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【ハイブリッド開催】ECzine Day 2025 Winter

2025年2月4日(火)13:00~18:45

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大西理氏と振り返るEC業界25年史 顧客に求められるシステムとサービスはどう変わった?

 1990年代後半の黎明期から様々な出来事を経て、生活者における役割や企業にとっての位置づけが大きく変化してきたeコマース。技術革新の著しさがより増す中、今後はどのようなサービス提供や環境構築が求められるのだろうか。本記事では、セシールのEC事業立ち上げに携わり、日本のeコマースの歴史を自身の目で見てきたスマイルエックスの大西理氏と、2000年代初頭からシステムエンジニアとして通販・EC業界に携わるBIPROGYの村田一世氏が、顧客体験のアップデートを軸にあるべき姿を語る。

「注文ツール」から「体験提供の場」に

──大西さんはこれまで、通販、流通、メーカー、小売、アパレルと様々なジャンルのEC事業・デジタルマーケティング推進に携わっています。市場やチャネルの拡大を見てきた当事者の視点から、改めて黎明期の環境変化についてお聞かせください。

大西(スマイルエックス) 私がセシールでEC事業の立ち上げに携わったのは、1990年代の後半です。日本では、インターネット利用率がまだ20%から30%程度の頃でした。

 当時、米国では既にAmazonなどeコマースを主軸にしたビジネスが生まれていましたが、セシールがECサイトを立ち上げるきっかけは、インターネットへの取り組みもありますが、当時は「受注チャネルをオンラインにシフトしてコスト削減する」という大義から始まっています。当時はフリーダイヤルで注文をお受けしていましたが、オンラインで注文が受けられればコスト負担が軽減できる。紙のカタログを発行し、電話、郵便、FAXで注文を受けていた通販会社として、フリーダイヤルのコスト削減と紙類の注文を減らすことでの入力コスト削減は命題だったため、プロジェクトが進められたのです。

 そのため、当時のECサイトはカタログが手元にあるのが前提で「単なる注文ツール」機能が主な位置づけでした。「オンラインでも注文できる」と顧客の選択肢を増やした形です。しかし私は「オンライン販売をきちんと進めるからには、提供する情報の質を高めたい」と考え、商品部に掛け合って商品詳細情報を充実させたり、カタログ撮影時にECサイト用の写真を一緒に撮影したりと、パソコンの画面だけでも注文できる環境を2000年代前半にかけて作っていきました。今でいう、顧客体験向上の視点ですね。もちろんこれは、通信環境や端末が進化したからできるようになったことでもあります。

スマイルエックス合同会社 代表 大西理氏
スマイルエックス合同会社 代表 大西理氏

村田(BIPROGY) 私は2000年にBIPROGY(当時の日本ユニシス)に入社し、システム構築をサポートする立場から、アパレル業界のEC化に携わってきました。入社当初は、まだまだEC関連の案件は少なく、店舗システムや基幹システム導入のご相談が多かったと記憶しています。

 大西さんはかなり早くから取り組まれていますが、実際に企業が積極的に自社ECを立ち上げるようになったのは2010年代に入ってからです。そこからは、O2O・オムニチャネルと徐々にECサイトを絡めた案件が増えていきました。

大西 オムニチャネルの概念が生まれてから、ECサイトの役割は大きく変わりました。特に、スマートフォンの普及率が80%を超えた2019年以降の変化は著しいと感じています。コロナ禍はあくまできっかけの一つで、その前からSNSの普及などと相まって、行動の起点がオンラインになり始めていましたよね。自社ECの位置づけも「店舗やカタログの補完的役割」から、「オンライン起点でどう体験を提供するか」という方向に考えがシフトしていたと思います。

村田 確かに私自身の生活を振り返っても、オンラインで価格やスペック、レビューを徹底的に比較し、「試着がしたい」「実物を見たい」と思ったら店舗に足を運ぶ、といったように、店舗が「目的を達成するための場」に変化しています。私は今、ほとんどの買い物をオンラインで済ませているため、店舗に行く機会が減りましたが、それは店舗に魅力がなくなったからではありません。ECサイトの体験が向上し、思い立った時にいつでも調べて購入までスムーズにできる環境が整ったからこそのものです。

 このように、顧客視点で見て各チャネルの位置づけが変わる中、システムに求められる要件も変化してきたと肌で感じています。また、進化のスピードに応じ、要件をヒアリングして1からシステムを構築するSI型の開発ではなく、新しい技術や知見を業界内でシェアしながら使えるSaaS型の仕組みが求められるようになってきました。そこで当社も、アパレル・流通企業向けに効率的なIT投資とDX推進をかなえられるサービスブランド「DIGITAL'ATELIER(デジタラトリエ)」を立ち上げています。

