中国式OMOが実現する市場拡大 データとサービスの連携がもたらす変化とは
小林氏は、世界各国の状況を踏まえた上で「コロナ禍の後に待ち受けるアフターデジタルの時代には、OMOが重要となります。これまでの小売のデジタル戦略はあくまでリアル中心で、オンラインはオフラインの価値を補完する、もしくは付加価値になるものと考えられてきました。しかし、今後はオンラインとオフラインを一体のジャーニーとしてとらえる考えかたにシフトしていくはずです」と語り、日本のECの方向性を示唆した。
では、EC先進国の中国では実際どのようにOMOが進められているのだろうか。まずひとつめにキャッシュレス決済やIoTプロダクトなど、すべての顧客接点をオンライン化するという流れがある。その代表例として、アリババグループが展開するスーパーマーケット「フーマー(盒馬鮮生)」が挙げられた。同スーパーでは、アリペイでの決済を軸として、宅配や実店舗でのキャッシュレス決済利用、電子決済後に倉庫で購入品をピックアップするダークストア型の店舗運営など、顧客にさまざまな選択肢を提供し、それらをひとつのアプリで活用できる仕組みが構築されている。
これは顧客の利便性を高めるだけでなく、利用者の動きがすべてデータ化・可視化することで実店舗側にとってもメリットとして作用している。たとえば、データから利用者の購買エリアを分析し、新店舗の出店戦略を立てるなど、経営戦略にも活用することが可能だ。
このように中国でOMOが急速に発展した理由を、小林氏はこのように語る。
「日本は新しいことを始める際に、ホワイトリスト(していいこと)を基に行動します。一方中国では、ブラックリスト(してはいけないこと)を定めた上で行動するため、新たなことにチャレンジしやすい環境と言えます。中国と日本はそもそも市場の大きさのみならず、法律や制度といった外的要因も大きく異なる国です。中国がEC先進国だからと言って、その手法をそのまま日本で実践するのは、なかなかハードルが高いでしょう」(小林氏)
しかし、日本でもOMO視点からのアプローチは増え始めている。そのひとつとして、小林氏はクックパッドの取り組みを例に挙げた。同社は、オンライン上でレシピサービスを提供しながら、POSシステムと連携したチラシ配布を行い、購買データからユーザー動向を見出すというサービス展開を行っている。横断的にデータを管理することで、オンオフの境目をなくそうとしていることがうかがえる。
「こうしたOMOの実現には、データベースやマルチデバイス対応、マルチチャネル対応、そしてデータとサービスの戦略的連携が必要になります。すべてを網羅するには、全体を俯瞰する構想力が欠かせません。あくまで、OMOは目的ではなく手段です。オンラインとオフラインの垣根がなくなる中、顧客はどのような形の体験を求めているのか、さまざまな国の事例を情報収集しながら最適な顧客体験を考えることが重要となります。自社の顧客に最適な体験が本当にOMOであるのかも、一度検討する必要があるでしょう」(小林氏)