顧客情報基盤の構築と並行して良好な関係構築も忘れずに
OMOの推進においては、「顧客情報基盤の構築」も欠かせない。その第一歩として必要となるのが、どのチャネルでいつ誰が購入したのかを、すべてのチャネルで把握できるようにする「チャネルをまたいだ顧客IDの統合」だ。
これを実現するには、店舗でアプリなどを活用して会員証をデータ化するところから始める必要がある。登録者に対して顧客IDを作成した後に、年齢・性別などの属性情報やいつ・どこで・何を購入したかという行動情報、そして同意を得た上で住所などの個人情報を紐付け、単一の基盤に統合する。すると、顧客単位でのLTVの可視化や、チャネルを越え企業全体で顧客とコミュニケーションすることが可能になる。ここで臼谷氏は、個人情報管理のポイントを付け加えた。
「GDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)など各種法規制への対応も忘れてはなりません。チャネルごとに管理企業が異なるケースでは、企業を跨いだ同意管理の仕組みが求められます。また、同意は継続的に取得し続けなければなりません。これらを踏まえると、顧客の属性情報と同意情報は分離して管理すべきです」(臼谷氏)
属性情報と同意情報を同一に管理すると、プライバシーポリシーが更新されるたびに顧客情報の刷新と同意を得る作業が発生し、企業・顧客双方の利便性が損なわれてしまう。個人情報管理をグループ内の他企業に任せている場合は企業間の同意も必要となり、現実的な運用方法とは言えない。こうした状況は、「プライバシーポリシーが更新された際に、再同意を自動的に取得し続ける仕組みの構築により回避することができる」と臼谷氏は説明した。
また、「顧客が自分自身で情報を管理できる仕組みを提供することも、良好な関係構築には必要」と臼谷氏は続ける。たとえば、ニュースレターの定期購読やパーソナライズされたコンテンツの提供を顧客自身が設定できる仕組みになっていれば、希望する商品の在庫が入った際にメールを受け取り、すぐに自分が好むチャネルで購入することも可能だ。
こうした情報提供は、顧客IDなどの基盤構築のみならず、顧客と合意が取れた上で実現するものと言える。つまり、顧客体験を向上させるには顧客から信頼を得なくてはならないということだ。そのためには、どのチャネルに訪問しても同じ商品情報を閲覧し、同じ購入体験ができる環境の提供は欠かせない。チャネルに依存しないデジタル基盤を構築し、信頼関係を築くことができれば、顧客からより多くの情報を収集することが可能となる。その後、さらにAIなどのテクノロジーを活用すればレコメンドの精度も高まり、自然と顧客とのつながりも強固なものとなっていくはずだ。