「おひとりさま用超高速弁当箱炊飯器」、歩けるこたつ「こたんぽ」など、ユニークな商品を生み出し続けるサンコー株式会社。同社代表取締役社長の山光博康さんは、自社を「秋葉原で生まれた世界最小の家電メーカー」と称す。
ワンルームのアパートから事業を開始し、仲間を増やしていく中で現在の商品開発スタイルを築いてきた。かゆいところに手が届く商品、ありそうでなかったアイディアを思いつき、形にする秘訣は何なのか。これまでの歴史を振り返りながら、海外展開や今後の展望などについても話を聞いた。
資金繰りの苦しさを越え44億円の売上創出へ
昨今、ひとりECやひとり広報など、多種多様な業務をひとりでこなすスタイルに注目が集まっている。2003年にひとりでサンコーを立ち上げ、EC販売をスタートした山光さんは、ある種その先駆者といえるのではないだろうか。
「起業のきっかけは、『自分が欲しいものを売りたい』と思ったことです。ワイヤレスイヤホンがなかった時代に満員電車で音楽を快適に聴きたいと思い、腕時計型MP3プレイヤーを輸入して販売したり、当時のオフィスが冬に極寒であったことからUSB接続で使えるヒーター手袋を生み出したりと、日々の生活で感じた課題を製品に落とし込んでいきました」
主要メーカーがひしめき合う家電量販店に、新興企業が入り込むのは容易ではない。そのため、山光さんは自社ECを立ち上げ、商品の画像や説明文を作りこむことで売り場を作った。当時はまだ自社ECの黎明期といえる時代であったが、こうしたアプローチがバイヤーの目に留まり、創業2年めより小売店への卸販売を開始する。
「販路が広がり、ありがたいことに売上も増えてきたのですが、ここで直面したのが資金繰りの厳しさです。注文が入る=商品調達を先にしなくてはならず、売れれば売れるほど先立つ支出が大きくなっていきました。国内生産であれば後払いの文化もありますが、当社は海外工場で製造を行っているため、先払いのケースがほとんどです。物販で作る売上だけでは出金と入金のサイクルが回せず、他社のサポート業務を請け負って継続的な収入を得るなど、知恵を絞ってできることはすべてやっていました」
卸販売は好調に発展し、すべての商品を自社ECと小売店の双方で販売していたが、創業から10年は自転車操業が続いた。そうした中、2015年に転機が訪れる。
「DMM.comの亀山敬司会長と情報交換の機会をいただいた際に『なぜ商品を自社限定販売にしないのか』と聞かれたのです。この質問に大きな衝撃を受けました。
それまでは卸の反応を見て売れ行きを予想し、販路の数で売上を担保していました。また、自社EC限定で販売すると卸からクレームが出るのではないかと想像していた部分もあります。しかし、亀山会長のひと言で物事を俯瞰してとらえるようになりました。目先の判断軸にとらわれず、どうすれば自社の強みを活かし売上を最大化できるのか考えるようになったのです。視野が広がればマーケットが違っても『ビジネス構造が近いもの』から気づきを得ることができます。たとえば、一見サンコーの家電とは無縁に感じるITのSaaSサービスでも、自社の商品や販売形態に応用できるヒントが隠されているかもしれません」
そして、自社EC・直営店限定で販売した最初の商品が、ウェアラブルHDMIモニターだ。卸先では取り扱いが難しい商品をあえて選んだ。すると、同商品は飛ぶように売れ、「小さな挑戦を重ねて大きく育てる発想の転換が起きた」と山光さんは語る。まさにサンコーのターニングポイントとなったのだ。