学習データが豊富なD2C AI施策の勝算はどこにある?
磯山 素早さといえば、wevnalから「BOTCHAN AI」の提案をした際も、すぐに「一緒にやりましょう」といっていただけたのが印象的です。西部さんは、LTV向上に向けた体験設計やツール選びで何を重視しているのでしょうか。
西部 ブランドを体現しつつ、手厚い接客を提供できるようなコミュニケーション設計を意識しています。そのため、問い合わせ手段は顧客との双方向性がある電話とLINE、チャット接客を中心とするのが望ましいと考えました。
しかし、24時間対応の難しさや社会全体の人手不足なども考慮すると、すべてを有人で対応するのは非現実的です。「どのようにして効率化するか」と考えた結果、バルクオムでは「最新ツールを使い倒そう」という結論に行き着きました。そして様々なツールを比較検討し、24時間365日の問い合わせ対応は「BOTCHAN AI」で実現し、継続を呼びかけるコミュニケーション設計には「BOTCHAN Keeper」を、注文時の顧客の利便性向上、受注改善には「BOTCHAN Payment」を採択しています。
磯山 ChatGPT活用は、当社が提案する前から視野に入れていたのでしょうか?
西部 世間でChatGPTが話題になる前から、社内でAIに関心の高いメンバーが自発的に実験を重ねていました。当社はD2Cで、製品と顧客に関するデータを社内で保持しているため、学習させるデータは既に大量に存在する状況です。LPの文言作成や顧客対応など、様々なジャンルのプロンプトを作成する中で、AI活用をすべきという認識は高まっていました。
しかし、バルクオムの製品には薬機法が絡んできます。この制約がある以上、すべてをAIに委ねるのは難しいと思っていました。仕組み化して対応するのも不可能ではないですが、自社だけで完結するのはリソースの関係上難しい。そう思っていたところでwevnalさんからご提案いただき、「これは迅速に着手すべきだ」と判断しました。EC業界に特化したサービスを提供しているwevnalさんだからこそ、リスクヘッジも考慮したAI活用ができるのではと期待しています。
AI×人の力で次世代コンタクトセンター実現へ
磯山 接客にAIを取り入れてみて、既に感じている手応えはありますか? CRMに活かせそうなポイントや、今後の展開として検討していることがあれば教えてください。
西部 2023年6月にwevnalさんからプレスリリースを出した後は、「おもしろいことをしている」といったUGCが発生し、社内でも盛り上がっていました。バルクオムの顧客にはデジタルリテラシーが高い方も多く、相性が良いのではと予想していましたが、この読みは当たったようです。
しかし、「BOTCHAN AI」により実際に顧客満足度がどれだけ向上したのか、解約率の低下やLTV向上につながっているのかといった数字面での検証は、時間をかけて行う必要があると考えています。定期開催している顧客アンケートやヒアリングで実態を把握し、より良い活用法を模索したいですね。社内では「“バルクオムの人格”を盛り込んだ接客を実現したい」といった声も上がっています。
磯山 有人対応とAI対応の棲み分けは、どのように考えていますか?
西部 私は、「人にしか生み出せない体験の追求」と「効率化に向けた自動化」は別軸で取り組むべきだと考えています。今後、AIが世の中に浸透すればするほど、人は必然的に自身の存在価値と向き合う機会が増えるでしょう。バルクオムではAIで効率化できる分、人による次世代のコンタクトセンターの在り方を模索しようとしています。たとえば、当社ではまだ肌悩みの相談に乗れるような窓口やVIP専用ダイヤルの開設などはできていません。しかし、AIを使って既存の顧客対応工数が削減できれば、こうした新たな価値提供も実現できるはずです。顧客が便利さを感じられる形で、人とAIをフル活用していきたいと思います。
磯山 「ツールをどう使うか」ではなく、あくまで「顧客のとらえ方」が主軸ということですね。
西部 バルクオムを利用するメイン層は、20代から30代の男性です。新しいサービスへの感度が高く、ライフステージとともに変化し続ける方々に合ったサービスは何か。どのような形でテクノロジーによる効率化と、人による細やかなサービスをアウトプットすべきか。常に自問自答し、新たな策を講じなければならないと考えています。
また、今後より認知を高めていくには、ブランドキーワードである「FAME(Fashion、Art、Music、Entertainment)」をフックとした価値提供の追求も欠かせません。さらに驚きや楽しい気持ちを与えられるようなイベント開催、特別な体験提供などを1つずつ形にしていく予定ですので、ぜひともご期待ください。