年商規模が大きい事業者ほど無視できないグロースマーケティング
コロナ禍を契機に、EC化が進んだ日本の小売業。成長に対する期待値が上昇し、さらなる投資に前向きな事業者が増える一方で、新規顧客獲得に向けたオンライン広告のコスト上昇、デジタル人材不足といった課題はより顕著なものとなっている。
「こうした逆風は、今後多くの事業者が成長を図る上で大きな課題となるでしょう。新規顧客獲得の手段は、広告施策以外にもSNS発信、インフルエンサー活用、ライブコマース実施など様々存在しますが、刈り取り施策だけでは事業の継続性にはつながりません。これからの時代は、特に既存顧客向けの施策やCRM強化が重要となりますが、まだこれらに注力できていない事業者が多いのも事実です」(東野氏)
ビジネスの現状や課題と真摯に向き合う事業者ほど、「どのようにして売上を伸ばすべきか」と頭を抱えてしまう今の状況。東野氏は「グロースマーケティングへのシフトを意識してほしい」と提言した。
「新規顧客獲得によるEC事業拡大は、既に限界が見えている方も多いのではないでしょうか。以前は『パーチェスファネル』と呼ばれる認知から購入までのフェーズに注力するのが、マーケティングの鉄則でした。しかし、新規顧客獲得が困難だという見立てがある以上、今後は『購入後の体験創出』や『リピート施策』でファンを増やし、徐々に顧客の裾野を広げる『ポストセールスファネル』が重要になると考えています。事業者が持続的な成長とLTV向上を両立させるには、フルファネルでのマーケティングを実践しなければなりません」(東野氏)
続いて東野氏は、グロースマーケティングが売上にいかなるインパクトをもたらすか、事例を挙げて紹介した。
「当社の支援実績に、大型のプロモーション時期を上手に活用し、非アクティブ顧客を2%掘り起こした事例があります。会員数約50万件、年商12億円、平均成長率110%のECサイトにおいて、25%存在する非アクティブ顧客の2%がアクティブ顧客となれば、年平均成長率は116%に、売上は約30%上昇します。年商規模が大きな事業者であればあるほど、この2%が生み出す金額は無視できないレベルとなります。グロースマーケティングへシフトすれば、こうしたインパクトを得ることが可能です」(東野氏)
4段階に分けられる成熟度 自社はどこに位置する?
グロースマーケティングへシフトするにしても、具体的にどう取り組めば良いのだろうか。ここで東野氏は「一朝一夕に進むものではなく、一発逆転ホームランは困難だが、4段階に分けて1つずつ山の頂上を目指していくと良い」とアドバイスした。
顧客コミュニケーションの粒度や活用するチャネルによって分けられているステップだが、何をすればレベルアップが可能なのか。東野氏は、次のように続ける。
「『レベル1』で取り組むべきは、購買データと配信ツールの連携です。購買結果に基づいたコンテンツ配信を行うには、データ連携が必須となります。
『レベル2』で最も重要なのは、連携したデータを土台としたセグメント作成です。これらを経た上で、『レベル3』ではメールだけでなくLINEやアプリのプッシュ通知、SNSなど配信チャネルを増やし、顧客1人ひとりが最適なチャネルを選択できる体制を整えていきます。そして、顧客にとって最適なチャネルの中でコンテンツをパーソナライズしていくのが『レベル4』です。ここまでできれば、理想の顧客コミュニケーションが実現できます」(東野氏)
ところが、こうしたステップの「あるべき姿」を理解していても、「人が足りない」「スキルが足りない」「IT部門・ベンダーに任せていて手が入れられない」といった課題に直面する事業者が多く存在するのも事実だ。それらに対して、東野氏はこうアドバイスした。
「グロースマーケティングでステップアップするには、『データ×テクノロジー×UX』で壁を乗り越える方法がおすすめです。まずは、データ加工ができる専用ツールを使ってセグメントの作成を行う。配信チャネルを増やせば、手作業で複数コンテンツを作成・配信するのが難しくなるため、オートメーションツールを入れる。といったように、配信の高度化とともに自動化、効率化を進めていきましょう。
配信のパーソナライズを行う際には、レコメンドエンジンの活用がおすすめです。顧客1人ひとりに最適化したコンテンツを事業者が手動で作成するのは大変ですが、レコメンドエンジンを導入していれば顧客の動向を踏まえた商品画像や説明文を自動で出し分けてくれます」(東野氏)
