマネタイズを考えるのではなく、顧客とつながるためにオフラインを活用していること。そして、マーケティング活動全体を変革しようとしていることである。

 「顧客とつながるために行動データを見ようとすると、従来のオフラインのビジネスではPOS等で『購買データ』を見るしかなかった。しかしをチャネルシフトを行うことで、『選択』『使用』といった購買以外のデータを見ることができるようになります。オフライン発の企業が、ECやアプリを使ってオムニチャネル化を進めるのはそのためです。さらに、オンラインでデータを取得するだけでは不十分で、縦割り組織によって分断されたそれらのデータをつなぎ、『顧客時間』の視点で見る必要があります」

 顧客時間の考えかたを取り入れている事例として、オーダースーツブランド「DIFFERENCE」を紹介。実店舗でプロのテイラーが採寸するというリッチな体験を提供、2回目以降の購入はそのデータを活用し、アプリで購入できるというもの。

 「スーツを1回作ってもらうことは難しくありませんが、2回目以降はハードルが高い。DIFFERENCEは2回目以降のLTVを見据えた、『顧客時間単価』でビジネスを見ていると言えるでしょう」

 アメリカのアイウェアブランド「Warby Parker」も顧客時間の思想を感じられると言う。

 「今の時代、メガネを作る企業はたくさんある。その中で埋もれないためには、顧客体験をリッチにしていく必要があります。Warby Parkerは実店舗を出店する前に、自宅での試着や車での移動販売などで一歩でも顧客に近づこうとしてきました。それらの経験やノウハウが蓄積されているのだと思います」

 これからの時代、企業がいかに顧客を理解できているかが勝負を決めると言う。その視点でもう一度、Amazon Booksを見てみよう。まずAmazonは、オンラインのAmazonによって「選択」「購買」のデータを持っている。それに加え、電子書籍(Kindle)によって「どこまで読んだか」という、商品がいかに「使用」されたかのデータを取得している。

 「『使用』のデータによって、よりリッチな顧客時間を提供できます。すでにAmazonはPrime Videoの視聴データをオリジナルの動画コンテンツ制作に活用できますが、このようにオリジナル商品を作り、その提案まで行えるようになるわけです」

 では実際に、マーケティングはどのような変革を遂げるのか。従来、商品(Product)ありきでその後、価格(Price)や販促(Promotion)を考える「フロー型」で行われてきた。顧客時間の視点で考えることにより、顧客とつながる「Place」を中心とした「ストック型」のマーケティングに変わると言う。Placeで顧客エンゲージメントを高めることによって、Promotion、Product、Priceを最適化し、さらに顧客エンゲージメントを高めるループを回すことができるのだ。

 「フロー型におけるPlaceは単に『販路』の意味しか持ち合わせていませんでした。しかしストック型におけるPlaceは、『顧客との接点』という概念にまで広がっていきます。Amazon Dash ButtonやAmazon Echoはその例と言えるでしょう」

 Placeでつながり、顧客エンゲージメントを高めている企業の例として、スマートレジカートやデジタルサイネージを活用し、店舗のメディア化に取り組むトライアルをあげた。

 「ストアというプラットフォームも、アプリ化していくことを示しています。RaaS(Retail as a Service)と表現してもいいかもしれません。トライアルさんの場合は、メディア化した店舗をプラットフォームとして、メーカー企業との新たなつながりを作っていこうとしているわけです」

 次に、登山家に愛用される、圏外でも現在地が確認できるアプリ「YAMAP(ヤマップ)」。

 「彼らは自分たちのことを、アプリ開発会社ではなく、コミュニティビジネスを営む企業だと考えている。実際、ユーザーによるオフ会が実現するなど熱狂的なユーザーを抱え、登山家に多い中高年のアプリ利用をフォローするためにコールセンターに力を入れています。コミュニティ運営によって得た知見で、オリジナル商品の開発を行っています。会員数だけで言えば、既存のメーカーやメディアにかなわないかもしれませんが、ユーザーとのエンゲージメントは強い。登山家にはどんな人がいて、どんなものが求められ、評価されるかがわかっていれば、メーカーとして成功する可能性は高い。これからは、Placeでお客様と強いつながりを持っていることが、経営資源になると言えます」

