梅酒製品を軸に、リキュールやノンアルコール飲料まで幅広く手掛けるチョーヤ梅酒株式会社。2018年に同社から新たに生まれたのが、「梅体験」を提供するブランド「蝶矢」だ。好みの梅と砂糖を選び、デモンストレーションを受けながら梅酒・梅シロップ作りを楽しむことができる体験型店舗を京都と鎌倉に構え、自社ECでも「蝶矢梅キット」として販売を行っている。「若年層との顧客接点創出」というチョーヤ梅酒の課題を体験と絡めることで克服し、次世代に梅の歴史や良さを伝えるのは、ひとりで事業を立ち上げ、店舗・EC運営を行うCHOYA shops 株式会社 代表取締役社長の菅健太郎さんだ。同氏に蝶矢スタートのきっかけと、コロナ禍の自社EC展開、顧客体験創出に向けた考えかたについて話を聞いた。
梅の美しさや香りに心打たれ数年かけて構想を実現
チョーヤ梅酒に新卒入社し、スーパー・小売向けの営業や工場勤務を長く続けてきた菅さん。営業時代、取引先の関心事が「素材や製法へのこだわりよりも、値引きやプロモーションであったことに違和感を覚えた」と当時の様子を振り返る。
「こうした経験を経て製造部門に異動したのですが、梅酒の原酒を漬け込むためにチョーヤ梅酒が使用している梅の実を初めて見た際に、感銘を受けました。工場に運び込まれた梅はこれまでに見たことがないほどの大きさ・色合いで、香りも非常に豊かでした。思わず研究用として許可を得て自宅に持ち帰り、家族にも自慢してしまったほどです。そして、こうした品質の高さや自分が得た感動を、『体験』としてより多くの人に伝えたいと考えるようになりました」
そこから菅さんは、工場勤務を続けながら事業の構想を膨らませた。チョーヤ梅酒では、これまで社員が自発的に新規事業の提言を行ったケースが存在しなかったが、菅さんは自身の思いを上司や同僚に開示。自ら国・自治体が提供する起業家育成プログラムや外部企業の人々との意見交換会に足を運び、顧客が市場に流通しない希少な梅を用いて梅酒・梅シロップ作りを楽しめる体験型店舗の企画書を、7年がかりで作成した。
「チョーヤ梅酒は、社員数約130名の小さな会社です。社長との距離も非常に近く、日頃から会話やメールのやり取りをする機会がありますが、新規事業を立ち上げるとなると話は別です。生半可な気持ちでは提案できないと思い、時間をかけて考えやスキルを磨き上げていきました。そして社長に直訴したところ、ひとりで始めることを条件に、チョーヤ梅酒社員による初の新規事業として進める許可を得ることができました」