グローバルECの最新トレンドは、オンラインとオフラインが融合するOMOへ
「世界中の人が、すべてのデータに、母国語でアクセスできるようにする」をミッションに掲げ、Webサイト・アプリ多言語化ソリューション「WOVN.io suite」などを展開するWovn Technologies株式会社。既存のWebサイト・アプリにアドオンすることで最大43言語・76のロケール(言語と地域の組み合わせ)に対応し、新たな顧客体験を創出してきた。導入サイト数は1万8,000サイトを超え、大手企業を中心に多様な業種・業界の企業を顧客として擁している。
その背景には、日本国内のインバウンド需要がコロナ禍によって落ち込む中で、市場を海外に求める動きの活発化がある。大手企業を中心に海外・外国人向け戦略の拡大が進み、国境をまたいでサービスを展開する越境サービスや在留外国人への対応、そしてワークフローシステムのDX化にともない、社内のイントラネットや労務管理ツールなどにおける多言語化ニーズが加速していると言う。小林氏はまず、これらの事業を通じて同社が実感する「グローバルECの最新トレンド」について話を進めた。
小林氏は、最初にインターネットの利用状況について解説する。世界人口77.5億人のうち、携帯端末の利用者は7割弱である51.9億人を超え、インターネットユーザーは45.4億人、38億人がSNSを活用していると言われている。世界でDX推進の動きが進み、さまざまなサービスがデジタル技術を活用してオンライン化される中、ECもまた新たな価値の創造に寄与しているのは間違いない。FinancesOnlineの調査によると、グローバルECの小売売上は2021年までに4.9兆ドルに達すると予想されており、実際に日本国内でも多くの小売事業者がECに取り組んでいるのが現状だ。
しかし、「その反面で『EC化率20%の壁』が存在するのも事実」と小林氏は続ける。世界各国のEC化率を見ると、EC先進国と言われる中国で20%、アメリカにおいても15%を目前とするところで頭打ちとなっている。そして、残りの約8割に向けたアプローチにもそれぞれの国の違いが垣間見られる。
Amazonなどアメリカ発の世界的ECプレイヤーは、サービスを国際化して各国の20%を取りに行くことで事業拡大へとつなげてきた。いわばパイを広げて事業を拡大するというイメージであり、自国のみならず世界にビジネスを展開しやすいところもECの強みと言えるだろう。
一方、国内で世界人口のおよそ5分の1となる14億人を有する中国では、他国展開よりも自国内に存在する実店舗販売のシェアを獲得するほうが効率的として、オフライン戦略が取られている。実際にAmazonとアリババグループの事業成長状況を比べても、後者は明らかに中国本土を対象にビジネスを行っていることがうかがえる。
中国式OMOが実現する市場拡大 データとサービスの連携がもたらす変化とは
小林氏は、世界各国の状況を踏まえた上で「コロナ禍の後に待ち受けるアフターデジタルの時代には、OMOが重要となります。これまでの小売のデジタル戦略はあくまでリアル中心で、オンラインはオフラインの価値を補完する、もしくは付加価値になるものと考えられてきました。しかし、今後はオンラインとオフラインを一体のジャーニーとしてとらえる考えかたにシフトしていくはずです」と語り、日本のECの方向性を示唆した。
では、EC先進国の中国では実際どのようにOMOが進められているのだろうか。まずひとつめにキャッシュレス決済やIoTプロダクトなど、すべての顧客接点をオンライン化するという流れがある。その代表例として、アリババグループが展開するスーパーマーケット「フーマー(盒馬鮮生)」が挙げられた。同スーパーでは、アリペイでの決済を軸として、宅配や実店舗でのキャッシュレス決済利用、電子決済後に倉庫で購入品をピックアップするダークストア型の店舗運営など、顧客にさまざまな選択肢を提供し、それらをひとつのアプリで活用できる仕組みが構築されている。
これは顧客の利便性を高めるだけでなく、利用者の動きがすべてデータ化・可視化することで実店舗側にとってもメリットとして作用している。たとえば、データから利用者の購買エリアを分析し、新店舗の出店戦略を立てるなど、経営戦略にも活用することが可能だ。
