これまで実店舗で購入されることが多かった日用品や消費財なども、近年はオンラインで購入する人が増えてきた。しかしながら、日々の暮らしに必要なものとしてオンデマンドの配達が求められる一方、低価格帯の商品が多く、配送や運用コストがかかることで利益率が下がってしまうなど、事業者にとって解決すべき課題も多い。はたして消費財を販売する小売事業者として、どのような事業形態を実現すべきなのか。過去にココカラファインでマーケティングとEC事業の責任者を務め、現在は店舗のICT活用研究所代表として、小売業のデジタルトランスフォーメーションに取り組む郡司昇さんに話を聞いた。
「BOPIS」が最適化された店舗で利便性と効率化を両立
日用品や食料品などの非耐久消費財を扱う小売事業者が、近い将来に実現すべき「未来店舗」とはどのようなものか。その問いに郡司さんは、「実店舗機能とダークストアを融合させた『BOPIS(Buy Online Pickup In Store)』に最適化された店舗」と答える。
BOPISは、ECで購入した商品を最寄店舗で受け取る形態のことで、ヨーロッパや中国の大手小売業で導入が進んでおり、成長の原動力となっている。また、コロナ禍で店舗滞在時間を減らしたい顧客ニーズを受けて、実績も前年と比べ倍増している。顧客は店舗での滞在時間を短縮して効率的に買い物ができ、店舗側も送料などのコスト負担が軽減されるため、双方のメリットが大きい。世界的に見ても、今後さらに同形態の店舗は増え、利用者も増加することが予想されている。
日本にも、ネットスーパーなど店舗の商品を届けるサービスはあるが、配送のコスト負担に加えて、店舗用に陳列した商品をピックアップするため効率が悪く、利益率が低い。これを改善するには、物流倉庫のように効率的な作業動線を確保する必要がある。こうしたEC用の倉庫は「ダークストア」と呼ばれ、そこに受取窓口が併設された店舗がBOPISを担うことが多く、イギリスでは5大世界流通大手のひとつである「Tesco」が、2006年よりダークストアの店舗を展開している。アメリカでは、車を停めた場所に購入予約したものを届けてもらえるカーサイ ドピックアップ方式や、「Amazon Fresh Pickup」「Walmart Grocery」などのドライブスルー専用店舗が代表格だ。いずれのダークストアでも、動線整備はもとよりロボットによる効率化が進んでいる。これに加えて、医薬品など緊急に必要なものや実物を見て選びたいものは、併設された小規模店舗で購入することができれば、ピックアップに訪れた客が“ついで買い”をすることで客単価も上がると言う。
「こうした業態はまだ日本では本格化していません。2016年に西友が1階に実店舗、2階にネットスーパー専用フロアを設けたハイブリッド店舗を練馬区にオープンしていますが、店舗とECが別々に動いています。今後、こうした業態が増えると、サービスの形もまた変わると予想されます。たとえば、オンライン注文を活用することで、実店舗ではこれまでできなかったような不足物資の公平な販売や優良顧客への優遇策なども可能になるでしょう」
今後の人口減少時代、顧客確保がより大きな課題となることは間違いない。オンラインを活用して効率性や利便性を高めるだけでなく、適切な顧客と密接なコミュニケーションを取り、親和性を高める手法も有効だ。デジタルの力をもってロイヤリティ向上に取り組む。これは今後を生き抜くひとつのポイントと言えよう。