シームレスな顧客体験提供に欠かせない物流 解決すべき課題とは
これから新ブランドを立ち上げる、もしくは今からEC販売を強化する企業にとって、「安価に」かつ「新しい」仕組みを導入したいと考えるのは至極当然のことと言えよう。実際に、髙橋氏が小橋氏にバックヤード構築の依頼をした際も、「安価に次世代型オムニチャネルの実現をすること」が大きな命題としてあり、具体的には次のような要望を伝えたと言う。
- ECと実店舗でのシームレスな購買体験構築
- 卸販売に対応可能な受注管理の実現
- 経営判断できる売上&在庫管理システムの導入
これらの項目をどのように実現したかを紐解くにあたり、小橋氏はまずネット通販と小売のこれまでの歴史を解説した。日本においては、1997年の楽天市場オープン、そして2020年のAmazon上陸が転換期を迎える大きなきっかけであったと言えるだろう。2000年代以降は購買活動の場がオンラインに広がり、小売の世界も商品中心から顧客中心へと変貌を遂げている。
顧客中心で商売をする上で欠かせない考えが、シームレスな顧客体験を描くことだ。目に見える形こそ異なるが、顧客からすればもはや実店舗もECも「商品を手に入れることができる場」としての差異は存在しない。そして、デジタルが人々の生活に浸透するにつれ、「どちらでも同じ商品が同じタイミングで手に入る」という環境を提供しないことには、顧客の体験を損ない、選ばれるブランドになることは困難となる。
「中国でアリババグループを創業したジャック・マー氏は、2016年に『純粋なeコマースの時代はもうすぐ終わり、ニューリテールの時代になる』といった考えを提唱しています。そこに欠かせないのが、物流です。オンラインとオフラインの売場が結びつくだけでなく、そこにものの流れという要素が加わることで、新たな買い物の世界が実現するのです」(小橋氏)
ここで小橋氏は、オンオフの売場の融合を進める企業の実例として、アメリカのウォルマートが行う「BOPIS(Buy Online Pick-up In Store)」や、メイシーズが行う「Scan&Pay」を紹介した。これらはOMO(Online Merges with Offline)の取り組みでありながら、欲しいものを欲しいタイミングで購入し、受け取ることができる仕組みという意味では、顧客体験向上の取り組みとも言える。ここで重要になるのが、実店舗やECの「その場」で提供する機能性を向上するだけでなく、顧客の生活そのものをイメージし、デザインすることだ。
「日本でも、欲しいものを欲しいタイミングで購入する、という仕組みは近年整いつつあると言えます。しかし、欲しい場所で受け取るという体験提供は、海外と比べるとまだ改善の余地がある状況です。たとえば、スマートフォンで注文した商品を受け取るために、レジに並ばなければならない。これは決してシームレスな体験とは言えません。ここをどうデザインするかが、顧客体験向上における今後の課題と言えます」(小橋氏)