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ストリートブランドの販売員から始まったアパレル一筋25年のキャリア
石川(MAISON KAPPA) お聞きしたところ、こうしたキャリアについての発信はほぼ初めてだそうですね。
岸(TSI) そうなんですよ。交流会などで個別に知り合った方と話すことはありましたが、前職のことは表向きには初めて話します。
石川 本邦初公開ありがとうございます(笑)。岸さんはアパレル一筋な印象がありますが、キャリアのスタートはどこからだったのでしょうか。
岸 原宿の「A BATHING APE(以下、エイプ)」にアルバイトで入って、販売員として働いたところからですね。大学時代に就職活動もせずにふらふらしていたのですが、もともとエイプの洋服が好きだったのでアルバイトから初めて半年ほどで社員にしてもらい、副店長・店長を経て、本部に異動しました。

石川 本部に行かれてからは何をされていたんですか?
岸 役割としては営業担当でコラボなどを担当していましたが、少数精鋭の組織だったのでみんなで助け合っていろいろなことをやっていく感じでしたね。営業の後は物流チームに加わって、システム導入のプロジェクトに携わり、その後はECやCRMも担当しました。
CRMといっても、現代のような仕組みはまだなかった頃なので、ロイヤリティプログラムに近いかもしれません。当時のエイプは、年会費を払うと希望する限定アイテムと交換ができるファンクラブのような有料サービスを展開していたんです。こうした仕組みの運用なども含めて、手広くいろいろな経験をさせてもらいました。エイプには14年ほど在籍して、2015年にTSIに転職し、今は2社目です。
カリスマのもとで働く中で生まれた“危機感”が転職のきっかけに
石川 転職のきっかけは何だったのでしょうか?
岸 ダイレクトマーケティングやECを推進する際、本来は売上を生み出すための要素を分解して、深堀りすべきポイントを見つけ出す必要がありますが、当時のディレクターが仕掛けるアプローチは何をやってもヒットする状況で、ふとした瞬間に「これ再現性がないな」と気づいてしまったんです。成功の理由を自分の口で説明できないし、再現性もないからエイプの看板を外したらやっていけないと危機感を抱いて、転職を決めました。
石川 少数精鋭のエイプからTSIは、カルチャーの違いも大きそうです。転職の際に何か考えられていたことはありましたか?
岸 洋服も好きだし、アパレルで15年近くやってきたので「アパレルでやっていきたい」とは考えていました。その上で、先ほど述べた再現性を得るにはある程度デジタルやマーケティングが社内風土として根づいていて、チームとして成熟しているところが良いだろうと思ったんですよね。それでご縁があったTSIに入りました。
「再現性がない」と思って転職しましたが、外に出てみると当時のディレクターのマーケティング力や先見の明はさすがだなと思うことばかりです。あの頃のエイプは日本のストリートカルチャーを海外に向けて売り込んでいたり、ディレクター自身を広告塔にしながら芸能人のファンを増やしたりしていましたが、これらは今いわれているグローバル戦略やインフルエンサーマーケティングの先駆けですよね。
石川 僕もエイプの流行はリアルタイムで体感していましたが、あの頃にSNSがあったらどこまで行っていたのだろう……と時々想像します。
岸 実際、某有名掲示板の書き込みをウォッチするなど、今でいうUGC分析みたいなこともしていたんですよ。差別化を常に意識していたブランドだったから、あれだけ時代を席巻していたのだと思います。