タイパ時代だからこそ「顧客起点」の追求が差になる

──スマートフォンの普及がEC業界に与えた影響について、他にも顕著な例があれば教えてください。

村田 モバイル通信で大きなデータを扱えなかった時代は、パソコンサイトとスマートフォンサイトを別に作らなければなりませんでした。そのため、「フルスペックのパソコンサイトからどの機能をスマートフォンサイトに実装するか」という順でサイトの要件が決められていましたが、現在はレスポンシブデザインが基本です。また、パソコンとスマートフォンの利用比率が逆転したことから、スマートフォンサイトを軸にUI/UXを考える企業が年々増えていると感じています。

大西 スマートフォンの普及は、ECサイトの立ち位置の変化にも関係していると思います。オンラインを通じて自社のブランドや商品・サービスに触れる顧客が増えましたし、今はマイナスな情報がSNSですぐに拡散されてしまうため、事業にとって大きな損害となるトラブルが起きないよう、セキュリティー問題ときちんと向き合う企業も増えてきたように感じますが、村田さんはどうでしょうか。

村田 各社のセキュリティーに対する意識向上は、当社も感じ取っています。一定の水準以上のツール・サービスを採択するのは大前提としながらも、事業拡大にはマーケティング視点の「攻め」とセキュリティー視点の「守り」のバランスが重要なため、両立させるために「どこまでツールに任せるか」「どこを運用でカバーするか」といった議論が欠かせません

 たとえば、古い基幹システムを使った運用のまま最新のセキュリティー水準を保つのはどうしても無理が生じるため、場合によってはシステムを刷新して業務フローや働き方を変えるといった決断が必要になります。当社は、クライアント企業が優先したい事柄をしっかりとヒアリングした上で提案を行っていますが、上司や経営陣からいわれたことを実行するだけでなく、ECサイトや事業における優先順位や軸足が定まっていると、「正解」がより素早く見えてくるはずです。

BIPROGY株式会社 プロダクトサービス第二本部 OBDサービス一部長 村田一世氏
BIPROGY株式会社 プロダクトサービス第二本部 OBDサービス一部長 村田一世氏

大西 攻めも守りもどっちつかずで議論が進まない例を見ると、「ECサイトを作ることが目的になっていないだろうか」と感じることがあります。また、ECサイトを構築する上では競合調査も大切ですが、他社と比べすぎるのもよくありません。あくまで「自社の顧客にどんな体験をしてもらいたいか」という顧客起点の体験設計が大切です。

村田 わかりやすい例が、顧客情報の活用です。企業目線では購入時に会員登録をしてもらい、欲しい顧客情報を100%収集してレコメンドや今後の商品開発に役立てたいと考えがちですが、顧客目線で捉えると、初めて購入するECサイトで配送に必要な住所・氏名・電話番号以上の情報記入を求められると、購入のハードルが上がってしまいます。

 企業からすれば、不正購入防止の観点からも個人情報入力は求めたいステップですが、「手間なく購入したい」と考える顧客には購入の阻害要因となり、機会損失が起こり得るのも事実です。どちらもかなえるのは困難なので、顧客起点で考えながらも企業としてどこまで譲歩するのか、バランスを取る必要があります。

大西 現代は「タイパ時代」といわれてもいますが、そもそも顧客の時間は有限です。自身の生活を振り返っても、通勤中の電車の中や寝る前などの隙間時間に欲しいものを調べたり、購入したりしていないでしょうか。そんな中、「目を引いた商品を購入しようとしたら会員登録項目が何個もあった」となると、それだけで買い物意欲がそがれてしまいますよね。

 たとえば、初回購入時はスムーズに購入してもらうために必要最低限な情報だけに留め、後から情報を収集するのも一つの手です。気持ちよく購入でき、「またこのECサイトで買い物をしたい」と思ってもらえれば、自分に合った提案を受けるために情報を入力する顧客も増えるでしょう。企業としての効率のよさだけでなく、最終的に目指す情報が多く集まるような設計も欠かせません。

デジタルもアナログも 「選べる」が最大のステータスに

──「この企業やブランドになら情報を渡してもいい/渡したい」と思ってもらえるような働きかけが必要な反面、原材料費高騰による値上げや物流2024年問題への理解など、顧客に変化や負担を求める場面が増えているのも事実です。さじ加減が難しい時代に企業はどうすべきでしょうか。

大西 スマートフォンが買い物を便利にしたように、今はあらゆる情報が人々の目に入ってくる時代です。Z世代をはじめとする若年層は、SDGsへの問題意識も高くなっていますし、物流2024年問題は国全体で取り組もうと多くのマスメディアでも取り上げられています。働き方改革などにもあるように、世の中全体が誰かに無理を強いるのではなく、課題感を共有して持ちつ持たれつの関係を築くのが健全だという流れになりつつあるのではないでしょうか。