このように中国でOMOが急速に発展した理由を、小林氏はこのように語る。
「日本は新しいことを始める際に、ホワイトリスト(していいこと)を基に行動します。一方中国では、ブラックリスト(してはいけないこと)を定めた上で行動するため、新たなことにチャレンジしやすい環境と言えます。中国と日本はそもそも市場の大きさのみならず、法律や制度といった外的要因も大きく異なる国です。中国がEC先進国だからと言って、その手法をそのまま日本で実践するのは、なかなかハードルが高いでしょう」(小林氏)
しかし、日本でもOMO視点からのアプローチは増え始めている。そのひとつとして、小林氏はクックパッドの取り組みを例に挙げた。同社は、オンライン上でレシピサービスを提供しながら、POSシステムと連携したチラシ配布を行い、購買データからユーザー動向を見出すというサービス展開を行っている。横断的にデータを管理することで、オンオフの境目をなくそうとしていることがうかがえる。
「こうしたOMOの実現には、データベースやマルチデバイス対応、マルチチャネル対応、そしてデータとサービスの戦略的連携が必要になります。すべてを網羅するには、全体を俯瞰する構想力が欠かせません。あくまで、OMOは目的ではなく手段です。オンラインとオフラインの垣根がなくなる中、顧客はどのような形の体験を求めているのか、さまざまな国の事例を情報収集しながら最適な顧客体験を考えることが重要となります。自社の顧客に最適な体験が本当にOMOであるのかも、一度検討する必要があるでしょう」(小林氏)
OMOを実践する前に押さえておきたい環境の変化と対応法
次に小林氏は、日本で実際にOMOを実践する上で配慮すべきポイントについて紹介した。まず理解すべき環境の変化として挙げたのは、「モバイルの台頭」だ。Statistaの調査によると、2021年末までにモバイル経由のEC売上が15%増加すると予想されているが、とくに定期的に購入する日用品や購入することがあらかじめ決まっている商品、少額のものについてその割合が高いと見られている。
ここで必要なのが、自社のサービス・製品の購入におけるモバイル比率を再確認することだ。そして、Webサイトがモバイルフレンドリーになっているかを確かめることも欠かせない。未対応の場合は、買い物の途中でカート放棄されたり、検索プラットフォームでの順位が低下したりと、売上にマイナスの作用をもたらす可能性もある。たとえば今はパソコン経由での購買がメインであっても、長期的な視点で見れば影響があることは否めない。
各プラットフォームも、モバイルが台頭する中でさまざまな対応を行っている。そのひとつが、Googleが推進する「AMP(Accelerated Mobile Pages)」だ。モバイルページを高速に表示する手法で制作されたコンテンツのことを指し、ニュースサイトから始まって、ECにも対応が広がりつつある。ページ表示を高速化し、ユーザーフレンドリー率が上昇することで検索順位向上が見込めるほか、Googleが検索結果一覧に設けているAMP専用の枠に表示される可能性もあると言う。
もうひとつは、「PWA(Progressive Web Apps)」と呼ばれるものだ。PWAはAMP同様に高速化のメリットがあるほか、Webサイトをネイティブアプリのように設計でき、かつオフラインにも対応している点が大きな魅力となっている。PWAであれば、検索経由で流入した顧客にもインストールなしでアプリのような体験を提供することが可能だ。ログイン前のユーザー情報の取得・蓄積もできるため、いわばWebサイトとアプリのハイブリッド型サービスと言える。現状はAndroidのみでの対応となっているが、デバイスごとの開発が不要なことから注目を集めており、日本でも今後普及する可能性は高いと見られる。
なお、新たな顧客体験の創造において欠かせないのが、AIやVRなど最先端のテクノロジーだ。Statistaの調査では、AIの仮想アシスタントにより顧客と事業者間のギャップを解消できるという結果も報告されている。
