大手小売業者が支配する米国のリテールメディア市場
この数年でバズワードと化した「リテールメディア」。米国では、ウォルマートやAmazonを中心に市場が拡大している。『小売り広告の新市場 リテールメディア』(日経BP/望月洋志、中村勇介 著)は、「米国市場で最大のプレーヤーが米アマゾン・ドット・コムだ。23年のリテールメディアのデジタル広告費のうち、なんと75%を同社が占める(P.46)」と解説する。
こうしたリテールメディアの波は、日本にも押し寄せている。セブン‐イレブン・ジャパンやイオンをはじめ、スーパーマーケットやドラッグストアなどが同市場に続々参入し始めた。しかし、米国で成功したやり方が日本でも必ず成功するとはいえない。本書は、リテールメディアの定義や日米市場の比較、様々な事例から、日本におけるその可能性を探る。
日本では「卸売業者」がリテールメディアを開発
たとえば、本書によると日米の違いの一つとして「小売企業の市場占有率(P.52)」が挙げられるという。日本は、地域密着型の小売業者が比較的多い点に特徴がある。
アメリカの食品小売りは大手企業による市場占有率がとても高い。ハイパーマーケット(大型スーパー)では上位4社で98.8%と大半のシェアを占める。また、スーパーマーケットでも上位7社で51.7%のシェアとなっている。一方の日本では、米国のハイパーマーケットに当たるGMS(総合スーパー)の上位4社が占めるシェアは63.3%となっており、スーパーマーケットでは上位7社で21.1%となっている。日本は米国ほど寡占状態ではなく、各地域に根付いたスーパーがひしめき合っている状態だ。(P.52)
また、卸売業者がリテールメディアに取り組んでいる点も興味深い。3,000社の小売業者、広告主となる6,500社の食品メーカーの両方と取引してきた三菱食品は、unerryとともに2022年からリテールメディアの開発を進めてきた。卸売業者が広告サービスを開発するのは、「日本ならではの商習慣(P.194)」に理由がある。本書では、三菱食品 執行役員 マーケティング開発本部長の小山裕士氏の発言からこう説明されている。
「日本の食文化は多様性があり、特定の地域だけで売れる商品が存在する。卸業者である当社は全国一律で売れる商品と、各地域の売れ筋商品を網羅的に把握し、きめ細かいマーケティング施策を提案できるはずだ」と小山氏は自信をのぞかせる。(P.194)
自社の強みを活かしたリテールメディア開発とは何なのか。リテールメディアによって日本の小売市場はどう変わるのか。その答えを探す上で、本書は欠かせない一冊となるだろう。