中長期的な成長を目指し“利用回数”にこだわる
2012年にドイツのベルリンで創業したAdjustは、2014年に日本支社を設立した。主に、アプリユーザーの流入経路を計測するツールを提供している。現在、同社のツールが導入されているアプリは、13万5,000以上にものぼる。
「アプリにおけるユーザー接点は、『インストール』『会員登録』など様々です。当社は、各行動データの流入経路からアプリ内の深部までを計測、KPIと紐づけてレポーティングしています。創業よりプロダクトを進化させており、今後はLTV予測やインクリメンタリティ計測の機能、MMM関連のプロダクトなどもリリースする予定です」(高橋氏)

一方の「アソビュー!」は、現代を「Well-Beingが重要な時代」と捉え、レジャーや遊びの予約サービスを提供してきた。レジャー施設などの事業パートナーへの業務DXサポート、遊びの体験をプレゼントするギフト事業、地域の観光誘客のサポート事業も含め、“遊び市場”を中心に事業展開している。そんなアソビュー!が重視するKPIが“OPC”だ。
「特に、『OPC(Order Per Customer)』というサービスの利用回数を示す指標を設定しています。お客様に繰り返し利用していただくことで、中長期的にも利益率の高いグロースを狙う考え方です」(星氏)

顧客の利用金額をKPIに設定する企業も少なくない。そんな中、なぜアソビュー!は利用回数に着目するのか。高橋氏がこうした疑問を投げかけると、星氏は次のように答えた。
「お客様の満足度や今後の継続利用、他のお客様への推奨意向まで考慮すると、1回きりの利用で終わってしまうのはもったいないです。複数回にわたって利用していただくよう促すことで、中長期的な成長につなげています」(星氏)
ウェブサービスとして立ち上げられたアソビュー!だが、現在は2022年8月にリリースしたアプリ活用に注力している。その背景にあるのもOPCだ。
「アプリのほうが、OPCのポテンシャルが高いです。マーケティングファネルをイメージしてみてください。アプリをインストールするお客様は、サービスの利用自体を目的としている方が多いといえます。そのサービスを使いたい意向が明確で、既に『自分ごと化』している状態です。アプリを活用すれば、マーケティングファネルでいうお客様の購買行動の段階を、効率的に先へ進めた状態でアプローチできるのです」(星氏)

そのため、アソビュー!は既存顧客をアプリへ誘導する施策を進めている。ウェブサービスを利用する顧客がまだまだ多い中、アプリの利便性を積極的に訴求するという。
「まずは既存会員に利用していただくのが、日常に溶け込む存在となるための第1ステップです」(星氏)
モバイルアプリアトリビューションの基本
プライバシー規制が変化するにつれて、アトリビューションの計測もますます複雑化しています。このガイドでは、アプリマーケターや開発者に役立つインサイトを分かりやすく紹介します。
平均的な顧客は存在しない n1分析でインサイトを捉える
顧客データの取得・分析が行える点も、アプリ活用のメリットだ。星氏は、その前提にあるアソビュー!のデータ活用の狙いを詳しく解説した。
「当社は、コミュニケーションの解像度を上げるためにデータを活用しています。その中で重要視しているのが、『WHO』『WHAT』です。一人ひとりの顧客像を深掘りし、どのような価値を感じてほしいかまで仮説ベースで明確化しています。顧客便益は、情緒・機能・金銭の大きく三つに分類していますが、特に情緒的価値が最も中長期的に競合優位性を高められる領域です」(星氏)

