博報堂買物研究所が「買物トレンド」を読み解く新連載
飯島(博報堂買物研究所) ECzine読者の皆さま、初めまして。博報堂買物研究所の飯島です。私が所属する博報堂買物研究所は、「売るを買うから考える」という言葉をスローガンに、2003年よりショッパーマーケティング領域で活動を開始しました。調査研究を担う博報堂の社内シンクタンクという役割を持ちながら、ソリューション開発や、ショッパーインサイトを基点に得意先企業様のマーケティング支援まで幅広く活動を続けています。
小田(HAKUHODO EC+) 私は、クライアント企業のeコマースを起点とした事業に寄り添いながら、戦略構築から運用業務まで、ワンストップで統合的なマーケティング支援を行うHAKUHODO EC+という組織に所属しています。
飯島(博報堂買物研究所) 今回、20周年を記念する研究プロジェクトを進める中で、これまでの研究で得た示唆を生かした「買物トレンド」を解説する連載をECzineでもたせていただくことになりました。よろしくお願いいたします。
小田(HAKUHODO EC+) 連載第1回は、実務上の観点も踏まえつつ「物価高騰・リアル回帰を乗り越えるECマーケティングのヒント」を探りたいと思います。
実は10年ほぼ横ばいなEC通販年間利用率
小田(HAKUHODO EC+) 早速ですが、HAKUHODO EC+と買物研究所が2023年1月に実施した「EC生活者調査2023」では、EC通販の年間利用率が83.6%に達することがわかりました。表1を見ると、幅広い年代で高い利用率を記録しており、多くの生活者にEC通販が普及していることがうかがえます。また、同調査では「置き配(22%)」や「日時指定(36%)」「宅配ボックス(15%)」の普及が進んでいることもわかりました。
飯島(博報堂買物研究所) ここ数年、置き配や宅配ボックスが普及し、在宅していなくても再配達なくEC通販で購入したものを受け取れるなど、私たちの生活はかなり便利になりました。2024年1月には、東京都江東区で「マンション等の建設に関する条例」が改正され、新築マンションへの宅配ボックスの設置が義務づけられるなど、自治体側からも動きが生まれています。EC通販を便利に利用するための環境は、今後もより整っていくのではないでしょうか。
また、年間利用率からもEC通販の普及が見えてきます。今回は、2014年までさかのぼって日用消費財(食料・飲料、トイレタリー商品など)のEC通販利用状況を見てみました。
飯島(博報堂買物研究所) 2014年以降のEC通販の年間利用率は、43%~45%台で推移しています。本や電化製品を含まずに、日用消費財にだけフォーカスした場合、「伸びた」といわれていたコロナ禍でも、実は利用の間口が広がっていないという意外性のある結果が見えてきました。この10年でEC通販の利用率自体には大きな変化はないようです。
こう見ると、「EC通販の利用が伸びた」という認識が誤解だと思われてしまうかもしれませんが、年間の購入金額にフォーカスすると、2014年に2万9,436円だったものが2023年には3万6,683円と、この10年で大きく伸びていることがわかります。利用率に大きな変化がない中、購入金額は7,000円以上伸びている。つまり、EC通販の普及を引っ張ったのは利用者のヘビー化だとわかります。
小田(HAKUHODO EC+) EC通販の利用率が伸びていないのは、意外性のある結果ですよね。この10年は、スマートフォン普及率の上昇とともにありました。生活者がEC通販を利用する際に主に使用するデバイスは、今やスマートフォンが中心です。それでも日用消費財のEC利用者が増えていないのは、身のまわりにスーパーやドラッグストア、コンビニエンスストアなどが存在する地域が多く、日常の行動導線の中でついで買いをする日本の生活者の行動パターンによるものも大きいでしょう。