ROAS最大150%の事例も 台湾事例から学ぶデータ×テクノロジー×UXの進め方
2022年に台湾のMarTech企業 Omniscient Cloud Technologies, Inc.を買収し、beBit Technology Inc.(以下、beBit TECH)を立ち上げたビービット。ここで東野氏は、beBit TECHが支援を行いグロースマーケティングに成功した台湾の事例を3つ紹介した。
台湾のお菓子通販サイト「六月初一」
日本よりも高いEC化率を誇る台湾。ECに付随するマーケティング施策も多様化しているが、六月初一は当初「レベル1」のフェーズにあったという。
「当社が支援する以前の六月初一は、購買後のコミュニケーションがメール一斉配信のみ、開封率はわずか10%となっていました。これで売上を上げるのは難しいということで、ご相談をいただいた形です」(東野氏)
同サイトが成功した秘訣として、東野氏は「セグメント」と「レコメンド」を挙げた。「A お試し購入セグメント」「B 新商品好きセグメント」「C-1 会社ギフトセグメント」「C-2 共同購入セグメント」と4つのセグメント分けを行い、それぞれに合った施策を展開。特定客層の行動・嗜好を理解したアプローチを行った結果、ROAS(広告投資収益率)を最大150%にまで改善している。
台湾のお菓子通販サイト「凡尼船長(Captain Danny)」
東野氏が2つ目に紹介した事例は、台湾のお菓子通販サイト凡尼船長だ。設備メーカーから異業種参入した同サイトは、顧客管理のノウハウや基盤を有していなかったため、beBit TECHに相談。顧客基盤構築から手助けを行ったとのこと。
「凡尼船長は、当社が提唱する独自のライフステージ分析モデル『NASLDOモデル』に則って施策設計をしました。NASLDOモデルとは、顧客を『New(新規顧客)』『Active(コア顧客)』『Sleep(休眠顧客)』『Lost(離脱顧客)』『Deep(保存会員)』『Opportunity(未購入会員)』の6つに細分化する考え方です」(東野氏)
同モデルは、業種・商品特性によってアプローチの方向性が若干異なるものの、「基本的には購入日数と商品単価をチューニングすれば様々なビジネスに適用することが可能」だと語る東野氏。トライ&エラーを重ねながらデータを中心とした経営に取り組んだ結果、グロースマーケティングの実践に成功した好例といえる。
会員数100万人以上のコスメ通販サイト「iQueen」
東野氏は、3つ目の事例としてコスメ通販サイト iQueenを紹介した。同サイトは積極的な広告施策・会員獲得施策を実施した結果、会員数や商品点数、サイト規模拡大に成功していたが、新規顧客獲得の限界を感じていたという。
「同サイトは、AI活用で課題を解決しました。『7日間以内に買いそう』『購入確率が高そう』といった予測指標に基づいて、AIが顧客ごとに5段階のオーディエンススコアを付与。『Score5』の顧客は、他の層の顧客に比べてコンバージョン率が2倍から3倍、収益額は1.8倍から3倍高いことが見えてきました。
この結果を踏まえ、同サイトはScore5の顧客に併売の案内など費用対効果の高いマーケティング施策を展開。さらに、過去に配信したコンテンツやチャネルをAIが機械学習し、最適なチャネル・時刻を予測して『スマート配信』を行うことで、開封率を15%から23%にまで改善しています」(東野氏)
最後に東野氏は、グロースマーケティングを実践する一つの手段としてビービットが提供する「OmniSegment」を紹介した。
「OmniSegmentは、BI、CDP、AIやMAツール活用といったグロースマーケティングを実践するためのコアコンポーネントをワンストップで提供しています。テクノロジーを使って人が運用するには限界がある取り組みを円滑化し、ECビジネスを刈り取り型のマーケティングからグロースマーケティングに変えるソリューションです。データ×テクノロジー×UXでフルファネルでのマーケティング展開、LTV向上を叶えるのが、OmniSegmentの目指す先です」(東野氏)
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