 このような例からも、企業規模を問わず、「D2C(Direct To Customer)」の考えかたを重視してほしいとふたりは言う。サブスクリプションも注目されるキーワードだが、Direct To Customerが実現できれば、必然的にサブスクリプションは実現する。なぜなら、顧客との関係性が強まるからだ。

 そしてこれまで紹介してきた、ストック型マーケティングを行っているのが、成功しているD2Cブランドの特徴だと言う。「どんな企業も、なにかしら優れた場、Placeを持っている。そこをきちんと顧客に見てもらいましょう」と述べ、講演をしめくくった。

企業と個を繋ぐコミュニケーション

 続いては、キリンホールディングス・平山高敏氏と顧客時間・風間公太氏が登壇。事前に寄せられた質問をランチェスター・田代健太郎氏がふたりに投げかける形で、トークセッションを展開した。

キリンホールディングス株式会社 デジタルマーケティング部 平山高敏氏(写真・中央)
株式会社顧客時間 チーフ・プランナー/広報統括 風間公太氏(写真・右)
株式会社ランチェスター 代表取締役社長 田代健太郎氏(写真・左)

 まず、「消費者の心をつかむために必要なことは?」という質問に対し、平山氏は「企業が自ら出向いて行って顧客と接点を持ち、消費者とひとくくりにせず、1人ひとりの顧客とつながり続けること」と回答。たとえば、キリンの「一番搾り」のファンだったとしても、掘り下げてみれば、大前提としてビールそのものの大ファンであり、その中で一番搾りを選んでいる人が多いといったことがわかったりする。調査データや数年前に設定したペルソナを鵜呑みにせず、ウェブならではの新しいコミュニケーションをしていくことが重要だと述べた。

 風間氏は、「顧客同士が語りあう場を持ってくれることが理想的だが、顧客の能動的な行動に期待しているだけではそれは起こらない」と回答。前の講演にあった「チャネルシフト」を受け、コミュニケーションの場もデジタルへとチャネルシフトしていること。それにより、個々の顧客と接点が持ちやすくなっている背景から、企業側から情報発信を地道に続け、良好な関係を築いていくことが重要だと述べた。

 次に、アプリ内で行うべきコミュニケーションについて。風間氏は前の講演でも示された、顧客時間のフレーム「選択」「購入」「使用」を紹介。顧客接点として長く、深いのが「使用」であり、そこに寄り添うコミュニケーションを行うべきだとした。アプリの強みは、個人を特定できるプラットフォームであり、情報の出し分けができるようになった点である。カスタマーサポートに寄せられた顧客の声などを参考に、主要ないくつかの商品を軸としてシナリオを作り、CRMを行った経験を披露した。

 平山氏は、アプリは大別すると「ニュースや音楽のように毎日使うもの」「SNSのようにコミュニケーションを行うもの」、そして「自分にとってのメリットを享受できるもの」の3つに分けられるとし、プラットフォームを目指さない事業会社が、後者のふたつをいかに実現するかを考えるべきだとした。

 最後に、これから目指すべき企業と消費者のコミュニケーションについて。風間氏は、「社内のコミュニケーションの重要性」を挙げた。オン/オフ両方を持つ企業では、SNSで商品を知ってリアル店舗に行くなど、ユーザーのオムニチャネルな行動が起きているが、それに企業が対応できているとは限らないと言う。デジタルの部署だけで完結せず、個々のチャネルの最適化でも完結しない。企業全体としてどうコミュニケーションするかを考えている企業が、エンゲージメントを深められるだろうと述べた。

 平山氏は、「マーケティングが消費者に近づき、コミュニケーションがマーケティングの主軸になっている」と言う。結果として「ユーザーと企業が遊べる場、ファンミーティングのように、コミュニケーションが可視化される場が必要になる」そうだ。その上で、たとえば同じ回数購入しているリピーターだからといって同じコミュニケーションが響くとは限らないように顧客は千差万別であるとし、シナリオ設計は泥臭くやることが必要だと述べ、セッションを締めくくった。

