OMOを実践する前に押さえておきたい環境の変化と対応法
次に小林氏は、日本で実際にOMOを実践する上で配慮すべきポイントについて紹介した。まず理解すべき環境の変化として挙げたのは、「モバイルの台頭」だ。Statistaの調査によると、2021年末までにモバイル経由のEC売上が15%増加すると予想されているが、とくに定期的に購入する日用品や購入することがあらかじめ決まっている商品、少額のものについてその割合が高いと見られている。
ここで必要なのが、自社のサービス・製品の購入におけるモバイル比率を再確認することだ。そして、Webサイトがモバイルフレンドリーになっているかを確かめることも欠かせない。未対応の場合は、買い物の途中でカート放棄されたり、検索プラットフォームでの順位が低下したりと、売上にマイナスの作用をもたらす可能性もある。たとえば今はパソコン経由での購買がメインであっても、長期的な視点で見れば影響があることは否めない。
各プラットフォームも、モバイルが台頭する中でさまざまな対応を行っている。そのひとつが、Googleが推進する「AMP(Accelerated Mobile Pages)」だ。モバイルページを高速に表示する手法で制作されたコンテンツのことを指し、ニュースサイトから始まって、ECにも対応が広がりつつある。ページ表示を高速化し、ユーザーフレンドリー率が上昇することで検索順位向上が見込めるほか、Googleが検索結果一覧に設けているAMP専用の枠に表示される可能性もあると言う。
もうひとつは、「PWA(Progressive Web Apps)」と呼ばれるものだ。PWAはAMP同様に高速化のメリットがあるほか、Webサイトをネイティブアプリのように設計でき、かつオフラインにも対応している点が大きな魅力となっている。PWAであれば、検索経由で流入した顧客にもインストールなしでアプリのような体験を提供することが可能だ。ログイン前のユーザー情報の取得・蓄積もできるため、いわばWebサイトとアプリのハイブリッド型サービスと言える。現状はAndroidのみでの対応となっているが、デバイスごとの開発が不要なことから注目を集めており、日本でも今後普及する可能性は高いと見られる。
なお、新たな顧客体験の創造において欠かせないのが、AIやVRなど最先端のテクノロジーだ。Statistaの調査では、AIの仮想アシスタントにより顧客と事業者間のギャップを解消できるという結果も報告されている。
さらにAIについては、Webサイトに加えてSNS連携によるパーソナライゼーションの可能性も広がりつつある。たとえば、既存のSNSやメッセンジャーツールでやりとりされたデータから顧客の要望を読み取り、AIが蓄積データの中から最適な商品を提示するといったことも実現可能だ。
また、AR/VRの実用化についても、とくにアパレル領域で注目を集めている。アメリカのあるファッションブランドは、楽天の子会社であるFits.meが提供するバーチャル試着ソリューション「Rakuten Fits Me」を導入したことでCVRを大きく伸ばし、とくに非アクティブユーザーの効果を上げることに成功したと言う。AR/VRの活用は、実店舗の来店動機づけが難しいコロナ禍で、実店舗誘導をうながす施策にも活用が進んでいる。