確固たる理念があるからデータ分析・クリエイティブがブレない
長坂さんがDMを改革するのに選んだパートナーは、ダイレクトマーケティングを得意とするフュージョン株式会社だ。
「当初は地元のデザイン会社さんに依頼していたのですが、通販に特化したところではなかったので、『お客様にご提案するDM』まではたどり着けませんでした。そんな折にセミナーで出会ったのが、講師として登壇していたフュージョンさんでした。代表である兄、僕ともに参加して、『商売において大切な、“心”の考えかたが共感できる』と2人そろって感じたんです。当社は、『はちみつ、ミツバチ商品を通じて、ご家庭に「ぬくもり」をお届けする』というのが経営理念で、毎日朝礼で30分ほど議論するような会社です。売上など数字も重要ですが、精神的なところも理解してくださるパートナーでないと難しいかなと」
その理念の共有により、過去にも全日本DM大賞に入賞している。創業から78周年の記念に、顧客の名前が印字されたハチミツ瓶型のカードを送付。それを持って来店、もしくは通販で購入すると、実際に名前が印字されたハチミツ瓶が渡されるというものだった。顧客のデータ分析を行い、ロイヤルカスタマー向けに実施された施策だ。
「とはいえ、データ分析、活用はまだまだこれからです。POSレジ、基幹システムも導入していますし、店舗と通販のポイント共有もできているので、データの蓄積だけはしてきました。フュージョンさんから、そうしたデータを分析した上でさまざまなご提案をいただいていますので、今後は実行に移していきたいと考えています」
ネットでも「ぬくもり」を 地域活性化は自社の頑張りから
DMで成果を上げた次は、いよいよECに本格的に乗り出す。ウェブの比率を上げることで、通販全体の売上を伸ばす考えだ。
「メインとなる40~60代女性のお客様は紙に馴染みがあり、DMを改善することで喜んでいただけました。一方で最近は、30代女性のお客様が増えてきていることもあり、そのターゲット向けにもECを強化していこうと。とはいえ現状のECサイトは課題が満載なので、DM同様、基礎的なところから改善を始めます。
メディアが変わってもやりたいことは同じで、『お客様に「ぬくもり」をお届けする』こと。実店舗ならお店の雰囲気や人が直接接客して伝えられることが、DMになると難しくなり、ウェブになるとさらに難易度が上がると思っています。だから、メールなら定型文を自動配信するだけでなく備考欄のメモに反応して感情を入れていくとか、製造・梱包を担当する部署なら検印以外に最近の出来事を書いて自分たちを知ってもらう、といった工夫をしています。こうした工夫で、ECでもお客様との『絆』を作っていけたら」
長坂養蜂場は観光地である浜名湖湖畔に位置し、実店舗は観光客のお客様がほとんどを占める。同社が作った、お土産に買ったものを通販でリピートするという連鎖は、観光で地域再生を目指す自治体や地域密着型企業の参考になりそうだ。
「実際に来ていただいて、土地やお店の雰囲気を味わって、試食をして、納得して買っていただく、そしてリピートしていただくという流れを大事にしています。この土地で長年商売をさせてもらっているので、もっと人を呼んで活気を取り戻して、恩返しがしたい。そのためには、まず、自社でできることを一生懸命やること。地元企業が横でつながって一斉になにかやるというのも、たまにはいいと思いますが、それぞれが際立つことが先。それだけ、人を呼ぶというのは難しいことなんです」
バタフライ効果ならぬ、ミツバチ効果で地域を変える。その1つひとつの羽ばたきは、1人ひとりの顧客に「ぬくもり」を与えることで生まれるのだろう。その裏側は、緻密なデータ分析と長年培われたダイレクトマーケティングのノウハウが支えている。今後、どのような「ぬくもり」ある通販が実現され、大きな連鎖につながっていくのか。長坂養蜂場の取り組みに注目したい。