アプリ導入企業による事例紹介

 ランチェスターが提供するモバイルアプリプラットフォーム「EAP(Engagement Application Platform)」の最初の導入企業である、パタゴニア日本支社 Eコマースディレクター 平田健夫氏が登壇。EAPを用いたアプリ導入の経緯から今後の展望までを語った。

パタゴニア日本支社 Eコマースディレクター 平田健夫氏

 「タッチポイントを統合するような、チャネルをまたいだハブ的なものを作りたいというコンセプトがあり、アプリを開発することにしました。アプリを選択した理由は、スマートフォンをお持ちの方が多く、思いついた時にパタゴニアとの接点を持てる場であると考えたからです。一番やりたかったのは、カスタマーとの絆を深めること。ロイヤルカスタマーは、実店舗、EC、取扱店と、さまざま接点を持ってくださっています。そういうタッチポイントの多いカスタマーに、アプリで利便性を提供できればと考えました。

 また、パタゴニアは『故郷である地球を救うためにビジネスを行う』をミッションに掲げています。地球環境について考えていただく機会を増やしていただきたい、そのためには、カスタマーが常に接点を持つスマートフォンに、アプリがあることが重要だと考えたのです。アプリで何を目指すのかを社内に浸透させるため、長い時間をかけて丁寧に進めていきました。

 導入して一番良かった点は、アクティブユーザーが多いことです。とくにプロモーションなどは行わず、自然発生的にダウンロードしていただいているのですが、その結果、現在26万人がダウンロードし、マンスリーで30%の方が月に一度以上アクションを起こしてくださっています。また、実店舗で購入してくださる方の25%がアプリを提示してくださっているので、そこからアフターフォローなどがよりやりやすくなっています。

 今後は、イベントにもアプリを活用したり、修理の手続きを簡略化したり、ご近所の実店舗とECに在庫がない場合には取扱店の在庫も表示するなど、さらに利便性を高めていきたいです。さらに、コミュニティをしっかりと作り、環境団体とつなげたり、アウトドアスポーツとつなげたりといったことも行っていきたいと考えています」

 そのほか、EAPのユーザーである株式会社シーボン 金井圭子氏、株式会社テクストトレーディングカンパニー 岡山暢祐氏、アニヴェルセル株式会社 矢部令児氏が登壇し、それぞれ導入の経緯から今後の展望までを語り、来場者からの質問に答えた。

EAP Update

 最後に株式会社ランチェスター 田代健太郎氏が登壇。EAPのアップデート方針と計画について述べた。

 まず、EAPはアプリを制作できるサービスであることが注目されているが、最終的に目指す姿は「顧客と企業の顔の見えるコミュニケーションを実現すること」。本来の意味では、マーケティングプラットフォームであるとした。最終目的の実現のために「より良い顧客体験をつくる」「お客様のことをよく知る」の2軸でアップデートを行っていくとのこと。

 具体的には、プログラミングせずに管理画面からレイアウトやパーツ変更を行えるようにする方針を示した。とくにアプリの表現力を上げるべく「ピクチャーカード」を5月にリリース。今やコミュニケーションの主流である写真を使った表現を強化するため、写真のクリエイティブにあわせてテキストの位置やトーンを変更できる機能だ。

 次に、既存のシステムとのより柔軟な連携である。外部に配信しているSNSコンテンツを自動で取得してアプリに表示する「クローラー」という機能があり、企業が発信する情報をアプリ内に集約することで、運用負荷の軽減にも一役を担っている。

 さらに、ECとのシングルサインオンや、ひとりの顧客を1IDで認知する会員認証機能を最小限の開発で実現するオプションサービスとしての提供を開始する。

 そして、Googleアナリティクスでのモバイルレポート終了が告知されていることから、EAPのダッシュボードでデータ活用を行えるようアップデートを行う。アプリ関連のデータはEAP内で保存し、アプリに関する主要なKPIの表示、プッシュ通知などキャンペーンとKPIとの相関を見る機能、一定期間アプリを開いていないなどのセグメントでデータを抽出し、施策につなげていけるような機能を順次リリースする予定とのことだ。

 最後に、登壇者や来場者とともに懇親会を行い、イベント「Lanchester Meetup~アプリでつくる顧客体験~」は幕を閉じた。

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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