村田 コロナ禍も、多様性の時代に少なからず影響を与えていると思います。「店舗に多くの人を集められない」「非接触推奨」という外的要因がきっかけですが、住んでいる場所や生活スタイルなど、様々な理由で店舗に足を運べない顧客は昔から存在しました。オンラインがあれば顧客との出会いの可能性が広がるとわかったことで、企業は「リアルな世界で体験を完結しなければならない」という思い込みから脱却できたのではないでしょうか。多くの人々の価値観が変わり、体験に求めるものが一律ではなくなったようにも感じます。

大西 オンラインとオフラインの垣根をよい意味で曖昧にするサービスも、コロナ禍前後に増えました。特に、2019年に生まれたスターバックス コーヒー ジャパンの「Mobile Order & Pay」と、2020年にサービス開始した日本マクドナルドの「モバイルオーダー」は、体験としても秀逸です。これらの普及により、行列はステータスではなく顧客にとっては「面倒な体験」であり、顧客に選択肢を用意すべきという新たな概念がサービス業全体に普及したと思います。

村田 顧客の中にも、スタッフからのサービスを積極的に享受したい人と、効率を重視したい人が存在するはずです。話しかけてから様子をうかがうのが従来型の手法でしたが、スマートフォンやオンラインを介して顧客が主体的に選べる状況は、心理的ハードルも下げられますよね。

 一方で、店舗主軸の飲食店やサービス業では、まだ体験提供において発展途上な部分もあると考えています。たとえば、居酒屋でテーブルオーダーができるようになり、接客要素がゼロになってしまうと、「その店舗がどこで競合と差別化するのか」という新たな課題が生まれるでしょう。「どこに行っても均質な体験」では、選ばれる理由がなくなってしまいます。ここはまだ、工夫の余地があるといえます。

大西 デジタルに長く携わっていますが、実は私自身はまだ店舗で商品を購入したい派です。接客を受け、コミュニケーションを取りながら購入した商品は思い出含めて愛着が湧きますし、ECサイトでこうした人間味のあるサービスを提供できているかという点で見ると、まだまだ伸びしろがある部分だと考えています。

 オンライン、オフラインを問わず、これからの売り場に必要なのは立体的なサービスやサポートです。インターネット以前の世界では、カタログ通販やテレビショッピングなど、企業側が一方通行で情報を届ける手段しか存在しませんでしたが、インターネット以降は顧客側からの情報発信も簡単になりました。とはいえ、従来型のタッチポイントが完全に消滅したわけではなく、選択肢として今もなお生き続けています。重要なのは「顧客が自由に選べること」で、それこそが顧客の心地よさにつながっているといえます。

村田 当社にも、各社から顧客の選択肢を増やすための要望が寄せられています。特にeコマースでは、ECサイトで選んだ商品を希望店舗で試着予約できるようにする機能の実装などが多いですね。

──顧客の細かな要望に応えれば、プラスなUGC創出にもつながりそうですね。

大西 今は、個人の発信力が強い時代です。だからこそ、企業に求められるのは「誠実さ」だと思います。

 先日、公益社団法人日本マーケティング協会が34年ぶりにマーケティングの定義を刷新しましたが、これが大変興味深いものでした。注目すべきは企業に対し、「顧客や社会と共に価値を創造」する関係性を築くよう推奨しており、マーケティングの「主体は企業のみならず、個人」もなり得ると述べている点です。「関係性の醸成には、新たな価値創造のプロセスも含まれている。」と記載されていることからも、これからビジネスを伸ばすには、企業が一方的に望む形で情報を届けるのではなく、対等な関係で共創する意識が必須だといえます。

村田 そうなると、企業がもつ課題を顧客に共有し、一緒に解決する心持ちも必要だといえます。既存の「企業はこうあるべき」という概念を一度取り払い、ブランド育成や商品・サービスをより使いやすくするために必要な要素をまず顧客に聞いてみる。そして、意見を踏まえて都度磨き込みを図っていく。顧客の要望に応え続けるには、どこまで柔軟に動けるかも重要です。「システムをカスタマイズしなければどうしようもない」といったように、ツールやプラットフォームが阻害要因になるのであれば、今後を見据えた抜本的な見直しが必要なタイミングだといえるでしょう。

OMO機能をオールインワンで提供する「Omni-Base for DIGITAL’ATELIER」

 Omni-Base for DIGITAL’ATELIERは、店舗とECを横断した在庫管理や顧客管理が可能なバックオフィス機能を兼ね備え、OMO戦略を実現するためのフルフィルメント業務全般をオールインワンでカバーします。本記事で興味を持たれた方は、DIGITAL’ATELIER公式サイトからお問い合わせください。

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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