さらにAIについては、Webサイトに加えてSNS連携によるパーソナライゼーションの可能性も広がりつつある。たとえば、既存のSNSやメッセンジャーツールでやりとりされたデータから顧客の要望を読み取り、AIが蓄積データの中から最適な商品を提示するといったことも実現可能だ。
また、AR/VRの実用化についても、とくにアパレル領域で注目を集めている。アメリカのあるファッションブランドは、楽天の子会社であるFits.meが提供するバーチャル試着ソリューション「Rakuten Fits Me」を導入したことでCVRを大きく伸ばし、とくに非アクティブユーザーの効果を上げることに成功したと言う。AR/VRの活用は、実店舗の来店動機づけが難しいコロナ禍で、実店舗誘導をうながす施策にも活用が進んでいる。
サステナビリティへの感度向上やSNSでの購買など、環境の変化にも注目を
次に小林氏が挙げたトレンドは、「サステナブルな取り組み」だ。SDGsの広がりにより顧客の関心も上昇、リコマース、リバースコマースなどが浸透し、古着も一般化しつつある。すでに海外では、売れ残り商品を廃棄せずにアウトレットブランドとして安価に提供したり、レンタルなど新たな活用法を見出したりと資産化が進んでいると言う。
日本でもコロナ禍を機にサステナブルに対する注目度はアップしており、実際に取り組みを進める企業・ブランドも増えている。小林氏は、「2021年から2022年にかけて、日本でも広く浸透していくのではないか」と予測する。
技術の進歩により、外部のプラットフォームを活用する企業が増える中で意識すべきものとして、小林氏は「ボイスコマース」と「ソーシャルショッピング」を挙げた。アメリカではすでに3人にひとりが音声アシスタントやスマートスピーカーによる購買を経験しており、アメリカとイギリスでは2022年までにボイスコマース経由の売上が400億ドル以上になると予想されている。
「SNSも近年購入ができるチャネルへと進化しつつあり、FacebookとInstagramでは約10%、Pinterestにおいては約50%の人が欲しい商品を探す目的で閲覧しているという調査結果も出ています。このようなニーズが高まる中で、各SNSも購買につながる機能や仕組みを続々とリリースしています。SNSにおける施策展開を考え直す時期に来ていると言えるでしょう」(小林氏)
小林氏は、最適なタイミングで最適な価値提供を行う「ダイナミックプライシングの採用」について語った上で、OMOの実践にあたり配慮すべきポイントの最後に「増加する対応言語」について解説を行った。世界の主要150サイトのサポート言語数は平均33。近年で倍以上に増やした企業も存在すると言う。しかし、日本のWebサイトにおいて多言語化はほとんど行われておらず、「いわば多言語化後進国であるのが現状」と小林氏は語る。
「多くのユーザーは母国語で情報を入手したいと考えており、多国籍・マルチリンガルな人が多い欧州ですら、42%が『母国語以外のECサイトで商品を購入したことがない』と答えています。インターネットユーザーのうち、日本人が占める割合はわずか3%です。今後人口が減少してこの比率も下がる中で、多言語化には非常に多くの可能性が残されていると言えます。非英語圏の人口増加にも注目が集まる今、対応言語を増やすことでECの売上を大きく飛躍させることも夢ではありません」(小林氏)
新たな価値創造が求められる時代において、先陣を切って外国人対応を行う企業・ブランドの事例として、小林氏はオルビスと資生堂ジャパンの取り組みを紹介。「ぜひ海外の最新情報や取り組みに興味を持った人は、ご相談ください」と語り、セッションを終えた。
Webサイト・アプリの多言語化に興味がある/課題を感じている方へ
Wovn Technologiesは、Webサイト・アプリを最大43言語・76のロケール(言語と地域の組み合わせ)に多言語化し、海外戦略・在留外国人対応を成功に導く多言語化ソリューション「WOVN.io」および「WOVN.app」の開発・運営をしています。本記事で興味を持たれた方はぜひお気軽にご相談ください。詳細はこちら
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