2025年6月3日、昨年に続き2回目となる「NRF 2025 APAC」が開幕した。オープニングでは、Comexposium Managing Director, APAC Ryf Quail氏が登壇。本イベントの目的を改めて呼び掛けた。

「NRF 2025 APAC」のテーマは「Retail Unlimited」だ。近年、オンラインとオフラインが融合し、消費およびコミュニケーションチャネルの境界が曖昧化している。同氏は「こうした時代だからこそ小売りの限界を超えるべき」と強調した。そのために必要なのが、他社との協業だという。
「APACにはデジタル技術に強い国、経済発展が著しい国が多く存在します。そして、もう一つの特徴が“友好的”である点です。当然、競争もありますが、協力的な地域だと感じています。グローバル企業もスタートアップ企業も、単独で戦うべきではない。人間関係、パートナーシップが求められます。“本物の対話”を交わす。それが本イベントの目的です」

「NRF 2025 APAC」最初の事例セッションとなったのが、韓国の大手デパート・ロッテグループだ。Vice Chairman & Group CEOのSamuel Sanghyun Kim氏は「韓国では今や市場の約半分がオンライン取引に移行している」と、同国におけるEC利用の浸透ぶりを紹介した。
オンライン化が進む今、「実店舗かECサイトか」だけでなく、「誰から買うのか」「どの地域から買うのか」など、消費者は多様な選択肢を手にしている。Kim氏は「単に『安さ』だけが顧客にとっての価値ではない」と話す。
「小売業の仕事はもはや"売る"ことではありません。顧客に『あなたから買いたい』と思ってもらえるかが全てです。私はそう部下に伝えています」

韓国では、出生率の低下や人口減少といった経済的課題を抱えつつも、K-POPやK-FOODなどの世界的ブームによって、海外からの越境消費が活発化している。こうした動きを背景に、同社はベトナムやインドネシアに強い自社基盤を構築。また、シンガポールでは現地企業と積極的に協業している。たとえば同国のスーパーマーケット「FairPrice」では、多くの韓国製品が並んでいる。このビジネスモデルを活用して、今後さらに海外展開を加速させていく方針だという。
「まさに共創ですね。ロッテが取り扱う韓国ブランドをシンガポールに持ち込み、さらに自社のプライベートブランドを韓国を含む他国市場に展開していく。単独でも速くは進めますが、協力すれば遥かに遠くへ行ける。パートナーシップの力を改めて実感しています」
海外展開に加えて、同社はAI活用にも積極的に取り組む。現在は「E-Grocery」「AIによる顧客体験の高度化」「オープンイノベーション型AIラボ」の3本柱を軸に据えている。
たとえば「E-Grocery」ではAIが顧客のニーズをもとに商品を提案し、最適な買い物カゴを自動生成する。「AIによる顧客体験の高度化」では、家電やファッションのコーディネート提案を行うAIサービスを導入。そして「オープンイノベーション型AIラボ」を通じ、外部パートナーと手を取り合って、これらの取り組みをさらに後押ししている。海外展開、最新技術の導入を同時に進めているわけだ。
一方で「“現場”からの学びも欠かせない」とKim氏は強調する。セッションの最後には、小売リーダーへの力強いメッセージを残した。
「小売の本質は“現場”です。私は2週間に1度は必ず店舗を訪れ、スタッフや顧客の声に耳を傾けています。現場に足を運ぶからこそ見えてくる課題やヒントがあります。CEOにとって最も必要なのは、常に学び続ける姿勢です」
このほか、最終日まで本イベント開催期間中に全18の基調講演、ブレイクアウトセッションが行われる。また、展示会場でも各国の最新ソリューションが紹介される予定だ。