全日本DM大賞・金賞受賞! 静岡県・長坂養蜂場の取り組み
日本郵便が主催する、優れたダイレクトメールを表彰する「全日本DM大賞」。今年、栄えある金賞と審査員特別賞クリエイティブ部門を2部門受賞したのは、静岡県のはちみつ専門店「長坂養蜂場」のDMだ。はじめての購入から38日後に、380円のクーポンがついた1枚のハガキが届くというシンプルなもの。
「僕らはミツバチレターと呼んでいるのですが、38日後、380円は『ミ(3)ツバチ(8)』に由来しています。お客様が浜名湖に観光した時の思い出がよみがえるようにデザインし、切手もあえて5枚、関連する絵柄のものを貼っています。ハガキ1枚のシンプルなDMですが、全日本DM大賞で金賞をいただいたのは、『お客様に喜んでいただきたい』という気持ちが伝わったのかなと。
もちろんダイレクトマーケティングの考えかたで、『二度目の購入』をしていただければその後のリピート率が上がるというのがありますので、引き上げるための施策でもあります。でも一番やりたかったのは、そのハガキが届いただけで、お客様に感動していただけるようなDMを作ること。
ソーシャルメディアでもシェアいただきましたし、ハガキを持って来店してくださったお客様から、クーポンを使った後でも『かわいいから持って帰りたい』とのお声も聞かれましたので、やりたかったことは実現できたのかなと思います」
そう語るのは、同社の専務取締役・長坂恭輔さん。祖父が昭和10年に起こした、80年の歴史を持つ老舗企業の三代目にあたる。
受け身の通販からの脱却 DMにイベントを盛り込み売上増に
そもそも長坂養蜂場は、蜂蜜を製造し、自転車やオートバイで配達するというスタイルから始まった。昭和54年に自宅を改装して店舗を立て、蜂蜜キャンデーなどの加工品を製造するようになり、平成13年になると観光エリアである、現在の浜名湖湖畔に店舗を移した。
「通販を始めたのは、二代目からです。といっても、観光に来てお土産として買い、気に入ってくださったお客様が自宅からも購入いただけるようにした『受け身の通販』で、こちらからアプローチしていくようなものではありませんでした。
8年前に兄と2人で三代目を継いで、通販にも本気で取り組むことにし、通販売上の9割を占めるDMを変えることにしました。それまでのDMは、商品と値段が並んでいるだけの、こちらからのご提案がまったくないものでした。そこからセミナーに行ったり、他社さんのDMを取り寄せたりして勉強し、もっと見ていてお客様がワクワクする、見るだけで買いたくなるようなもの変えていこうと思ったんです。
そこで考えたのが、実店舗と通販で共通のイベントを開催すること。それまでも実店舗では、3月には『ミツバチ感謝祭』といったように、様々なイベントを開催していました。しかし、遠方のお客様にはなかなかご参加いただけないですし、かなり労力をかけてやっているので、一度実店舗で開催して終わりではもったいない。通販のDMにもイベントの要素を盛り込むようになってから、売上も伸び始めました」
現在、約30人の従業員で年商は5億円程度。売上比率は通販が3割を占めるまでになっている。
確固たる理念があるからデータ分析・クリエイティブがブレない
長坂さんがDMを改革するのに選んだパートナーは、ダイレクトマーケティングを得意とするフュージョン株式会社だ。
「当初は地元のデザイン会社さんに依頼していたのですが、通販に特化したところではなかったので、『お客様にご提案するDM』まではたどり着けませんでした。そんな折にセミナーで出会ったのが、講師として登壇していたフュージョンさんでした。代表である兄、僕ともに参加して、『商売において大切な、“心”の考えかたが共感できる』と2人そろって感じたんです。当社は、『はちみつ、ミツバチ商品を通じて、ご家庭に「ぬくもり」をお届けする』というのが経営理念で、毎日朝礼で30分ほど議論するような会社です。売上など数字も重要ですが、精神的なところも理解してくださるパートナーでないと難しいかなと」
その理念の共有により、過去にも全日本DM大賞に入賞している。創業から78周年の記念に、顧客の名前が印字されたハチミツ瓶型のカードを送付。それを持って来店、もしくは通販で購入すると、実際に名前が印字されたハチミツ瓶が渡されるというものだった。顧客のデータ分析を行い、ロイヤルカスタマー向けに実施された施策だ。
「とはいえ、データ分析、活用はまだまだこれからです。POSレジ、基幹システムも導入していますし、店舗と通販のポイント共有もできているので、データの蓄積だけはしてきました。フュージョンさんから、そうしたデータを分析した上でさまざまなご提案をいただいていますので、今後は実行に移していきたいと考えています」
ネットでも「ぬくもり」を 地域活性化は自社の頑張りから
DMで成果を上げた次は、いよいよECに本格的に乗り出す。ウェブの比率を上げることで、通販全体の売上を伸ばす考えだ。
「メインとなる40~60代女性のお客様は紙に馴染みがあり、DMを改善することで喜んでいただけました。一方で最近は、30代女性のお客様が増えてきていることもあり、そのターゲット向けにもECを強化していこうと。とはいえ現状のECサイトは課題が満載なので、DM同様、基礎的なところから改善を始めます。
メディアが変わってもやりたいことは同じで、『お客様に「ぬくもり」をお届けする』こと。実店舗ならお店の雰囲気や人が直接接客して伝えられることが、DMになると難しくなり、ウェブになるとさらに難易度が上がると思っています。だから、メールなら定型文を自動配信するだけでなく備考欄のメモに反応して感情を入れていくとか、製造・梱包を担当する部署なら検印以外に最近の出来事を書いて自分たちを知ってもらう、といった工夫をしています。こうした工夫で、ECでもお客様との『絆』を作っていけたら」
長坂養蜂場は観光地である浜名湖湖畔に位置し、実店舗は観光客のお客様がほとんどを占める。同社が作った、お土産に買ったものを通販でリピートするという連鎖は、観光で地域再生を目指す自治体や地域密着型企業の参考になりそうだ。
「実際に来ていただいて、土地やお店の雰囲気を味わって、試食をして、納得して買っていただく、そしてリピートしていただくという流れを大事にしています。この土地で長年商売をさせてもらっているので、もっと人を呼んで活気を取り戻して、恩返しがしたい。そのためには、まず、自社でできることを一生懸命やること。地元企業が横でつながって一斉になにかやるというのも、たまにはいいと思いますが、それぞれが際立つことが先。それだけ、人を呼ぶというのは難しいことなんです」
バタフライ効果ならぬ、ミツバチ効果で地域を変える。その1つひとつの羽ばたきは、1人ひとりの顧客に「ぬくもり」を与えることで生まれるのだろう。その裏側は、緻密なデータ分析と長年培われたダイレクトマーケティングのノウハウが支えている。今後、どのような「ぬくもり」ある通販が実現され、大きな連鎖につながっていくのか。長坂養蜂場の取り組みに注目したい。