n1を理解するため、アソビュー!はインサイト分析に取り組んでいる。性別や住所といった顧客の基本的な情報だけでなく、「一人で複数人の子どもと遊びに出かけることが多い」「宿泊が必要な遠出よりも、近場での遊びが好き」などと仮説を立てた上で、コミュニケーションを設計するのがポイントだという。
「家族構成や習慣、感情を理解して、初めてそのお客様に合ったコミュニケーション方法が見えてきます。n1分析に対して『最大公約数を導き出せないのではないか』『アプローチできる範囲が狭くなるのではないか』などの疑問をもつかもしれませんが、"平均的な人間"は存在しません。ある一人に向けた施策が、結果的に間接的な共感者を増やすのです」(星氏)
「こうした取り組みからエッジの効いた施策が生まれ、ファンの獲得にもつながっているのでしょう」(高橋氏)
続けて高橋氏が、星氏にマーケティングファネルの考え方について質問した。「AIDMA」「AISAS」など様々なモデルがあるが、実際に星氏の頭の中にあるファネルの考え方はいかなるものか。
「マーケティングファネルは徐々に変容しますが、最初の起点は『情報との接触』です。その後、サービスが認知され、自然に想起されるフェーズとなります。さらに、『今後の土曜日に子どもと出掛けたい。アソビュー!を利用してみようかな』と自分ごと化され、情報収集・比較検討を経て、コンバージョンに至る。その先に、習慣化、動詞化があります」(星氏)


特に、終盤に位置付けられている「現象化」までたどり着くと、サービスがライフライン化する。自社の商品・サービスがどのような過程を経て、顧客の日常に溶け込んでいくか。その理解が効果的な施策の近道だろう。
SKAN 4ガイド:iOSのマーケティングを成功させるための必須戦略
SKAN 4は、複雑なiOS計測に新たな複雑さをもたらします。このガイドでは、アプリマーケターと開発者がその変更に対応し、自信をもってキャンペーンを実施できるようSKANに関する最新情報を網羅しています。AdjustとTikTokのエキスパートによる分析をご確認ください。
定性と定量の掛け合わせで施策を“立体化”させる
ここまで星氏は、中長期的な目線でアプリ活用や顧客との向き合い方について解説してきた。加えて、事業成長には「定性と定量の掛け合わせが欠かせない」と強調する。定量的な指標のみだと、「10%ポイント還元」のように短期的な訴求に留まるという。顧客と継続的な関係を築き、事業に生かすには、共感を引き出す定性的な指標も必要だ。この考え方をベースに、星氏は今後の具体的な施策についてこう説明する。
「施策の検討で意識しているのが“立体化”です。たとえば、大規模な施策を実行する際、あらゆるチャネルを組み合わせて空気感の醸成とともに成果を最大化する必要があります。新聞広告などの公共性の高いメディアに露出しながら、ウェブメディアでも同時に解像度の高い内容で展開。その上で、垂直立ち上げのようにテレビCMを流したり、SNSで情報をシェアできる状況を作ったりする。こうした掛け算が、施策の効果を最大化するコツです」(星氏)

セッションの最後には、高橋氏が星氏に「今後、マーケティングに取り組む上で重要な視点」を質問。星氏が改めて、多様化への対応の重要性を伝えた。
「現代は、感性や考え方、インサイトが非常に多様化しており、コミュニケーション方法の正解が一つではありません。人間は、単純なデモグラフィックやペルソナによるセグメントでは捉えられないからです。性別や年代に加えて、趣味嗜好や熱量などによるセグメント分けが求められています。今後のマーケティングでは、機械的ではなく、多様な視点でのアプローチの模索が不可欠です」(星氏)


そのために星氏が意識しているのが、“思いやり”をもつことだ。
「一方的に『この商品・サービスが良いですよ』と伝えるよりも、相手が何を考えているのかを深く理解して寄り添うスタンスでアプローチをする。そんなコミュニケーションを、これからも取っていきたいですね」(星氏)
「本セッションでは、アプリ活用を起点に事業成長に必要な考え方までお伝えしました。最初は、アプリが自社の事業にどのようなメリットをもたらすかわからないという方も、多かったかもしれません。本日の話が何か一つでも参考になれば嬉しいです」(高橋氏)
モバイルアプリトレンド2024 - アプリパフォーマンスのグローバルベンチマーク -
最新データを分析して得たインサイトを紹介する「モバイルアプリトレンド2024」で、ビジネスのグロースに必要なベンチマークとトレンドを把握できます。アプリマーケティングを強化させて成長を促進し、業界の一歩先を進みましょう。