「若者研究」、「次世代生活研究」、「ニューメディア研究」の3つをテーマに活動しているサイバーエージェントの次世代生活研究所。その中で、次世代生活研究として「キャッシュレス社会と次世代店舗」の研究に取り組んでいるのが、早川淳二さんだ。オンラインとオフラインの垣根がなくなるOMOにおいて、実店舗の果たす役割はどう変わるのか。先行する中国やアメリカのように、これから日本でもOMOは浸透するのか。中国・アリババグループが展開するスーパーマーケット「フーマー」の事例を中心に、OMO時代に対応した次世代店舗について、話を聞いた。
次世代店舗は体験を提供する場 倉庫・物流拠点の役割も
OMOに対応した「次世代店舗」とはどのようなものか。研究の一環として各国の先進的な店舗を多数視察している早川さんが従来の店舗との違いとして指摘するのは、「体験」を提供することの重要性だ。
「店舗の役割が大きく変わり、単に商品を売るだけでなく、見る、触れる、品質を確認するといった『体験』をいかに提供できるかが、より重要となっています。あらゆる商品がオンラインで買える時代に、顧客がわざわざオフラインに足を運ぶ意味はそこにあるからです」
さらに、次世代店舗は「倉庫」および「物流拠点」としての役割も担うという。
「中国でアリババグループが運営するスーパーマーケット『盒馬鮮生(以下、フーマー)』はデリバリーにも対応していますが、オンラインで注文を受けて配達するのは店舗に並んでいる商品です。売り場の棚が、いわゆるEC用の物流倉庫でもあるわけです。また、他社商品のピックアップ場所となっている店舗もあります。たとえばアメリカでは、スーパーやコンビニにAmazonの商品を受け取れるAmazonロッカーが設置されていますし、フーマーの最新店舗にも同じビルの上層階にあるスターバックスコーヒーのテイクアウト受け取り用ロッカーがあります」
次世代店舗の代表格といえるのは、やはりフーマーだと言う早川さん。事業者視点で見たフーマーの強さとしては、従来の店舗をベースにした改良ではなく、徹底して「ニューリテール(※)」を推進するために店舗の機能そのものをオンライン対応を前提に新たに設計し、成果を上げていることを挙げる。実際に、フーマーの売上はオンライン経由が60%以上を占めているという。
このオンラインの売上を支えているのが、強力なデリバリー機能だ。フーマーでは自社専任の配送スタッフを抱え、半径3km以内からのオンライン注文に対しては30分以内の配送を実現している。
「これにより店舗から3km圏内、かつオンラインとオフライン両方の需要をカバーすることができます。通常のスーパーの商圏は半径数百メートル程度なので、フーマーは圧倒的に広い商圏を確保していることがわかります」
一方、顧客の立場から見たフーマーの魅力はシンプルで、多様なニーズに応えてくれること、つまり「好きな方法で買える」ことだと早川さんは強調する。
「帰宅途中の電車の中からオンラインで注文して、ちょうど家に着くころに配達してもらいたい場合もあれば、店舗に行ってすぐに商品を持ち帰りたい場合もあるでしょう。フーマーなら、商品が欲しいと思ったときの状況に応じてどちらの方法も選択できます。また、店舗で商品の目の前にいる場合でも、大量のペットボトル飲料など重い商品を自分で持ち帰るのが大変なら、オンライン注文で30分以内のデリバリーにするという選択肢もある。オンラインもオフラインも関係なく、そのときの都合に合わせて好きな方法で買えるという顧客体験は、やはり非常に満足度が高いものです」
フーマーがこうしたビジネスモデルを確立できた背景には、もちろん、EC、実店舗、物流、決済インフラといったエコシステムを持つ「アリババグループ」という圧倒的な強みがある。しかし、オンライン/オフラインというチャネルの分類は、多分に提供する側の都合によるものだ。小売事業者として「顧客が好きなように買える」環境を追求すれば、オンラインとオフラインの垣根がなくなり、OMOへと向かうのは必然と言えるのかもしれない。
※アリババグループが掲げるオンラインとオフラインの融合=OMOを中心とした、 より高効率な次世代のリテールビジネスのコンセプト