言語・法律・物流課題 日本企業はどう向き合うべきか
ここからは、2007年から越境ECに携わってきた私が、常々感じている越境ECの課題点や問題点をご紹介します。日本の企業が国際市場での競争力を高め、成功を収めるには、これらの課題を理解し、対策を講じることが重要です。
今回は、六つの課題点とその解決方法をご提案します。日本の越境ECの現状を把握するため、自社がより良い成果を収めるためにも、ぜひ参考にしていただければと思います。
1. 言語と文化の壁
まずご紹介するのは、言語と文化の違いについてです。海外に向けて販売をする際には、商品情報やカスタマーサポートを多言語で提供する必要があります。ターゲットとする市場によっては、英語だけでなく、中国語、スペイン語など、複数の言語への対応が求められます。
昔はここが越境EC市場進出の大きなハードルとなっていましたが、言語の問題はDeepLやChatGPTなどのAIが進化し、かなりカバーできるようになってきました。活用する上でコツをつかむ必要はありますが、もうAIで十分対応可能な領域になりつつあるといえるでしょう。
越境ECを実施しているとしみじみと感じるのが、文化的な違いです。各国の文化や消費者の好み、購買行動を理解した上で販売するように心がけましょう。たとえば、色の意味合いやサイズ感、祝祭日など、文化に根差した違いに適応する必要があります。ここは販売すればするほど、大きな差を感じるところです。
日本のECサイトから商品を買う海外顧客は、日本文化が好きなケースも多いため、画像内のキャッチコピーは日本語のままでも問題ありません。ただし、商品説明やスペックは進出国の言語に対応する必要があります。
たとえば、フランスやドイツで販売する場合、英語のECサイトだけを用意してもやはり売れません。フランスのユーザー向けにはフランス語、ドイツのユーザー向けにはドイツ語で表示できるようにしましょう。これは欧州に限らず、他の国・地域でも同様です。
2. 法規制と関税の問題
恐らく、初めて越境ECに取り組む上で一番悩むのは、法規制の複雑さです。各国の輸入規制、消費税、関税制度など、国際法の適用が複雑であり、これらを遵守する必要があります。
ちなみに、日本に入ってくる商品の関税の決め方や、いつ関税が決められるのかなどは、財務省の関税担当者も予測ができず、判断を悩むほどです。新たに越境EC市場に進出するのであれば、なおさらここは情報収集をして、慎重に検討することをお勧めします。
なお、商品の種類によっては、高額な関税が課されることがあります。たとえば、体温を測る測定機とアルコール噴霧器が一緒になった機械は、どのカテゴリーにあたるのかによって、関税がかなり変わります。販売価格に影響を及ぼす要素となるため、関税がいくらかかるのか事前に把握した上で販売を始めましょう。
ちなみに、米国は州によって関税が変わりますし、EU(欧州連合)ではVAT(付加価値税)が必須です。このあたりの手続きの煩雑さも、越境ECに取り組む上では大きな課題となります。
特に、食品やお酒は要注意です。国によって考え方や法律が大きく違いますので、念には念を入れて確認しましょう。昨年、米国食品安全強化法(FSMA)のFSVP規則が突然変更されたこともありましたし、確認して出荷したにもかかわらず、船で商品を配送中に規制が変わってしまった事例も存在します。
私のもとにもお酒、特に日本酒の越境ECを検討する企業から相談をいただきますが、お酒の輸出は簡単に考えてはいけません。国レベルでどんな話がされているのか、越境ECを始めてからも絶えず確認する必要があります。
3. 物流と配送の課題
国際配送は高額なコストがかかるため、特に小規模なECサイトにとっては大きなコスト負担となります。最初のうちは、最も効率の良い1立方メートルの配送から進めることをお勧めします。
配送会社選びも注意すべき点です。いつも頼んでいる配送業者が国際配送に対応している可能性もありますが、「実は国際配送はほぼ初めて」というケースも存在するので、慣れているところを選ぶようにしましょう。
また、Amazonの各国のFBA倉庫に商品を入れる場合は、それぞれのレギュレーションをしっかりと把握しなければなりません。見積もりを取って「安い」だけを理由に決めるのはNGです。必ず取扱商品の実績を確認し、金額などのエビデンスを取った上で決断してください。
顧客体験と密接に絡む配送日数も、配送会社と連携してリアルタイムで状況把握することが大切です。最近では地政学的な問題もあり、「1ヵ月たったのにまだ商品が相手国に入らない」といったことも多々あります。中国では注文から72時間以内に届ける必要がありますので、どのようなフローで商品を届けるかは、事前にしっかりと検討すべき事項です。
越境ECでも考えなければならないのが、返品・交換の取り扱いです。品質保証ができている商品であっても、国際配送時や各国の倉庫の扱いによっては、壊れてしまうケースが多々あります。国際的な返品・交換プロセスは複雑でコストがかかるため、いかに効率的に処理するかも課題です。廃棄か寄付するフローを構築するケースがほとんどですが、日本国内の配送と異なる対応をする際には、社内的な調整も必要になります。